第30話 背負ったもの
はっと、目が覚めた。
どうやら、倒れていたようだ。
あれは、夢ではなかった。
あれは、私の・・・
「ああ、そうだ。私は・・・」
ゆっくりと身体を起こす。
最初に足を踏み入れた、村の入り口。
崩れた家。
苔むした石垣。
元の廃村に戻っている。
でも、確かにここには、彼らの営みがあった。
私は、もう目を背けてはいけない。
35年平和で、楽しく幸せだった。
しかし、戻ってきてしまったのだ。
この世界に。
「私は、還ってきた。」
ザザァ
風の音に混じって、幼い声が聞こえた。
「……先生。」
おもわず、振り返る。
そこには、一人の少女が立っていた。
薄桃色の着物。
まだ五つほどの、小さな女の子。
「桜凛……。」
少女は何も答えない。
ただ、嬉しそうに笑うと、くるりと背を向けた。
「待って。」
沈七は後を追う。
少女は振り返ることなく歩いていく。
崩れた家々の間を抜け。
草に埋もれた石段を登る。
やがて、小高い丘へ辿り着いた。
そこには、幾つもの土饅頭が並んでいた。
墓だった。
少女は一つの墓の前で立ち止まる。
そっと振り返り、
微笑んだ。
風が吹く。
思わず目を細める。
もう、そこには誰もいなかった。
「……。」
沈七は静かに墓の前へ膝をついた。
摘んできた、野菊をそっと備える。
ふと、墓の周囲に草が生えていないことに気づいた。
秋とはいえ、枯れ草もないのはおかしい。
――誰かが掘り返した?
妙な考えが、心をよぎる。
50年も前に、失くなってしまった村だ。
今さら、何のために?
「すまない。」
「確認させてくれ。」
なにか、引っ掛かる。
沈七は、墓を掘り返した。
~~~~~~
なぜか、村人達の遺体には、
頭蓋骨がなかった。
また、元のように一人づつ、埋め治していく。
なぜ、頭蓋骨がないのか?
誰かが、盗んだ。
誰が、何のために?
気付けば、辺りは薄暗くなっていた。
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玄夜は、沈七がいなくなったと報告を受けた。
朝方出掛けたきり、帰って来ないという。
逃げた。
心配より先に、どうしても疑念がわく。
しかし、今は、沈七に構っている暇はない。
明日の窮奇討伐に向けて、万全の態勢を整えたい。
戌の刻。
月明かりが、闇を照らす。
まだ沈七は帰ってこない。
玄夜は、とうとう我慢できなくなった。
沈七が、薬草を取りに入ったという道に進む。
前方から、うっすら光が見えた。
提灯を手にした沈七が歩いている。
玄夜は、少しほっとした。
戻ってきた。
薬草採取に夢中で、時間を忘れてしまったのだろう。
月明かりが、近づいてきた沈七を照らす。
玄夜は、思わず足を止めた。
何かが違う。
「何処に、行っていた?」
「茸を取りに行ったら、戻れなくなった。」
いつも、ヘラヘラしていた男が、
にこりともせず、淡々と答える。
「玄夜も、食べるか?茸。旨いぞ。」
無理に、自分を演じるように言葉を続ける。
玄夜は、言葉がでなかった。
「むかえに来てくれたのか?」
「俺は、別に。むかえにきたわけでは。」
「そうか、ならば私は先に行く。」
沈七の、後ろ姿を見送る。
声が出なかった。




