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第63話 治療する

寒舟は寝台に縛られている四季の、元に香油を持って歩み寄った。


顔を横に向かせ、2人の護衛に押さえさせる。


「始めますね。」


ゆっくり耳の中に香油を注ぐ。


そのまま暫く待つと、耳の奥にいた哭面蟲が、

浮き上がってくる。


護衛の一人は、その不気味な虫を見て、息を飲んだ。


患者の前では、何を見ても冷静でいなければいけない。


寒舟は、護衛を睨みつける。


鑷子せっしを手に持ち、虫の身体を掴む。


「あれ?うわっ!」


四季の驚く声。


同時に、四季の身体が暴れだす。


護衛、四人がかりで押さえ込むが、かなり力が強い。


「身体が、勝手に!!!!」


四季の泣きそうな声。


寒舟は、狙いを定めて、哭面蟲を掴み直し、

引き抜く。


万が一にでも、脳を傷つけないように、慎重かつ迅速に…………


「ぐぅっ!!!!!」


四季は、今まで感じたことのない衝撃。


途端に、目の前が、真っ白に染まる。


長い針で、脳を直接貫かれたような激痛が走る。


……痛みは、一瞬だった。


暴れていた身体から力が抜けていく。


寒舟は、哭面蟲を小さな壺に入れ、蓋をする。


続いて、四季の脈や瞳孔を確認した。


意識もある。


顔色にも、少し赤みが戻ったように思える。


ーーーひとまず、成功だ。


安堵した寒舟は、壺の蓋を開け、改めて中の虫を摘まみ出した。


寒舟がもつ鑷子せっしの先には、泣き叫ぶような人面をした奇虫。


もう、死んでいるのか動く気配はない。


少し観察する。


やはり、哭面蟲で間違いない。


書物に記されているものよりも、一回り大きい。


模様というより、本当に泣き顔のような人面だ。


蜘蛛のような、12本の脚。


胴からは、細く強靭な針が生えている。


………この針を伸ばし、寄生するのだ。


一通り、哭面蟲を観察し終えると、静かに火盆の中に投じた。


気のせいではない。


この哭面蟲には、人為的なものを感じる。


あの時、小屋に向かってきた人の気配。


無関係とは思えない………



二刻後。


四季の顔色は、見違えるほど良くなっていた。


あとは、今夜だ。


眠っても症状が現れなければ、命は助かる。


寒舟は、もう1日だけ、四季の部屋の片隅に、布団を敷いて寝ることにした。


四季の様子を見ながら、片付けをしていると、

仁勇がやってきた。


「寒舟先生。慕容家の門主がお呼びになられています。」


「そうですか。今行きます。」


招いたにも関わらず、これまで一切の挨拶がなかった。


それでも、呼び出されるという事は、四季の事だろうか?


身だしなみを軽く整え、門主である慕容雪希(ぼうようせつき)に会うため、仁勇の後に続いて、歩き出した。




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