第38話 鏡の中
「わ、私は・・・・・」
だれだ?
薬仙だった私。
日本でシェフをしていた俺。
そして、柳寒舟となった私。
「私は、俺はだれだ?」
記憶が、甦っては消えていく。
私が嘗て殺した敵。
失った人。
俺の家族。
父、母、妹。
仲の良かった同僚、嫌いだった店長。
ポロン
『ほら、喧嘩しないで。』
優しい声。
駆け出す小さな背中。
優しい笑顔の銀髪の女性。
琴の前に座る女性に、寄り添う男の子。
『母上』
ポロン
ポロン
霞む視界の向こう。
心配そうな玄夜が見えた。
また玄夜が泣きそうだ。
泣き虫な子。
泣かないで。
手をのばそうとした。
しかし、その瞬間。
沈七の身体は、急に力を失い。
その場に倒れた。
「・・・師尊!」
反射的に叫んでいた。
抱き起こした身体は、
くたりと力を失っている。
玄夜は唇を強く噛んだ。
(違う。)
(師尊ではない。)
それでも、彼を見捨てる事はできない。
その日の夜。
沈七は、自分の部屋の寝台で目を覚ました。
途中から、記憶が曖昧だ。
(私は、どうなった)
そろりと、寝台から起き上がる。
鏡の前に立ち、自分の頬をなぞった。
人皮面具の下。
柳寒舟。
今の私だ。
沈七は小さく息を吐く。
軽く首を振った。
玄夜に聞かれて取り乱した。
自分が誰か、その答えは、とっくに出ている。
日本に転生した時も、同じ事を考えた。
長い間、悩んで。
薬の勉強もした。
でも、結局私は、料理人になった。
初めは、薬仙の私を引きずっていた。
苦しかった。
やめられなかった。
過去の自分がいなくなってしまいそうで。
だけど、ある時。
そんな人生つまらないと感じた。
だから、自分がやりたい事をやろうと決めた。
私は、どんな肩書きがあっても、何処にいても、どんな姿でも、私なんだ。




