第70話 幻の花
この味は………
雪火白蘭ではないか?
百年に一度、深い森の奥。
大雪の後に、最も気温が下がった日に開花する。
何千という白い花が一斉に咲き誇り、花から放たれる熱気で、周辺は春のような暖かさになる。
一週間で、全ての花は枯れ、何事もなかったように、雪原に戻るという。
幻の花。
毒性がある。
しかし、使い方次第では、万薬の長とも呼ばれる。
前世薬仙であった私でも、一度しか目にした事がない。
手の中の白磁の壺を眺める。
その花の蜜が、まさか………
「安慈様、この蜜はどこで?」
「深い山で採れた、百花蜜だと貰ったのだ。」
「病の原因は、この蜜かもしれません。お食べになられましたか?」
「…………食べた。」
ふいっと、顔を背け不満そうな安慈。
「他の、長老達もですか?」
「皆で、食べた。」
「そうですか。この蜂蜜は雪火白蘭という、珍しい毒花の蜜ですね。」
「なっ!!毒だと!!蜜をくれたのは、親しくしている猟師の親子だ。なぜ、私達を殺そうとするんだ?」
「落ち着いて。その親子も知らなかったのですよ。自然毒といってたまに、ある事です。冬に蜂蜜が採れる事は、ほとんどありませんから……珍しと思い、自分達は一口も口にせず、親しい長老様に差し上げたいと思ったのでしょう。」
「そ、そうか。意図的では、なかったのだな。」
「猟師を攻めないであげて下さい。解毒は、簡単なので、すぐに雲修様に説明しますね。」
寒舟は、踵を返し外で待っているであろう、雲修を呼びに行こうとした。
「…………まってくれ。」
「?」
「………実は、我々長老は、雲修に甘いものを禁止されているのだ。」
「禁止ですか?」
「………以前、甘味を食べ過ぎ身体が重くなってしまった事があってな。禁止されたんだ。でも、我慢できず、四人で深夜に集まって茶会をしていた………」
安慈様は、必死に言った。
「今回の事は、黙っていてくれないか?」
「…………安慈様。雲修様は、厳しいとは思いますが、言ってる事は正しいですよ。甘味を取りすぎると、足が失くなる事もありますから。薬師として、黙っていている訳にはまいりません。」
「………では、病の原因だけでも秘密にしてくれないか?隠れて甘味を食べて、毒に当たるなど恥ずかしい。」
「…………わかりました。病の原因は秘密にしましょう。その代わり、報酬は全て要りませんので、この蜂蜜をくれませんか?」
「………いいのか?」
「はい。でも、戸棚のお菓子は報告しますよ。」
安慈は、渋い顔をした。
「ぐぬぅ…………」
「ですが、我慢し過ぎもよくありません。もう一度長老様方を診察して、1日に食べれる甘味の量を雲修様に、相談しましょう。」
「…寒舟殿………ありがとう。」




