第57話 依頼
寒舟が、客間に駆けつけると、慕容家の使いという男が、座っていた。
年の頃は、40歳前後に見える。
がっしりとした体格で、慕容家の公服である濃紺に銀の刺繍が入った上衣を纏っている。
「お待たせいたしました。青蘭谷の門主。柳寒舟です。」
寒舟は、深緑の衣の長袖をはためかせ、拱手した。
「私は、慕容家の項仁勇。護衛頭をしている。」
仁勇も、立ち上がり、おなじく拱手した。
二人は、向かい合って、座る。
寒舟は、新しい茶を入れた。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
仁勇は、お茶を受け取った。
「それで、ご依頼をお伺いしても?」
「………実は、本門の子息が、立て続けに夢遊病になってしまって。先日、長男がとうとう行方不明になりました。」
「盟や、役所には相談していないのですか?
行方不明なら、私よりもそちらに相談した方がいいのでは?」
「門主は、それを望んでいません。公にしたくないのです。次男まで消えてしまうのではと、大変恐れています。」
「他の医師や、薬師には、見せていないのですか?」
仁勇は、顔を曇らせた。
「見せたのですが、誰も原因を特定出来ませんでした。」
「………そうですか。」
「……ですから、薬仙と名高い、寒舟様なら、治療できるのではと、此方を訪ねました。」
夢遊病というと、精神的な病の場合が多い。
私なら、身体の病は治せるものも多い。
しかし、心の病を治せるだろうか?
ただ、兄弟が相次いで同じ症状になったという点は、気がかりだが……
「すみません。私では、お力になれそうもありません。」
仁勇は、勢いよくひれ伏した。
「薬仙大侠!そこを、なんとか!頼れるのは、あなただけなのです!」
「ちょ、何をされているのです?」
寒舟は、急いで仁勇を抱き起こす。
「大侠!お願いします。坊っちゃんを助けて下さい!」
今度は、衣の裾にすがり付かれる。
「うわぁっ」
ごつい武人に、すがられて寒舟は、冷や汗をかいた。
「……っ、わかりました!分かりましたから、離れて!」
何とか、仁勇を引き剥がし、息を整える。
着物の裾を直し、ため息をついた。
「はぁ、でも、治せるかは分かりませんよ。それでも、良いですか?」
「構いません!ありがとうございます!」
再び、土下座しそうな仁勇を止めながら、寒舟は、どっと疲れた。




