第54話 遊び
「あなた。気分はどう?」
「ああ、大丈夫だ。迷惑をかけた。」
寒舟は、コホンと声を整えて答えた。
使用人達が、乱れた髪を整えてくれる。
冠で髪を纏め、衣を整えると、ようやく一息ついた。
「魔教では、随分活躍したそうじゃない?」
どんな、口調で答えるのが正解だ?
「ああ、まぁな。」
取りあえず、素っ気なく答えてみる。
「子供達が、待っているわ。会えるの?」
「……ああ。」
子供……接し方がわからない。
寒舟は、子供に冷たかったのか、それとも優しかったのか。
「今は、三人とも、先生と一緒に庭を散策してるわ。」
「……そうか。」
「会いに、行かないの?」
やっぱり、行かなきゃいけいか。
「今から、行こう。」
日差しが照りつけ、冬の暖かな日。
子供達は、庭で老先生と遊んでいた。
寒舟の子供達は、一番上が6歳、次が3歳。
そして、末っ子は1歳の三兄弟だ。
きゃはははと、楽しげな声が響く。
日本で暮らしていた時、妹とは10歳離れていたから、全く初めてという分けではない。
それでも、こんなに小さい子供達の相手をする事になるとは、思わなかった。
少し、緊張しながら近づいていくと…
「あっ、父様だ!お帰りなさい!」
6歳の、柳 景之が、駆け寄ってくる。
そして、そのままギュッと腰に抱きついた。
「父様。帰ってくるの遅いよ。」
少し、頬を膨らませ、私を見上げる景之。
…………控えめにいっても、整った顔立ち。
うるうるとした瞳。
可愛い。
私は、思わず微笑んで、頭をよしよしと撫でた。
「ああ、遅くなってすまない。ただいま。」
それを見ていた、次男の柳 景安もやってきて、むぎゅうっと力いっぱい抱きついてきた。
ふくふくとしたほっぺが可愛らしい。
「とーさま。おかえりなさい。」
はわぁ…可愛いらしい。ほっぺをツンツンしたい。
つん、つん
「とーさまぁ。やめてよぉー」
柔らか…
「あだぁ」
末っ子の柳 景明は、よちよちと一生懸命あるいてくる。
「あだあだ、ぶー」
小さな足が、ツンと、石につまづく。
「あぶない!!」
最大限の軽功で、何とか小さな身体をキャッチした。
「きゃははは」
笑顔の景明に、ほっとする。
額の汗を、広袖で拭った。
「ほっほっ、寒舟殿。今日は、調子がいいようですな。それでは、私は失礼します。」
老先生が、さっと身を翻す。
「はっ、ちょとまて!!」
「ほほ、老体には、ちと堪えます。今日は休ませてもらいます。」
手を後ろに組んだまま、老先生は去っていった。
「……」
「父様。」
「とーちゃま」
「あだ、あぶぅ」
血の気が引いた。
「父様。庭にね、蜜柑なったんだよ。美味しいからとってあげるね。」
「えっ?」
長男は、そう言って少し奥にある蜜柑の木に登り始める。
「お、おい。木に登るな。私が取るから!」
ツルンッ
「あっ」
「ほら!言っただろう!!!」
軽功で、ビュンと駆けつけ、長男をキャッチ。
「とーさま、蟻さんいたよ。」
急いで、次男を振り返る。
「ちがう!それは、蜜蜂だ!!」
「可愛いねぇ」
まるっこい手が、蜜蜂に伸びる。
「触るんじゃない!!!!」
急いで次男のところに飛んでいく。
パシッ
次男の手を勢いよく引き寄せる。
しかし、一瞬遅かった。
私の手が犠牲になった…
チクッ。
「いったぁーーー!!!!」
「あぶぅ」
今度は、末っ子の声。
見ると、池に入ろうとしている。
何してんだよ!!!
こいつ、死ぬ気か?
くそっ!
駆けつけるより早く、末っ子の身体がよろりと傾いた。
うおおおお!
末っ子を片手で、岸に置くことに成功。
しかし、その弾みで…
「うわぁ」
庭では、変わらず可愛いらしい子供の声がする。
麗華は、老先生が子供達と遊んでくれているのかと思っていた。
寒舟は、どうせ少し話して、立ち去る。
それが、いつもの事だった。
子供を愛してはいるが、遊んだりするような人ではない。
ところが、「うわぁ」という、寒舟の声。
続いて、ザバァーンという、水に落ちる音が聞こえた時は、驚いた。
急いで、庭に出ると…
池に落ちて、ずぶ濡れの、寒舟。
長男は、父を心配し、
次男と三男は、ケラケラ笑っているという、
混沌とした状況に出くわした。
「ハクシューーーン」
寒舟の、豪快なくしゃみに我に返る。
「あなた!大丈夫?」
立ち上がり、濡れた衣を絞りながら、寒舟は、
答えた。
「うう、大丈夫だ。」
「早く、着替えて来てちょうだい。湯も用意させるわ。」
疲れきった顔。
「そうしよう。」
ポタポタと、水を滴しながら歩く背中を麗華は、
複雑な気持ちで見送った。
なんだか、おかしい。
ただの気まぐれかしら?
その時、長男がくいっと袖を引いた。
「母上。景明が、池に落ちそうになったんだ。
それで父上が、助けようとしたんだけど、代わりに落ちちゃったんだ。」
「……そうなの」
「父上、今日はいっぱい遊んでくれたんだよ。」
「楽しかった?」
「うん!楽しかったよ!」
息子の笑顔を見て。
良かったと思った。
でも、その反面…少しだけもやもやする。
胸の奥がざわめいた。




