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薬仙の帰還  作者: 夏目葵
32/38

第32話 窮奇戦

人の顔。


肩に。


胸に。


腹に。


苦痛に歪んだ人の顔が、いくつも埋め込まれていた。


「……窮奇。」


誰かが、呟いた。


グオオオオオォッ!!


虎のような咆哮が、白雲寺に響き渡る。


その声に呼応するように、周囲の瘴気が渦を巻いた。


地面から、立ち上る黒い霧。


ぐにゃり。


霧は形を変え、


狼。


猿。


蛇。


様々な獣の姿を取る。


赤く濁った瞳が、一斉に討伐隊を見据えた。


「陰気を操っている……。」


玄夜が低く呟く。


「君上!」


高要が叫ぶ。


「数が多い!窮奇は私が引き受ける。」


玄夜は剣を構えた。


「高要は魔人達をまとめろ。」


「秦無涯、お前は好きなだけ暴れろ。」


「おう。」


刀を肩へ担いだ無涯が、不敵に笑う。


「沈七。」


玄夜は一瞬だけ視線を向けた。


「後方から援護しろ。」


「わかりました。」


その返事を聞くと同時に。


窮奇が地を蹴った。


ドォン!!


地面が砕ける。


巨体とは思えない速さ。


玄夜は黒雨を抜いた。


細身の白銀の刀身。


黒雨という名とは裏腹に、

その刃は雪のように白い。


ガキィンッ!!


窮奇の爪と黒雨が激しくぶつかる。


「……重い。」


腕へ鈍い衝撃が走る。


受け止めた玄夜の足元が、地面を削るように半歩沈んだ。


玄夜は足へ霊力を流し込み、踏み止まった。


その瞬間。


窮奇の人の顔が、一斉に笑った。


ぞくり。


言いようのない悪寒。


「ちっ。」


玄夜は剣を滑らせるように力を逃がし、そのまま


横薙ぎに斬り払う。


銀の軌跡。


窮奇の肩口を浅く裂く。


黒い血が飛び散った。


だが。


傷口は蠢くように盛り上がり、瞬く間に塞がっていく。


「……再生か。」


玄夜の眉が僅かに動いた。


その隙を狙い、


左右から狼型の魔獣が飛び掛かる。


「邪魔だ。」


一閃。


黒雨が弧を描く。


二体の魔獣は真っ二つになり、黒い霧へと還った。


しかし。


その霧は地へ落ちることなく、再び獣の形を取り始める。


「陰気そのものが本体か……。」


玄夜は低く呟いた。


倒しても、倒しても終わらない。



その頃。


背後では秦無涯が豪快に刀を振るっていた。


「ははっ! 面白い!」


一刀のもとに魔獣を吹き飛ばす。


だが数が減らない。


高要も魔人達を指揮しながら叫ぶ。


「陣形を崩すな! 一人になるな!」


白雲寺は、いつの間にか完全な乱戦となっていた。



沈七達、薬王閣の魔人は、後方で、

戦っていた。


後方は、魔獣の数も少ない。


怪我人が出れば、すぐに対応出来るように、

戦場を俯瞰してみる。


昔なら、最前線で戦っていた。


でも、今はまだ・・・


ふと、周囲を見渡す。


周青が、猪型の魔獣と戦っている。


その後ろから、トラの魔獣が忍び寄る。


「危ない!!!」


咄嗟に、剣印を結ぶ。


「無名!」


・・・・・。


うそだろ。


「無名!」



・・・来ない。


目に入った、鉄剣を拾う。


ガキッン!


ギリギリの所で、トラ魔獣の爪を防ぐ。


そのまま、横に一閃。


魔獣は、霧散した。



なぜ、呼べない?


深く考える間もない。


次々と襲いくる魔獣を切る。


「はぁはぁ」


おかしい。


窮奇と玄夜の戦いを見る。


普通であれば、致命傷のような傷でも、

窮奇はあっという間に回復している。


操り人形のような。


本体は、別にある。


そう考えた瞬間。


私の脳裏に、一つの場所が浮かんだ。


あの洞窟だ。


あそこからも、似たような陰気がただよっていた。


確証はない、でも・・・・


「君上!!!」


玄夜と私の間には、数多くの魔獣。


とても、近づけない。


大声で叫んでみたが、聞こえていない。



仕方ない。


今は、行動をするべきだ。


私は、気配を消した。


すっと、戦場を後にする。


誰にも気付かれぬよう、白雲寺の裏山へと駆け出した。











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