第58話 暗い影
ピチャン……
ピチャン……
鍾乳石から、水滴が滴る。
広い洞窟の奥。
そこに、幾重もの陣が刻まれた空間があった。
壁には無数の夜光珠が埋め込まれ、乳白色の光が暗闇をぼんやりと照らしている。
薄暗がりの中、黒衣を纏った者達が、百人近く並んでいた。
そろって、胸には、蛇の絡む蓮の紋様。
人々が、仰ぎ見る先。
一段高くなった岩の祭壇。
その中央に豪奢な王座。
そこに座すのは、仮面の男。
顔の上半分を隠す金龍の面。
血のように、赤い衣には、金の装飾。
男の傍らに立つ、側近が告げた。
「尊主様。我ら万象楼が、ここに集いました。」
仮面の奥から、低い声が響いた。
「よくぞ、集まった。我同胞達よ。」
「後一歩で、我ら100年の悲願が、完成する。
共に、より強い身体、永遠の命を手に入れようじゃないか!」
地響きのような、歓声が洞窟を震わせた。
「「「うおおおおお!!!尊主様!!!」」」
「鬼蠱師ここに。」
背が曲がり、皺だらけの老人が歩み出る。
「はっ。」
「若く、才能に溢れる肉体を用意せよ。誰にも知られず、秘密裏に用意するのだ。」
「かしこまりました。」
尊主は、ふっと笑った。
仮面から覗く口元が、弧を描く。
「成功した、暁には、換魂の許可を与える。」
「!!!!尊主!!ありがたき幸せ!」
老人は、黄色い歯を剥き出して笑った。
「ハッ、くしゅん」
「寒舟様。大丈夫ですか?」
ガラガラと、轍となった雪道を馬車が走る。
寒舟は、朝息子達と、雪遊びをしたせいで、
冷えていた。
なるべく、厚着をしたものの。
少し寒い。
「大丈夫です。お気になさらず。」
懐に、忍ばせていた生姜蜂蜜飴を、一粒口に放り込む。
甘くて、身体の芯まで暖まる。
風邪予防には、最適だ。
「寒舟様、それは何ですか?」
巾着を開いてみせる。
「生姜と蜂蜜、いくつかのハーブをブレンドした、特製飴です。食べますか?」
「いいの、ですか?」
「はい、どうぞ。」
仁勇は、ひとつ摘まんだ。
そして、味わうように舐める。
「とても、美味しいです。四季様にも、食べさせたいですな。」
「はは、多めに持っているので、差し上げましょう。」
仁勇は、アメの入った巾着を大切そうに、受け取った。
「ありがとうございます。」
「仁勇様は、公子を大切に思っているのですね。」
「幼い頃から、護衛として、お側にいましたから。」
恥ずかしそうに笑う、筋骨隆々の男。
……ああ、なんとかして、治してあげたい。
私は、心からそう思った。




