第42話 始まり
夕陽が処刑される。
部屋に押し込められた沈七は、
震える手を押さえた。
処刑。
久しく、その言葉を聞いていなかった。
「そうだよな。この世界では当たり前だ。」
このままでは、彼女は殺されてしまう。
妹と会える事を楽しみにしていた。
私の内傷を、ただ一人心配してくれた。
答えは最初から決まっていた。
玄夜。
魔教主。
武林で、最も恐れられる男。
かつては、弟子だった。
...でも、ここからは敵同士だ。
ぎゅっと目を瞑る。
この部屋は、監視されている。
一、二、三、四、五...
おそらく五人。
息を潜めている者がいる。
ため息をつきながら、目を開けた。
以前、玄夜からもらった、酒を取り出す。
杯にそそぎ。
そのまま、煽るように飲む。
ゴクゴク
強い酒だ。
少しの酩酊感を味わいつつ、杯を進める。
沈七は杯を置くと、 静かに机へ突っ伏した。
どうして、こうなってしまったのだろう。
自分は何を間違ったのか。
そのまま、眠りについた。
「君上、沈七は酒を飲んで寝ました。」
沈七の部屋を離れた高要は、玄夜に報告をした。
「...そうか。」
何か、行動を起こすかと、警戒していたが、
杞憂だったようだ。
やはり、あの男には、そんな勇気もないか。
「引き続き、明日の処刑が終わるまで監視しろ。」
「拝命。」
高要が、沈七の部屋に戻ると、誰もいなかった。
「!!!」
沈七は、部屋から消え、監視していた
四人の部下が倒れている。
屋根の上の一人を抱き起こす。
首筋に一本の銀針が刺さっていた。
息はある。
争った形跡もない。
寸分違わず、睡穴を突かれていた。
後の三人も、同様に眠らされている。
異常があった場合に鳴らす、
笛の音もしなかった。
それは、つまり。
四人に気付かれず、一瞬で制圧したという事。
彼らは、それぞれ別の場所で監視していた。
ゾクッ
高要は、思わず後ろを振り返った。
誰もいない。
得体の知れない怪物にあったような、
底知れない恐怖が、込み上げてくる。
沈七からは、高手の気配など微塵も感じなかった。
君上でさえ見抜けなかった。
と言うことは、君上と同等、
もしくはそれ以上の高手。
今までの事、すべてが演技だったとしたら。
「....」
軽く首を、振る。
だめだ、考えるな。
今やるべきは....
ピィーーーーーーーーーー!
魔天閣に、甲高い笛の音が響き渡った。
ポタン
ポタン
ポタン
カツ カツ
ポタン
夕陽は、そっと目を開いた。
全身には、拷問の傷跡。
手は天井から伸びる鎖に繋がれ、
倒れる事も出来ない。
少し揺れるだけで、激痛がはしる。
ポタン
カツカツ
ポタン
夕陽は、何とか首を上げて、牢の扉を見つめる。
誰かが近づいてきている。
また、拷問の続きだろうか。
カツン
扉の前で、足音が止まる。
黒い簡素な靴の爪先が見える。
カチャリ
と鍵の開く音。
「夕陽、大丈夫か?」
顔を精一杯上げた。
「沈七様。」
「助けにきた」
沈七は、腰の鉄剣を抜いた。
一閃
夕陽を吊るしていた鎖が、落ちた。
ふらりと倒れる夕陽を抱き止める。
そのまま彼女を抱えて走り出す。
ピィーーーーーーーーーー!
甲高い笛の音が響いた。




