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第73話 ついに再会

「はぁ…」


ある寒い冬の日。


寒舟は、ため息をついていた。


最近は、休む暇もない。


家門に来た依頼も重なり、気を張ってばかりだった。


正直、ストレスが堪っている。


決して、嫌という訳ではない。


だが、とても疲れた。


一度、この鬱屈した気持ちを発散させたい。


誰も、自分だと分からないようにして、思い切り食べ歩きしたい。


町で遊びたい。


もう、我慢ならない!!!


ガバッ


音がするほど、勢いよく寒舟は立ち上がった。


紫の衣から、薄茶色の地味な衣に着替える。


鏡の前で、袖を一振。


地味で平凡。


何処にでもいそうな顔。


久しぶりに、沈七になった。


ここでなら、この顔を知る者はいない。


自由に過ごせる。


今日は、もう執務も家門の依頼もしない。


勝手気儘に一日過ごす!!!


バンッ


「きゃっ!」


勢いよく、扉を開けると麗華が、丁度扉の前にいた。


「わっ、ご、ごめん……」


「その声。誰かと思ったら、清月様ですか?」


「ああ。」


「驚きました。変装して、お出かけですか?」


「ちょっとな……」


「遊びに行かれるのですね。家の事は、心配なさらないで。私がやっておきます。ゆっくり、してきてください。」


麗華は、心を読めるのだろうか?


寒舟は、いそいそと家を出た。





ここに来てから、町には何度か行った。


でも、今日は気分が違う。


誰も沈七の事を知らない。


肉まんを蒸す湯気の立ち上る屋台。


人々の賑やかな喧騒。


沈七は、その光景に思わず頬を緩めた。



ふわりと香る焼き串の香り。


ふらふらと、屋台に近づいていく。


美味しそうな鶏肉串だ。


「一本貰おう。」


店主に硬貨を支払い、一口頬張る。


花椒が効いている。


舌がぴりりと痺れる。


美味しい。


串を食べながら、町をぶらつく。


次は何を食べようかな。


ふと、行列が目に入る。


この世界に戻ってきて、これほどの行列を見るのは、初めてだ。


看板を読むと、酔仙楼(すいせんろう)。


酒楼のようだ。


並んでいる男に声を掛けてみる。


「すみません。皆さん何でこんなに並んでるんですか?」


「知らないのかい?ここの東坡肉は、絶品なんだよ。口の中で、肉が蕩けると評判だ。」


「……肉が蕩ける。」


ジュル…


おっと、いけない。


急いで、袖で口許を拭う。


「ありがとうこざいます。私も、並んでみます。」


「おう、並ぶだけの価値はあるから、安心しな。」


男に手を振り、最後尾に並ぶ。


最近は、忙しさに追われ、こんな楽しみも忘れていた。


……そもそも、私は料理人。


人気店のトップシェフだった。


当然、美味しい物は、それなりに食べて来た。


どれだけ、美味しいのか確かめてやろう。


そして、あわよくば私の料理の参考にしてもいい。


「くふふふ。」


楽しい。



長いように感じた行列も、色々考えを巡らせていたら、あっという間だった。


一階の1人席に通される。


それなりに広い店内は、もちろん満席。


二階席は、個室になっている。


早速、店員に声をかけ注文する。


「東坡肉と、酢豚。あとは、小籠包に杏仁豆腐をお願いする。」


「かしこまりました。」


ふふふ、楽しみだ。


少しだけ、首をかしげて笑う。


おっと、気を付けなければ……一人でにやにやしている、気持ち悪い男になってしまう。


私は、慌てて表情を引き締めた。




二階席。


玄夜は、一階全体が見渡せる個室を貸しきっていた。


ここ最近、毎日やってきては同じ個室を借りている。


高要は、疲れきっていた。


正直、いくら美味しくても、もう料理も飽きてしまった。


君上は、それほど通いつめている。


万一にでも、沈七が現れるとは思えない。


寒舟の屋敷を監視している密偵も、怪しい人物は現れていないと報告を受けている。


下汚門に頼んでいるが、芳しい結果は出ていない。


こんな場所へ、ふらりと現れるような人物なら、

すでに見つかっているはずだ。


魔教で君上に取り入った、彼の手腕を見ても、並みの人物ではない。


それなのに………


君上は、今日もまたやって来た。


君上の能力は、申し分なく、忠誠を心から誓ってはいるが、今回ばかりは、納得できない。


もう、こんな不毛な事は辞めるよう進言しなければ。


それも、臣下の役目だ。


意を決して、口を開こうとした時だった。


君上が、小さく呟いた。


「………見つけた。」












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