第72話 転落
盟館。
盟主の部屋で、寒舟は拱手をしていた。
相変わらす、穏やかな表情に灰色の衣。
優しく誠実そうに見える。
見た目だけなら。
「柳寒舟、よくきたな。」
「盟主様、私の事をお呼びだと聞きました。」
盟主は、茶器を準備し、湯飲みに赤茶の茶を注いだ。
「寒舟。最近西方より仕入れた茶だ。一杯どうだ?」
「結構です。」
「ははは、そう警戒するな。今回は、何も入っていない。」
盟主は、自分で入れた茶を一口飲んだ。
「いい香りだ。渋みが少なく美味しい。」
「盟主様。お話とはなんでしょう?」
「まぁ、焦るな。この茶は紅茶というらしい。白茶や烏龍茶、緑茶と同じ木の葉から作られるそうだ。蒸し方や発酵の違いだけで、こうも味が変わる。不思議だと思わないか?」
「………」
「作り方が違うだけで、元は同じものなのだ。
私とお前もそうだとは、言えないか?
寒舟、お前が師を殺したのはなぜだ?その力や名誉が欲しかったのではないか?」
元の寒舟は、商家の三男だった。
兄達と比べられ、町のごろつきとして悪名高かった。
力や名誉が欲しかったのも確かだろう。
だが、決してそれだけではなかったはずだ。
寒舟として生き返り、彼の人生を歩んでいるからこそ分かる。
私の死のあと、彼がどれ程苦しんだのか。
だから、答えは……
「いいえ。」
「強情だな。今日、お前を呼び出したのは、我々の仲間になって貰おうと思ったんだ。」
「仲間?すでに、正派武林盟の仲間ではありませんか?」
盟主は、穏やかに笑う。
「そうではない。もっと、崇高な理念を掲げている組織の仲間だ。強者といわれている奴らを凌駕する程の力を得られるかもしれないぞ。」
「遠慮しておきます。不相応な力は欲しくありません。」
「あはははは!!!」
盟主は、突然笑いだした。
歪んだ笑みは、人ではないような無機質さを感じる、異様な表情……
瞬間、急に正気に戻ったように、無表情となり、寒舟に告げる。
「お前に、拒否権があるとでも?」
ズキン
「ゔっ、あっ...」
腹の中で何かが、蠢いた。
寒舟は、堪らずその場に蹲った。




