第74話 捕獲されかける
沈七は、食卓に並べられた料理に、舌鼓を打っていた。
確かに、東坡肉は蕩けるようで、あっという間に無くなってしまいそうだ。
酢豚も、酸味が丁度いい。
小籠包は、熱々の汁が中からあふれ出す。
美味しい。
もぐもぐと、あっという間に平らげていく。
一口が大きい。
それが、不思議と上品に見える。
すごく、美味しそうだ。
沈七の食べっぷりを見ていた、何人かは同じ物を注文した。
とうとう、最後の一口。
取っておいた東坡肉のお肉を口いっぱいに頬張った時だった。
「………美味しいですか?」
「もごっ?!」
何処かで、聞いたような声………
そんな、筈はない。
彼は、魔教にいるはずだ……
ゆっくり、顔を上げる。
そこには…………
玄夜。
ゴクッ
「……うっ、ぐぅぅ!!!!」
喉に詰まった。
まずい!!!
スッと、差し出されるお茶。
急いで、飲み干す。
何とか、肉の塊を呑み込めた。
「はぁはぁ。」
死ぬかと思った。
「沈七?」
にこっ
まるで、正派の貴公子のような格好をしている玄夜。
弟子だった玄夜が、そのまま大きくなったような姿に、沈七は一瞬見とれた。
すっと、玄夜の手が沈七に伸びる。
「!!!!」
捕まる!
そう思った時には、財布を机に放り投げ、ものすごい速さで店を後にしていた。
「な、何でこんな所に………?!」
人混みに紛れながら、沈七は呟いた。
後ろを振り返るが、どうやら追ってきていないようだ。
でも、念のため近くの呉服店に入る。
服を買って着替えようとして、気付いた。
さっき、全財産の入った財布を放り投げてしまった!!!!
「お客様、どうしました?」
「あはは、何でもない。ん~今日は好みの衣が見つからないなぁ、また改めて来よう。」
「そ、そうですか。」
明らかに、挙動不審。
入口の所で外を確認する。
右にも、左にも前にも、玄夜はいない。
そっと店を出る。
「………沈七。」
「うわぁっ!!」
上、屋根の上にいた!!
沈七は、また慌てて逃げ出す。
怖い。
町の中を逃げて、人混みにまぎれて…
狭い建物の隙間に飛び込んだ。
そして、挟まった。
「……しまった。」
「た、食べすぎた。」
なんとか、身体を引き抜く。
また逃げる――。
必死に逃げる事、二刻。
すっかり夕方になってしまった。
暫く、玄夜とは遭遇してない。
何とか、巻けたのか?
馬小屋の藁の中に暫く隠れていた沈七は、
ひょこっと顔を出した。
……とても、しつこかった。
今、正体に気付かれるわけにはいかない。
ただでさえ、大変な状況なんだ。
これ以上は、受け止めきれない。
沈七は、衣に着いた藁をパタパタと叩くと、
周囲を警戒しながら帰路についた。
立ち去る沈七の背中を見つめながら、薄暗がりに隠れていた玄夜は呟いた。
「……今度こそ、逃がさない。」




