第55話 金蠱
すっかり、冷え込んだ夜半。
ゴーンゴーン、と遠くで鳴る寺の鐘の音が、澄みきった冬の空気に響く。
火鉢の炭がパチリと跳ねた。
寒舟は、自室で一人瞑想していた。
盟主に植え付けられた、金蠱。
名前の通り、金丹に巣くう。
薬仙だった自分が作ったらしい、最悪の蠱。
……でも、全く思い出せない。
夕陽の時と同じだ。
作り方を思い出せないから、解毒の方法も分からない。
自分には、解読出来ない陣法が金蠱の根本に書き込まれている。
やはり、いくら考えても、自分が作れる代物ではない。
分からない…
押さえ込める方法といえば、一つだけ。
自分の霊力を自分で封じる。
そうすれば、僅かな間だけ金蠱を欺ける。
……しかし、霊力を封じてしまったら、ただの人だ。
何も、出来なくなる。
それでは、本末転倒だ。
暫く、この金蠱と共に生きていくしかないのか。
定期的に、薬を届けると盟主は言っていた。
…私は、蠱を入れられたのは、初めてだ。
誰かに常に命を脅かされる。
その焦燥感。
そして、恐怖。
初めて、本当に理解した。
再び、霊力を巡らせ瞑想する。
…普段は、何ともないが、霊力を巡らせるたび、
もぞりと、蠱が蠢く。
なんとも、おぞましい。
シューシュー
湯の沸く音に目をあける。
火鉢に近づき、茶器に茶を淹れる。
白磁の急須から、コポコポと湯飲みに注ぐ。
窓辺の円卓に座り、お茶を一口。
やっと、ほっと一息ついた。
いや、まだ大変な状況である事に変わりはない。
でも、疲れた。
少し休む事も大切だ。
今日は、早く休むとしよう。
…明日も、忙しい予感がする。




