第33話 2つの戦い
玄夜は、苦戦していた。
窮奇は何度致命傷を与えても、
瞬く間に肉体を再生させる。
本命の剣――夜哭。
あれを抜けば勝てる。
だが、心魔に呑まれれば、この場にいる全員を斬りかねない。
「……ちっ。」
窮奇の巨腕が振り下ろされる。
玄夜は黒雨を滑らせるように受け流し、その勢いで身を翻した。
轟音。
石畳が砕け、地面が陥没する。
一歩遅ければ、終わっていた。
(師尊なら。)
ふと浮かぶ。
こんな時、師尊ならどう戦う。
どうやって、この化け物を仕留める。
・・・・
沈七は後方で結界を支えている。
そう思っていた。
だが。
森の奥へ走っていく背中が見えた。
銀色ではない。
黒髪の青年。
沈七だった。
「……。」
逃げた。
ズンッ
心に、黒く重いものが流れ込む。
(違う。)
(やはり違う。)
(師尊なら。)
(絶対に背を向けない。)
その時。
キェェェェ
耳を切り裂く悲鳴。
老若男女を織り混ぜたような、
頭の髄に響く。
「ぐうっ」
魔人たちが、思わず膝をつく。
玄夜は、黒雨を地面に立て、
なんとか、耐えた。
『玄夜』
耳元でそっとささやく声。
『玄夜、まだ私を見つけられないのか?』
『なぜ見つけられない?』
『愚かな弟子よ。』
『お前は、また間違えた。』
違う。
これは、師尊ではない、幻聴だ。
玄夜は、振り払うように、黒雨を振るった。
「うわぁっ!」
ガキィン
「君上、何するんだ?!」
気付くと、振るった剣を受け止める刀。
「無涯・・・」
「君上。まさか、さっきの叫び声で、心魔に憑かれたか?」
玄夜は、何かを振り払うよう、頭をふった。
「・・・大丈夫だ。」
息を吐く。
肺が焼けるように痛い。
視界を巡らせる。
地に膝をつく魔人。
剣を味方へ向ける者。
虚ろな目で立ち尽くす者。
・・・窮奇の叫び。
皆、心を乱されている。
このままでは、不味い。
なんとか、窮奇を倒さなければ。
玄夜は、もう一度黒雨を構えた。
~~~~~
洞窟の奥から、濃密な陰気が漏れ出ている。
沈七は足を止めた。
(誰か来る。)
気配を察知すると、音もなく木の上へ身を躍らせる。
しばらくして、一人の男が姿を現した。
金と紫の袈裟をまとった剃髪の僧。
その胸元には蓮の紋様が刺繍されている。
しかし、それはただの蓮ではなかった。
花の中心には、一匹の蛇がとぐろを巻いている。
僧は洞窟の入口脇に置かれた石へ歩み寄る。
何気なく見えるその石を、
わずかに横へずらした。
その瞬間・・・
ぶわっ
洞窟を覆っていた結界が霧のように揺らぎ、
濃厚な陰気が一気に外へ溢れ出す。
僧は慣れた足取りで、
そのまま洞窟の奥へ消えていった。
やがて、
コト……コト……
石がひとりでに動き始める。
術が元に戻ろうとしているのだ。
「今だ。」
沈七は枝を蹴った。
風のように地面へ降り立ち、閉じかけた結界のわずかな隙間へ身を滑り込ませる。
ゴトン。
石は元の位置へ戻った。
再び結界が閉じ、洞窟は何事もなかったかのように静寂へ包まれる。
「くぅっ」
息を吸うたび、肺の奥まで陰気が流れ込む。
トンッ
沈七は迷いなく、胸元の点穴をついた。
霊力の巡りをゆっくりにし、
自らの気配を闇に溶かした。
濃密な陰気に、対抗するためだ。
足音一つ立てず、暗い洞窟を進む。
湿った岩肌からは黒い水滴が落ち、
ぽたり……ぽたり……
という音だけが静寂に響いていた。
僧侶の気配を追い、
三つ目の角を曲がる。
不意に視界が開けた。
巨大な空洞。
沈七は岩壁へ身を寄せ、
そっと顔だけを覗かせる。
そして、
息を呑んだ。
そこには・・・
おぞましい光景が広がっていた。
戦いは、正直書き慣れていません。
分からない。
どう戦えばいいのか。




