第六話 宝のありか
ふぁ ~~~~
おっと、いけない。
ついつい、大きなあくびを一つ。
今日は、初めての休日だ。
私は、崑崙閣の二階に、一部屋借りている。
二階は、住居スペース。
店主は、空いているからと、破格の値段で貸してくれた。
ほんとに、頭が上がらない。
今の時間は、巳の刻あたりだろうか。
そろそろ、出発しなきゃな。
実は私は、スパイスをコレクションしていたのを思い出したのだ。
この近くに。
前世使っていた秘庫がある。
こっそり取りに行くつもりだ。
ごそごそと身支度をすませた。
階段を下りると、店主の姿が見える。
「店主。私は、少し遠くまで出掛けてきます。
明日には、きちんと出勤するので、心配しないでください。」
「おう、気を付けろよ。」
ひらひらと、手を振って、店を出た。
市を通り、町の門まで向かう。
「何をしてるんだ?」
「むごっ?」
裴兄!どうしてここに。
「そんなに、食べ物を抱えて。どこに行くんだ?」
市を通り抜ける途中、気がつけば美味しいそうな食べ物を沢山かいこんでいた。
「ごっくん。少し、用事があって。これは道中食べるつもりで。朝食がまだだったので。」
「明らかに、一食分より多いが。」
「気のせいでしょう。」
くつくつと笑う裴兄に、苛立ちながら答える。
「町の外に行くみたいだが、俺も用があるんだ。一緒にいってもいいか?」
それは、まずい。
「いやぁ、実は、探す物がありまして。私一人で行きたくて。」
「そうなのか。でも、町の外は危ないぞ。沈七は、剣も持っていないじゃないか。」
・・・お腹空いてたから、剣忘れた。
でも針は、もっているから、大丈夫なはず。
包丁も持ってるし。
「俺が、ついでに護衛するよ。どんな探し物であっても、口外しないし、手伝うよ。」
「・・・・ 分かりました。」
そこまで、言われると断れない。
はっきり言ったんだから、
普通は、空気よむだろ。
こうなったら、振り切ってやる。
町の外にでて、軽功を使った。
昔から、軽功には、自信がある。
「へぇ、薄々感じてたけど、沈七は武功が使えるんだ。修為も高いみたいだし、以外だな。」
軽々ついてくる?!
暫く、追いかけっこをしていたが、振りきれない。
ハァハァ(;´Д`)
「もう、終わり?朝食食べ過ぎたんじゃない。」
にやにや。
こいつ、こんなに無礼なやつだったのか。
いくらお客様でも、ここは店の外。
丁寧に接するのは、やめだ。
「なんで、私についてくるんだ!」
「もう、諦めなよ。早く行かないと、夜になるよ。」
ふん、もう知らん。
無視しよう。
昔の記憶を思い出し、森の中を抜け、崖を下り、
川を渡った。
武功あってよかった。
久々に使ったけど、衰えてないようだ。
身体の違和感も、徐々にうすれていく。
ようやく、たどり着いたのは、一つの巨石。
この下に秘庫がある。
血を一滴石に滴し、呪を唱える。
「南方より吹く風。香りは万香のごとし。」
ゴゴゴゴ
岩が、徐々に移動し階段が現れる。
「・・・っ、これは。」
ずっと黙ってい裴兄が、ついに口を開いた。
「ここは、薬仙。沈清月の秘庫。」
「なぜ、お前が知っている。」
鋭い眼光。
怖い。
なんで、怒ってる?
「昔、偶然手に入れた古地図がありまして。」
「偶然?」
「はい。」
「偶然そんなものを?」
「・・・人生には色々あるんですよ。」
くるしいか?
「・・・そうか。」
まさか。納得した?
「中に、入ろう。」
夜明珠に照らされた、階段を下ると、薬草が納められた倉庫がある。
私は、真っ先に目的の物にかけよった。
シナモン、胡椒、セ― ジ、タ―メリック。
「ああっ!」
バニラビーンズまで。
やったぞ!
私、よくぞ集めた。
「それは、何だ?」
「これは、スパイス。私の宝です。」
「いや、他にもっとあると思うけど。」
「そうですか?私には必要ないので、裴兄にあげます。」
ここにあるスパイス以外は、私が育てた薬草。
北方にある秘密の薬草畑には、腐るほどある。
陣法の力で、まだ昔のままそこにあるはずだ。
~~~~~~
ここは、師尊の・・・
俺が、死力を尽くしても見つけられなかった、
秘庫だ。
なぜ、沈七が・・・先程の話は本当なのだろうか?
懐かしい師尊の香りがする。
師尊からは、いつも薬草の香りと好んで使っていた香の混ざった匂いがした。
身体が震える。
師尊の痕跡。
周囲を軽く見回してみる。
貴重な薬材ばかり。
部屋に入るなり、真っ先に走り出した沈七を探す。
大きな麻袋に、顔を突っ込んだり、棚に入っている薬材を舐めたり、忙しい。
近づいても、気がつく様子がない。
「それは、なんだ?」
「これは、スパイス。私の宝です。」
・・・・・・。
本当に変わった男だ。
この男の高い修為を見るに、それなりの霊薬を服用しているはずだ。
普通は、ここにある幻と言っていいほどの、霊草、霊虫をみたら、誰にも渡そうとはしない。
相手を殺してでも、全てを手に入れたがる者もいるだろう。
それを。
いらないから、あげるだと?
変わっているを通り越して、怪しいとさえ感じる。
沈七は、今度はその辺りにあった、乾坤袋にスパイスを詰め込んでいる。
その他に、薬草も入れているようだが、何処にでもあるものばかり。
本当に、変な奴だ。
~~~~
「~~~♪︎」
思わず、鼻歌が漏れる。
私は、かなり満足していた。
やっと、スパイスが手に入ったのだ。
料理の幅が広がる。
ついでに、日頃から使いやすい薬草も乾坤袋に入れていく。
あまりにも、効能が高い霊草の類いは、一般の人には、毒となりえる。
使い勝手が、悪いのだ。
だから、今は、必要ない。
更に、物色していると、裴兄が小さな黄色い花をつけた霊草を持っているのが目についた。
受命幽凛花。
煎じ方によっては、死んだ者を生き返らせるほどの霊薬になる。
受命幽凛花の他にも、ここにはない霊物の内丹や、薬材が必要なので、簡単に作れるものではない。
「それ、受命幽凛花。」
「そうだ。今さら渡さないと言われても困る。」
「ちがう。受命幽凛花は、青い実を付けている物でないと、効果が半減するんですよ。」
えっと、確かこの辺にあったはず。
ごそごそと、棚をあさる。
あった。
「これは、実が付いてます。これを持っていくって下さい。」
「・・・・詳しいな。どうして、ある場所が分かった?」
「たまたま、裴兄より、先に見つけていただけです。あっ、それよりも彼処にある衣は、高く売れそうですね。」
失敗した。
取り敢えず、話をそらそう。
~~~~~~~
あからさまに、慌てている。
沈七は、一体誰なんだ?
高い修為に、料理、薬材の知識まで。
昔、師尊が着ていた浅葱色の着物。
沈七は、持ち帰るつもりなのか、自分で着てみるようだ。
深衣を羽織った沈七を見ていると、なぜだろうか。
容姿は、まったく違うのに、師尊を思い出す。
性格も、師尊とは違う。
師尊は、沈七のように軽口を叩ける人ではなかった。
厳かで、美しく、まさに仙人といった人。
全然違う。
だけど、なぜだろうか。
他人が、師尊の物に触れる事をなにより嫌う俺が、沈七には嫌悪感を感じない。
自分でも分からない。
「裴兄、どうです?似合ってますか?」
振り返った、沈七を見て一瞬だけ呼吸が止まった。
「似合っている。」
不思議な気分だ。
「そろそろ、帰りましょう。ここは、私たちだけの秘密にしてく下さい。裴兄なら、勝手に来て好きな物を持ち帰ってもかまいません。」
「はじめから、お前のものみたいな言い方だな。」
「見つけたのは、私ですから。私のものでしょう。」
~~~~~~
巨石を元通りの位置にもどし、
沈七と再び軽功を使い魔教の町、夜陵城まで、戻る事になった。
「ああっ!」
「なんだ、何事だ!」
沈七が、急に大声をだした。
「見つけました。」
「何を見つけた?」
「七光鳥です。」
「知っているのか?」
「羽が高級筆の材料になります。」
「ほう。」
「血は薬になります。」
「・・・。」
「肉は、揚げると絶品です。」
「結局食うんじゃないか。」
「大事なことです。」
シュンと、沈七が何かをなげた。
「やりました。」
今までの倍の速さで、森の奥に駆けていく。
「えっ。何処にいく。」
速すぎる。
いや、怖い。
もう、沈七が怖い。
~~~~~~
やっと、追い付くと、血まみれの沈七が、
佇んでいた。
「!!どうした、怪我したのか?」
「血抜きをしたら、返り血浴びました。一刻も早く、血抜きをしないと。臭みが出るので。」
巨大な虹色の鶏を手に、血走った目で、息を荒くしている。
だれだ、さっき少しだけ師尊みたいだと思った奴は。
似てない。
むしろ、似ていてほしくない。
「まだ、あと2羽います。これ、持っててください。」
ずいっと、差し出された鶏に、思わず後ずさる。
シュバッと、あっという間に消えた沈七。
あんなに速い軽功初めてみた。
残像見えたぞ。
・・・沈七、あいつは。
食の魔物だ。
なんだかんだあって、夜陵城についたのは、戌の刻だった。
血まみれで、巨鳥を三羽もった沈七は、門番に止められていたが、なんとか町に帰れた。
疲れた。
戦場を駆け回った日の方が、よほど楽だった。
沈七は上機嫌で鼻歌を歌っている。
乾坤袋には宝物のようにスパイスを抱え。
肩には巨大な七光鳥。
まるで遠足帰りの子供だ。
理解できない。
本当に理解できない。
だが。
不思議と嫌ではなかった。
師尊を失ってから十三年。
こんな気持ちになったのは初めてかもしれない。




