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第60話 夢遊病

夜。


しんしんと、雪が降りだし、静寂が屋敷を包む。


四季のいる別館にも、夜の帳がおり、蝋燭の光が、室内を照らしていた。


寒舟は、四季の部屋で安眠香を焚いていた。


この香には、軽い睡眠効果がある。


夢も見ずに、安眠出来るはずだ。


四季は、食事や入浴を終えて、寝間着に着替えている。


布団から、顔を半分出し寒舟を伺った。


「………私は、本当に寝ても大丈夫なのですか?」


「昼間、見ただろう。私は、君を絶対守る。安心して眠りなさい。」


寒舟は、四季の頭を優しく撫でた。


四季は、少し恥ずかしかった。


でも、不思議と嫌な気持ちはしない。


「……子供扱いは、照れます。でも、安心しました。」


四季は、寒舟を見上げた。


普段は、蛇のような鋭さをもつ美貌。


昼間見たときは厳しい人なのかと思った。


しかし、ひとたび微笑めば、温かな優しさで満ちている。


その顔を見て、ようやくほっと息を吐き出した。


今まで、寝たくても恐ろしくて寝られなかった。


今日は、ようやく安心して熟睡できそうだ。




数刻後。


四季の穏やかな寝息が聞こえてきた。


規則正しい呼吸の音。


今のところ、よく寝ているだけだ。


寒舟は、茶を飲みながら、借りた本を読んでいた。


普段は、読まない恋愛物語だが、なかなか面白い。


不思議な事に、主人公の相手役の男の言動が、玄夜にそっくりだ。


やたら、ベタベタしたり、素っ気なかったり。


少し、玄夜が懐かしいな。


……私は、もう彼の師尊とは言えない。


結果的に、彼を裏切ったのだから。


もう、会うこともないだろう。


寂しい気もするが、仕方ない。


少し感傷に浸っていると、身動ぎする音が聞こえた。


本を置き、四季の様子を見る。


寝苦しそうにもがき始めた。


そして…………


ガバッと、突然起き上がった。


目は閉じたままだ。


先程と同様、寝息も聞こえている。


寝たまま、身体だけ動いている。


四季は、布団から抜け出た。


裸足のまま、廊下に出ていく。


どこに、行くのだろうか?


これは、夢遊病ではないのではないか?


まるで、誰かに操られている人形のようだ。



「寒舟様!!」


護衛していた、仁勇が駆けつける。


「しっ、静かに。このまま、後を追おう。」


「わかりました。しかし、何かあれば、助けなければいけません。離れす過ぎずに追いましょう。」


二人は、提灯に明かりを灯し、追いかける。


四季は、降り積もった新雪の上に、裸足のまま降り立った。


足跡を残しながら、裏山の方に歩いていく。


しんしんと、降り続く雪を払いのけようともせず、目を瞑ったまま歩き続けている。


まるで、何かに誘われるように……


「……寒舟様。四季様は、何処に向かわれているのでしょう?」


「分かりません。」


四季は、暗闇の中を歩き続ける。


裏山の奥に行くにつれ、雪も深くなる。


「仁勇様。このまま止まらないようでしたら、一度止めましょう。」


「そうですね。これ以上は危険です。」


二人は、こそこそ相談しつつ追いかけた。


寒舟が、四季を止めようと動いたとき、

ちょうど古びた小屋が見えてきた。


辛うじて、雨風を凌げるような古びた小屋だ。


何年も、放置されていたのだろう、今にも雪の重みに負けてしまいそうだ。


……どうやら、四季はその小屋に向かっている。


寒舟と仁勇は、顔を見合わせた。


四季が、中に消えたのを確認する。


二人は、音を殺して小屋に近づいた。







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