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薬仙の帰還  作者: 夏目葵
7/8

第七話 お医者さんですか?

ふぅ。


疲れた。


今日も1日料理を作り続けた。


楽しいけど、疲れた。


部屋に戻って、鏡の前に座る。


特殊な薬で、人皮面具を剥がす。


1日に、一度は張り直さないと、僅かながら違和感がでる。


剥がしたあとに現れたのは、柳寒舟の顔。


薄い灰色の瞳は、何時も笑ったように細目られている。


顔の造形としては、かなり美形の部類。


でも、何を考えているのか分からない胡散臭さがある。


表情筋が、固まったように動かない。



彼が子供の頃は、もっと表情が豊かで、感情を隠すという事はなかった。


どちらかというと、はっきりとした裏表の少ない、性格だったと記憶している。


私はなぜ彼の身体に憑依したのか。


考えても分からない。


本当であれば、もう二度とこの血なまぐさい世界に戻ってきたくなかった。


私は、目を背けている。


自分でも分かっている。


薬仙が死んで、13年。


長い月日が経っていた。


私が、日本で過ごしたのは、35年。


すでに、薬仙であった過去が夢のようだった。



なぜ、戻ってきたのか。


分からない。


分からなすぎて、腹が減った。


もう寝よう。



~~~~~~



翌朝。


再び、人皮面具をつける。


髪を一つ結びの三つ編みにし、後ろにはじく。


お気に入りの香を付け一息。


半刻ほどしたら、一階に下りて、今日の仕事がはじまる。



毎日忙しい。


幸せなことだ。


お昼時、今日も裴兄がやってきた。


この人、忙しいといいながら、毎日来るし、町の外に出ようとすると、何処からともなくやってきて、邪魔をする。


働いているようには、見えない。



「こんにちは。今日も何時ものですか?」


「ああ、頼む。」


「そうだ、今日から氷菓子を出すことにしたんです。上にかける蜜も、手作りですよ。」


「氷菓子。氷は、高いだろ?」


「私の氷功でつくりました。」


「・・・・そうか」





~~~~~~


ようやく、お昼時の賑わいが落ち着いた。


「沈七。昼休憩、先にとってくれ。」


「わかりました。」


賄いの光七鳥の揚げ鳥と饅頭。


座れる席を探す。


あれ、裴兄まだいたんだ。


暇な人だ。


「裴兄、隣いいですか?」


「かまわない。」


さっと、席に座る。



揚げ鳥を手にもち、大きな口を開けた時だった。



「神医様は、いらっしゃいますか!この子を助けて下さい!」


幼い少女を抱いた女性が駆け込んできた。


見たところ4歳くらいだろうか。


ぐったりとして、意識がない。


顔も赤く熱があるようだ。


「こちらに、神医。雲角仁(うんかくじん)様が、いらっしゃると聞きました。お願いです。娘を助けて下さい。」


雲角仁。


聞いた事がない名前。


私が、いない間に、新しく現れた者だろうか。


店の一番奥。


食事をしていた老人が立ち上がる。


「私が、雲角仁だ。娘をこちらに。診察してみよう。」


老医師は、娘の脈をとると、すぐに言った。


「これは、霊虫だ。すぐに、虫下しを飲ませよう。」


「娘は、治るのですか?」


「私が、持っている霊薬を飲ませれば治る。」


老医師は、懐から薬瓶を取り出すと、少女に一口のませた。


「げほ、げぼ。ごぼっ」


少女が、吐き出した真っ黒な液体の中に、白い虫が数匹蠢いている。


「本当に、虫がでた!霊虫は、見抜くのが難しい。気付かなければ、この娘は死んでいたぞ。まさしく神医だ。」


客の男が叫ぶと、周りの者たちも、


神医だ、神医だと騒ぎだした。



~~~~~~



「へぇ、大したものだな。」


吐き出された虫を見て、裴玄夜は感心した。


少なくとも、周囲の者たちが騒ぐのも無理はない。


ふと、傍らの沈七をみる。


「裴兄。本当に、そう思いますか?」


いつもは、穏やかで優しい男の


厳しい表情に、目を見張る。


「霊虫の診断には、必ず火を使います。霊虫の弱点は火。火を軽く患者の皮膚にかざす。すると、霊虫は、逃げ出そうと患者の目に移動する。その時に、患者の瞼の下を捲ると、皮膚の下で蠢く霊虫がみられるんです。」


「よく、知っているな。」


「あの、老医師は火も使わず、瞼も見ませんでした。なぜ、霊虫とわかったんでしょうか。」



暫く「う~ん」と悩んでいたが、「考えすぎか」

と呟き、手元の揚げ鳥にかぶりつく。


「冷めました・・・熱々だったのに。」


少し残念そうに、ハムハムと揚げ鳥を食べている。


すっかり、元の沈七に戻った。


この男本当に何者だ?


先程の鋭い雰囲気。


まるで、別人のようだ。


これほど目立つ人物が、間者であるとは、思えなかったが・・・


~~~~~


1週間後。


崑崙閣の向かい。


空き店舗だった所に、医館〈雲角〉が開店した。








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