第75話 捕獲される
どうやら巻いたようだと、ほっとしながら沈七は、家までの道を歩いていた。
辺りは、すっかり暗くなり、店の提灯が灯り始める。
杏仁豆腐を食べ損ねた。
普段なら、甘味をさらに買い食いする所だが、今日は流石に辞めておいた。
町の喧騒から、少し離れた路地を曲がる。
あと少しで、青蘭谷だ。
暗がりから、視線を感じた気がして、少し足早になる。
門の結界に触れようとした所で、手首を捕まれた。
「捕まえた」
「……」
驚き過ぎて声がでない。
あの視線は、気のせいじゃなかった!!!
ダァンッ!!
「ぐっ」
腕を捕まれたまま、壁に叩きつけられる。
「沈七。よくも俺を欺いてくれたな。」
息がかかる程の距離で睨まれる。
思わず、視線を反らしてしまった。
「この易容を解け。」
「……いやだ。」
「そう言うと思った。」
逃げようにも、凄い力で腕を掴まれ逃げられない。
身を捩って必死に暴れる。
しかし、抵抗も虚しく……
玄夜は涼しい顔で、トントンと霊力を封印する点穴をついた。
沈七は、身体を流れていた霊力が滞るのを感じた。
易容を保っていた霊力が巡らない。
急いで、顔をうつむける。
見られたくない。
グイッ
思い切り顎を掴まれ、強制的に顔を上げられた。
一瞬、玄夜は目を見開く。
「ああ……てっきり、沈七はあなたの弟子だと思っていました。まさか、師兄、貴方本人とは、思わなかった。」
「………」
「師尊を殺した貴方が………師尊を名乗るとは。やはり、狡猾な男だ。」
寒舟は、玄夜の瞳に宿る冷徹な光に、背筋が震えた。
私は、玄夜に嘘など付いていない。
あの時は、嘘など必要なかった。
結果的に、裏切ってしまったが………
今はもう、真実は何も語れない。
「師兄。殺されても文句は言えませんよね。」
「い、命だけは助けてくれないか?」
背負うものが、増えてしまったから。
死ぬわけにはいかない。
「今さら、命乞いなど無意味です。私は、貴方に会ったら殺すと決めていました。」
玄夜は、腰の黒雨をスルリと抜いた。
月光に、刀身が艶かしく光る。
切られる!!
寒舟は、思わず目を瞑った。
ヒュン
耳元で風がなる。
まさか、また弟子に殺されるなんて。
しかし、何時までたっても痛みが来ない。
………あれ?
閉じていた目をうっすらと開ける。
玄夜が苦悶の表情で震えていた。
首に突き付けられた黒雨。
玄夜は、必死に私の首を断ち切ろうと力を入れている。
しかし、刀身は震え、一向に動かない。
「……?」
「師兄、何をした?」
「……いや、何も。」
ついに、黒雨を地面に落とし、今度は殴りかかってきた。
「よくも!!」
殴り殺す気か!!
振りかぶった、拳が眼前に迫る。
ピタッ
「?」
眼前で止まった。
「お、おのれ寒舟っ!!!」
寒舟は、目を瞬かせた。
ど、どういう事だ?
なぜか、切られも殴られもしなかった。
そっと、門の結界に近寄る。
急いで、自分で点穴を解く。
今だと、門の中に滑り込んだ。
結界の内側に滑り込んだ寒舟は、その場にへたり込んだ。
「……た、助かった」




