第五話 妙な常連客
青年は、とにかく毎日来た。
昼も夜も。
なんなら、両方とも。
暇なのだろうか。
私は、そっと窓際をみる。
今日もちゃんといる。
「沈七、あれ知り合いか?」
「知り合いというほどでは、ないです。」
でも、一度奢って貰った事がある。
「本当か?あれ、お前目当てだろ。ずっと見てるぞ。」
「ですよね。なんだか、ハムスターを見るみたいな、生暖かい視線を感じます。」
「なに、ハムスター?」
困惑する店主をよそに、沈七は考えた。
仕方ないなぁ。
この間、奢ってくれた
お礼をしよう。
そうじゃないと、もやもやする。
「ちょっと、話してきます。」
先ほど試しに作った、桃饅頭を手に青年に近づく。
「あの、毎日来てくださって、ありがとうございます。」
「沈七。この前そう呼ばれてましたね。」
「はい。貴方は、なんとお呼びすれば。」
「私は、裴。裴とよんでください。」
「それは、名字では」
「問題ありますか。」
「ありません。では、裴兄とお呼びします。」
「裴兄・・・・。」
忘れてた。
早く渡さないと桃饅頭が冷めてしまう。
「裴兄。以前奢って貰いましたよね。お礼に、試作品ですがどうぞ。一つは小豆と胡桃。もう一つは、カスタ―ドが入ってます。」
裴兄は、桃饅頭を前にして、固まっている。
桃饅頭を前にして微動だにしないなんて。
おかしい。
まさか!
「甘味が、嫌いですか?」
ならば、これは私が処理をして、新しい料理を持ってくるしか ・・・
「嫌いではない。」
そういって一口。
裴兄の動きが止まった。
「なんだこれは。」
一口。
さらに、もう一口。
珍しく、その目に驚きが浮かぶ。
「カスタ―ドです。牛の乳と卵を使いました。
美味しいでしょ。」
ふふん、胸をはる。
予想通りだ
前世でもカスタードは、人気だったからな。
「沈七。お前は、料理の天才だな。」
「えっ、はは。ありがとうございます。」
そんな、照れるじゃん。
思わず顔が緩みそうになる。
危ない。
昔は薬仙として大勢の前に立っていた。
この程度で、顔に出してはいけない。
「この饅頭。ぜひ、店で販売してくれ。また食べたい。」
「ありがとうございます。店主と考えてみますね。」
私は、青年と軽く雑談すると、ふわふわした気持ちで厨房に戻っていった。
なんとか、カッコつけられたぞ。
やっぱり、お客様に褒められるとやる気でる。
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???視点
ガシャーン――
激しい破砕音が魔天閣に響いた。
思わず肩が震える。
今日も機嫌が悪いらしい。
いや。
正確には違う。
機嫌の良い日など、もう何年も見ていない。
それでも最近は比較的静かだった。
祭事の日が近いからだろうか。
年に一度。
君上が自ら祭壇へ向かう日。
その前後だけは、不思議と荒れることが少ない。
もっとも。
それで病が良くなるわけではない。
君上の病は年々深くなっていた。
身体ではない。
心だ。我ら魔人の多くは、君上の強さに忠誠を誓っている。
同時に恐れてもいる。
君上は強すぎる。
強すぎるが故に、誰も近づけない。
昔は違ったと古参は語る。
笑うこともあったらしい。
怒ることも。人を救うことさえ。
だが私は知らない。
私が知るのは、
冷たい眼差しで玉座に座る君上だけだ。
それでも。
祭事の日が来れば。今年こそ。
今年こそ君上の願いが叶うのではないかと。
誰もが密かに期待している。




