第56話 客人
魔教。
魔天閣。
高要は、玄夜の部屋の前で、立っていた。
いつもの、黒と赤の護法用の衣ではなく、
地味な茶色の衣だ。
背負える分だけの荷物を持ち、待つこと半刻。
「…またせたな。」
ようやく、出てきた、君上を見て驚いた。
袖を絞った、武人風の青い衣。
長い黒髪は、高い位置で一つに纏められ、金の冠がよく映える。
いつも、後ろに流している前髪も、今日は下ろしていた。
…どこから見ても、正派の武人にしか見えない。
鋭い眼光も、前髪があるせいか、和らいで見える。
「……君上ですよね?」
「私以外、誰がいるというんだ。」
キッと睨み付けられる。
怖っ。
良かった、間違いなく君上だ。
「人皮面具も用意しましたが、そのまま行かれますか?」
「俺の顔は、あまり知られていないからな。」
歩く玄夜を追いながら、高要は聞いた。
「しかし、沈七にはバレるのでは?」
「それが、狙いだ。奴の正体は分からないが、俺を見れば、一目で気付く。少なからず動揺するだろう。どう出るか、楽しみだ。」
「……そうですか。」
チュンチュン
朝。
雪の積もった庭に、雀が足跡をつけている。
「夜の間に、降ったのか。」
寒舟は、呟いた。
青蘭谷に来てから、数日。
少しは、この生活にも慣れた。
「あっ、父様!」
「とーしゃま!」
「だぁう!」
可愛い声が聞こえる。
「!!」
反射的に、ビクッと身体が跳ねた。
ちょうど、妻の麗華と、三人の子供達が、庭に出てきた所だった。
もこもこと、厚着をさせられて、すっかりコロコロした姿になっている。
可愛い、可愛いけども...
また、見つかってしまった。
ここ数日は、特に盟主からの呼び出しもなく、
薬房で作業をしたり。
寒舟になりきるため、弟子達の剣の型を盗み見したりして過ごした。
おかげで、以前より寒舟として、自然に振る舞える。
ただ………
子供たちの前だけは、別だった。
演技しようとしても、どうしても素っ気なくできない。
気付くと、巻き込まれて泥まみれになって、一緒に遊んでいるのだ。
麗華には、バレてないだろうか?
不安ばかりつのる。
「父様~雪だるまつくろうよ!」
呼ばれてしまった。
やっぱり、無下に出来ない。
寒舟は、仕方なく息子達の方に向かった。
庭に、巨大な雪だるまが、三つ並んでいる。
何処と無く、三人の息子に似ている。
息子達は、それを見てキャッキャッと喜んでいる。
寒舟は、ふぅ……とようやく一息ついた。
やり遂げた。
なんだか、清々しい。
そんな時、寒舟に客人がやってきた。
使用人に、告げられる。
「慕容家より、客人がいらっしゃいました。至急
門主に、お目通り願いたいとの事です。」
……ここ数日で、初めてだ。
なんと、慕容家からの客だという。
寒舟は、自分の服を見下ろした。
雪遊びで、ドロドロ、びしょびしょだ。
「………」
「門主。どうしますか?」
「……少しだけ、待ってもらえ。いい茶菓子を出しておけ。」
「あなた。後は、私が子供達を見ておきます。」
ひとつ頷く。
「麗華。頼んだ。」
寒舟は、着替えるため、足早に自室に向かった。




