第51話 再会
コンコン
扉を軽く叩く。
蝋燭の光が揺らめき、中の影が動く。
「どなた?」
静かな、女性の声。
「俺は…」
寒舟は、思わず言い淀んだ。
言葉が続かない。なんと言えば…
「あっ、その声!あなたのね!」
勢いよく、扉が開く。
「!!!」
至近距離で、黒く大きい瞳と目があった。
ばさりと音がしそうな、長い睫毛が瞬く。
「…っ!」
思わず、一歩後ずさった寒舟は、
そのまま、廊下の縁を踏み外して……落ちた。
ゴツンッ
痛そうな、鈍い音が、屋敷に響き渡った。
眩しい。
「ううっ」
目元に手を当てる。
私は、一体どうしたんだ?
何があったっけ?
「お目覚めになられましたか!!」
使用人の女性が、タタタッと駆け寄ってきた。
彼女の、黄色の衣がはためく。
そっと、背に手をそえて、身体を起こされる。
伺うように、顔を覗き込まれた。
青白い彼女の顔を見て、私は混乱した。
なにか、恐ろしい者を前にしたみたいだ。
どうしたのだろうか?
「っ……」
突然、くいっと長い髪が引かれた。
見れば、使用人の手が私の髪を踏んでいる。
「も、申し訳ありません!!」
彼女は、慌ててもがいた。
そのせいでさらに、ぐっいっと、引っ張られ……
「くっ…」
思わず、顔をしかめた。
「ひっ!!!」
ズザッと、彼女は後退り。
そのまま、ススススッ…と扉まで後退した。
「すぐに、お薬をお持ちします。」
「???」
いったい、なんだ?
使用人の女性が、あっという間にいなくなり、広い部屋に一人。
「…………」
寝台から足を下ろす。
なんだか、頭に違和感がある。
触ってみると包帯が、巻かれている。
…廊下から落ちたとき、怪我したのか。
「はぁ。」
気が重い。
部屋を見回してみる。
寒舟の部屋は、黒一色だと思っていた。
でも、意外な事に、白を基調として所々に、赤や青、緑などの配色がちりばめられている。
箪笥を開けてみると、中の着物も、色鮮やかに揃えられていた。
お洒落な、町の洒落者。
そんな感じだろうか。
決して、趣味が悪いわけではなく、不思議と全てが調和している。
そういえば、弟子だった時も、顔に似合わず鮮やかな着物をきていた。
蛇のような顔つきが、嫌いで、黒だと
怪しくなりすぎると言っていた。
私は、その鋭さが格好いいと思っていたのだが、
本人にしてみれば、違ったようだ。
綺麗で、少しおかしな小物を集めるのが趣味だった。
旅先では、いつも楽しそうにしていたなぁ……
「ふふっ」
青い龍の置物に目がとまった。
小さな笑いが漏れる。
「なんだか、この龍だけ妙に太っちょだな。」
どこかで、見たことがある。
でも、思い出せない。
大切そうに、棚の一番目立つ所に置いてある。
なぜか、心が温かくなった。
ピシヤァ――ン
「!!!!!!!」
突然の大きな音に、心臓が飛び出るかと思った。
ドクンドクン
と大きな音を立てる胸を押さえて、後ろを振り返る。
「あなた!!目が覚めたのね!」
鮮やかな黄緑の長衣の袖が、ふわりとはためいた。
胡桃のように丸い瞳。
赤い唇。
黒い髪は、美しく結ってある。
シャリンと簪の飾りが揺れる。
気を失う前に見た、あの女性だ。
「ああ………」
気の利いた言葉は何一つ出てこなかった。




