第35話 闘いの終わり
『想帰』
柳寒船の佩剣。
薬仙沈清月が、弟子に譲った剣。
沈七は、咄嗟に、想帰を手に取る。
その、瞬間。
剣は、青い光を放った。
「な、その剣は、お前は・・・」
一閃。
怪僧、後塵の首から鮮血が噴き上がる。
沈七は振り返ることなく歩き出した。
一拍遅れて、
後塵の身体が崩れ落ちる。
「ぐひひひひひひひひひひっ」
血交じりの笑い声。
「柳寒舟。ぞういゔことか。」
「ごれから、お前がどうなるのか、だのしみだ。先に、冥府でまっでおるぞ。
ぐひひひひっ・・・・・・・」
「・・・・・」
抜き身の剣を持ったまま、陣に近づく。
そして・・・・
想帰が低く鳴く。
ザンッ
血玉を、両断した。
ゴオオオオオオオ
陰気が爆発する。
「ぐっ」
沈七は、想帰を支えにしていた。
しかし、凄まじい陰気に耐えきれず、
口元に血がつたう。
陰気は、激しく渦を巻き・・・
やがて、霧散した。
どこからか・・・
『お兄ちゃん、ありがとう』
そんな少女の、声が聞こえた気がした。
沈七は静かに目を閉じる。
……終わった。
想帰を杖代わりにゆっくりと立ち上がる。
「……玄夜。」
胸騒ぎがした。
あの禍々しい気配は消えた。
だが、嫌な予感だけは消えない。
「急がねば……。」
沈七は洞窟を駆け出した。
その頃。
玄夜は、苦戦していた。
斬っても。
斬っても。
窮奇の肉体は黒い瘴気を纏い、
瞬く間に再生していく。
「・・・っ。」
夜哭を振るう腕が重い。
窮奇の咆哮は、肉体だけではない。
精神を直接揺さぶり、心魔を呼び覚ます。
胸の奥で、何かが囁く。
『お前は、騙されていた。』
『沈七は、師尊ではない』
『師尊は、もう死んだのだ』
「黙れ。」
玄夜は低く呟き、黒雨を握る手に力を込めた。
だが、その刹那。
窮奇が再び咆哮する。
「キエエエエエエエ!!」
凄まじい衝撃が大地を揺らした。
玄夜は膝をつく。
(……まずい。)
実力の半分も出せていない。
このままでは、先に力尽きる。
その時だった。
窮奇の動きが、突然止まる。
「・・・?」
至るところに、浮かぶ顔が、
苦悶の表情を浮かべている。
何が起こったのか、分からない。
だが、絶好のチャンスだ。
一歩踏み込み、黒雨をなぎはらった。
窮奇の胸を、黒雨が深々と斬り裂く。
鮮血が噴き上がる。
玄夜は息を呑んだ。
先ほどまでなら。
黒い瘴気が傷口を覆い、瞬く間に塞がるはずだった。
しかし・・・。
傷は閉じない。
瘴気は霧散し、血だけが地を濡らしていく。
……効いた。
玄夜の瞳に、初めて光が宿った。
玄夜は、黒雨を再び構えた。
目にも止まらぬ速さで、三閃。
窮奇は避ける間もなく、胸、肩、脇腹を斬り裂か
れる。
鮮血が舞う。
・・・再生しない。
「やはり……。」
窮奇は怒り狂ったように咆哮した。
「ギャアアアアアアアア!!」
黒い瘴気が渦を巻く。
しかし。
先ほどまで溢れていた瘴気は、
目に見えて薄れていた。
玄夜は地を蹴る。
一閃。
右前脚が宙を舞う。
窮奇は苦悶の叫びを上げ、
巨体を振るって反撃する。
凄まじい爪撃。
玄夜は紙一重で身を翻し、背後へ回った。
「終わりだ。」
黒雨へ霊力が収束する。
白玉の刀身に、黒い魔気が絡み付く。
そして――。
一振。
ドシン
窮奇は、音を立てて倒れた。
ザアアアア
辺りは、急に静けさを取り戻した。
他の魔獣も、窮奇を倒した途端に霧散した。
傷ついた、幾人もの魔人。
中には、命を落とした者もいる。
周囲を見渡す。
薬王閣の周青が、中心となって
手当を始めている。
沈七の姿を探す。
やはり、いない。
「・・・・」
「君上。窮奇を倒したな。」
秦無涯が、言った。
「いや、これは窮奇ではない。本物であれば、
この程度で倒せる訳がないからな。」
「じゃあ、なんだ?」
「作られた、化け物。そう見えた。」
無涯は、刀を鞘に納めると、
窮奇のいた場所に近寄る。
「なんか、落ちてるぞ。」
拳程の大きさの血色の玉。
中心には、蓮花の模様。
今は、割れて僅かな陰気が漏れでている。
「これ、見てみろ」
無涯は、ポンと、宝玉を放り投げた。
パシッ
「・・・これは、万象楼。」
「やっぱり、そうだよな。どうやら、
奴らが、絡んでるみたいだな。」
ザアアアア
雨が降り続く。
まるで、戦いの痕跡を隠すように。
玄夜は、傷付いた魔人達を本堂に避難させた。
あれほど濃かった陰気は、
今では殆ど消えている。
ようやく、戦いが終わった。
その時、パシャ
誰かが、水溜まりを歩く音がする。
そっと、扉を開けて入ってきたのは、
沈七だった。
蒼白の顔色。
そっと、薬王閣の弟子が休んでいる所に混ざって座る。
薬箱から、薬瓶を一つ手に取ると、
そのまま飲んだ。
玄夜は、その一部始終を見ていた。
気付かないとでも思ったのか?
そっと、近づいていく。
「薬王閣主。」
「!!」
はっとした顔で見上げてくる沈七。
「お前は、何処で何をしていた?」
「君上、私は・・・」
「聞きたくない。」
玄夜の声は静かだった。
怒鳴りもしない。
その静けさが、かえって冷たい。
「・・・。」
沈七は言葉を失う。
「私は、お前を信じようとした。」
玄夜は、一度だけ目を閉じた。
「・・・だが、俺が愚かだった。」
「玄夜、違う。私は・・・」
「聞きたくない。」
玄夜は、沈七の言葉を遮った。
「もう、何も言うな」
「・・・あっ」
踵を返し、歩き出す。
「逃亡した罰は受けてもらう。」
そう言い残し、その場を去った。
沈七は伸ばしかけた手を、ゆっくり下ろす。
「・・・。」
言えなかった。
ぐっと、右腕を掴む。
その、悲しげな瞳に、玄夜は気付かなかった。
ザアアアア
外では、雨だけが静かに降り続いていた。
読み直してみると、読みにくい。
なんか、足りない文章だと感じます。
箇条書きぽいというか。
納得いくものではない。
ですが、今これ以上は無理なので載せます。
作家の人は、本当にすごいですよね。




