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第61話 原因

小屋に足を踏み入れた途端に、異臭がした。


濃く甘ったるい。


むせ返るような、強い香り。


部屋の奥には、一輪の不気味な花。


どうやら、臭いはこの花から出ているようだ。


赤く肉厚な5枚の花弁。


中央には、ゼリーのように柔らかな、緑の液体がたまっている。


四季は、その花に手を伸ばした状態で、倒れていた。


寒舟は、すぐに四季に駆け寄る。


やはり、目は瞑ったまま。


呼吸も脈も正常だ。


ふと、床を見る。


一匹の蟻が地面を歩いていた。


………冬に蟻とは、珍しい。



寒舟は、何故か気になって顔を近づけた。


「……うわっ!」


思わず、声が漏れた。


よく見ると、蟻の頭部分は、歪んだ人の顔のような形をしていた。


顔が、此方を向く。


歪んだ口元が、吊り上がったように見えた。


笑った気がした。


……気のせいか?


この虫はいったい……


蟻は、奇妙な花に引き寄せられるように、歩いていく。



ガサッ



「!!!」



遠くで、人の気配を感じた。


気配は、こちらに向かってきている。


誰かが、この小屋にやってくる。


「仁勇様。誰か来ます。逃げましょう。」


寒舟は四季を抱き抱えると、急いで軽功を使った。


来た道を引き返す。


後ろを少し振り返ると、仁勇もなんとか着いてきている。


周囲の木々があっという間に通りすぎていく。


あの、禍々しい気配。


明らかに、正派の者ではない、しかし魔教の魔功とも違う。


町にたどり着き、ようやく足を緩める。


「仁勇様。大丈夫ですか?」


「はぁ、はぁ。大丈夫です。四季様は……」


「ご安心下さい。寝ているだけです。」


仁勇は、ホッと息を吐いた。


寒舟は思った。


四季、四季の兄。


二人とも、夢遊病ではなく、操られていたのではないか?


あの虫。


かなり昔に本で見た。


哭面蟲こくめんちゅう)


宿主を操る珍しい寄生虫。


……動物に宿る虫のはずだが、なぜ人に?


それに、あの気味悪い花に引き寄せられているようだった。


「……様!寒舟様!」


気付くと、仁勇に肩を揺さぶられていた。


「あっ...」


「急に、どうされたのです?早く屋敷に戻りましょう。」


「すまない。急ごう。」


今は、とにかく四季の治療を、しなければ。


静かな夜の道に、二つの足跡が続く。


三人の背を覆い隠すように、降る雪は強さを増した……


 


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