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薬仙の帰還  作者: 夏目葵
36/40

第36話 予感

窮奇との戦いは終わった。


だが、その代償は決して小さくなかった。


数名の魔人が命を落とし、本堂内には血の匂いがまだ残っている。


沈七は、黙々と怪我人の傷を診て回った。


一人、また一人と霊薬を手渡していく。


助かった者は礼を言う。


だが、助けられなかった者もいる。


白布を掛けられた亡骸。


「・・・。」


沈七は足を止める。


昨日まで、笑って話していた魔人も、その中にいた。


薬仙であっても、全ての命を救える訳ではない。


「閣主。」


周青が声を掛けた。


「もう十分です。後は私達がやります。」


沈七は小さく頷く。


「ああ。」


本当は、その言葉に甘えたかった。


だが、まだやるべき事が残っている。


玄夜に、今回の件を報告しなければならない。


そう思い、周囲を見渡す。


しかし、玄夜は既に姿を消していた。


胸の奥が、小さく痛む。


それが内傷によるものなのか。


それとも、別の痛みなのか。


沈七自身にも分からなかった。


少しの休息を挟み、一行は月影教本拠地への帰路につく。




沈七は、薬王閣の馬車へ乗り込んだ。


中には、夕陽も乗っている。


「閣主様。お疲れ様でした。」


夕陽は、沈七にお茶と菓子を渡す。


「ありがとう。」


「お好きなもの用意しておきましたよ。」


「ああ」


沈七は、暫くしても、手を付けない。


茶を飲むばかりだ。


おかしいと思った。


いつもなら、すぐに菓子に手を出す閣主様が、

今日はなかなか食べない。


良く見ると、顔色も悪い。



「閣主様。どこかお怪我をされましたか?」


「いや、別にしてない。」


「嘘を付かないで下さい。妹も、嘘を付くとき、目を反らします。今、閣主様も反らしました。」


「・・・少しだけ、内傷をおった。」


「ほら、やっぱり。それなら、暫くは私が身の回りの事しますから。休んでください。」



フッ


沈七は、少し首を傾げ口元だけ笑った。



「夕陽には、かなわないね。」



あれ?


夕陽は違和感を覚えた。


閣主様、今日は、らしくない。


笑顔が、どこか無理をしているように見える。


あの人が、こんな笑い方をするなんて。





ゴトゴト


馬車は静かに夜陵城へ向かう。


誰も、口を開かなかった。






3日後。


ようやく、馬車は到着した。


討伐隊の、気持ちとは裏腹に、教主の

窮奇討伐は噂になり、町はお祝い気分だった。


裴玄夜は、教主として、凱旋した。


町の人々は、全員ひれ伏し、教主の勝利を讃える。


『日月不侵』


『強者為尊』


『月影教は永遠なり!』


『教主様万歳!』


声を合わせて唱えられる、教義。


まさに、魔教の都といった風情だ。



玄夜は、豪華な黒衣を纏い、馬上にいた。


その恐ろしく美しい姿は、


まさに"天"と呼ばれる男に相応しい

威厳を纏っていた。


絶対者。


そんな言葉が似合う。



沈七は、後方の馬車でその背中を見ていた。


先日、自分を師尊と呼び、その腕に抱き締めて眠っていた男とは、まるで別人。


(私が、師であったのは遠い昔。これが、本来あるべき距離なのかもしれない。)


ズキン


なぜか、胸が痛む。


だが、これでいい。


私は、もう沈清月ではないのだから。


始めから、沈清月の人生の続きを歩む事は、

出来なかったのだ。




教主様を讃える声が、遠く聞こえた。


あの、怪僧を殺した手が、今さらながら

震える。


もう、迷う事はないだろう。


徐々に、薬仙、毒王だった頃の自分の感覚

に、戻っていく。


戻りたくなかった。


だが、一度血を浴びた手は、

もう平和な世界の自分には戻れない。


そんな予感だけが、静かに胸に残っていた。









なんだか、場面の切り替わりが早すぎる気がしてきました。

伝えたい場面が、拙い文章すぎて伝わらない。

難しいです。

こんなに長く書けたの初めてなので…


早く、二人をいちゃいちゃさせたい。

でも、ストーリー的にもう少し先になりそうです。





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