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薬仙の帰還  作者: 夏目葵
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第三話 旅立ちそしてご飯

3日後、盟主の命令通り、出発した。


馬車に揺られる事、数週間。


ようやく、魔教総本山に到着した。




町は予想に反して賑やかで、活気がある。


何軒も立ち並ぶ料理店。


単物を売る店は、若い娘で賑わっている。


「へぇ。この世界で、こんなに栄えてるなら、大したものだ。」


今まで、世話になった御者に分かれをつげて、

一人ブラブラ歩く。


美味しそうな匂いのする料理店を見つけた。


豚の煮込みと麺か。


ふむふむ。美味しそうだ。


私は、昔から食べることが大好きだ。


「いらっしゃいませ。」


「一人だ。豚と麺を頼む。」


「へい、お好きな所に座ってください。」



にこにこしながら、席に着くと、隣に座っている若者二人の話が聞こえてくる。


「林兄、知ってるか。また教主様が、正派の奴らを血祭りにあげたって。なんでも、辺り一面血の海だったらしい。」


「恐ろしい人だ。だが、そのお陰で俺たちは、こうして生活できる。」


「でもさ、最近あまりにも、残忍な噂ばかりじゃないか?この前だって…」

 

「しっ、誰かに聞かれたら、大変だ。もう、この話はやめよう。」


聞くつもりはなかったが、魔教主が裴玄夜なら、昔の弟子とは、あまりにも違いすぎる。


「はい、お兄さん。ご注文の豚の煮込みと麺だよ。」


「ありがとうございます。」


弟子の事は、気になる。


でも、食事が先だ。


ずずっと、麺を啜る。


豚骨で、出汁を取っているのか?


こってりと濃厚だ。


豚骨ラーメンとは、また違うが、これはこれで。


煮込みにも、手をつける。


ホロホロと肉が崩れ美味しい。


やっぱり、美味しい料理を食べるのは、幸せだ。



「美味しいですか?」



「!?ゴホゴホ」



料理に集中していたから、ビックリした。


「すみません。お茶をどうぞ。」


「あっ、どうも。」


いそいそと、お茶を、受け取りながら、声の方を向く。


背の高い細身の男だ。


顔は、平凡だが、随分と雰囲気がある。


「あなたが、すごく美味しそうに召し上がっていたので、つい声を掛けてしまいました。」


なんだ?ナンパ?な分けないか。


今私は、人皮面具で、変装している。


けして、美形でもない。


まだ、柳寒舟本来の顔なら、分からなくはないが。


一番、人に紛れやすい、そんな顔だ。


そもそも、男だし。



「ああ、ここの料理すごく美味しくて。つい夢中に、なってしまいました。」


「そんなに、美味しいなら、俺も一杯食べようかな?隣いいですか?」


「ど、どうぞ。」


思わず、笑顔が引きつる。


どうみても、他に空いている席あるけど?!


まぁ、この際、魔教主の事をこの青年に聞いてみるか。


しばらく、二人でずるずる麺を啜り、ほどよいタイミングを見計らった。


「あの、実は私この地に来るのは、初めてなんです。魔教主様の噂は、本当なんでしょうか?

聞いた話では、前魔教主をそれそはそれは、残酷に殺したとか。逆らう者には、容赦しないとか。」


一瞬、青年は目を細めた。

見るものがゾッとするような、鋭い殺気を帯びている。


なんだ、怖い((( ;゜Д゜)))


「世間では、そのように言われています。そして、概ね本当です。しかし、どうしてそんな事を聞かれるのですか?あまり、この地で教主様の話をしない方が良いと思います。」


・・・そういば、さっき他の机で話していた若者達も、そんな事を言っていた。


ここで、この人に聞く内容ではなかった。


考えてみたら、名前も誰かも知らないし。


「そうですよね。私が軽率でした。実は、私は料理人でして、色々な土地を旅して、料理の研究をしているんです。今回は、勇気を出して、魔教の地に来てみたんですが。気が緩んでいたみたいです。気を悪くしたら、申し訳ない。」


「では、暫くここにいらっしゃるんですか?」


「はい。この辺りの料理店で働いて、学ぶつもりです。」


「なるほど。あなたは、なんだか面白そうだ。この出会いを記念して、ここは、私が払いましょう。」


青年は、そう言うと、スッと立ち上がり、さっさと店主に私の分のお金も払ってしまった。


いったい、何だったんだろうか。


私は、狐に摘ままれたような顔をしていたに違いない。


暫く、呆然としていたが、よく分からない事は忘れる事にした。


私はどこかの料理店で働くつもりだ。


ここは、雰囲気もいいし。


第一候補かな。


他の店も見てから決めよう。


店主に美味しかったと伝え、席を立った。


けっして、他の店の料理も食べたい、食いしん坊だからではない。


私は、研究熱心なんだ。




~~~~~~~~~~


???視点


その日も戦いに明け暮れていた。


正派の連中はしつこい。


掃いて捨てるほどいる。


ようやく片付いた頃には、日も傾いていた。


少しだけ疲れた。


気まぐれだった。


昔、あの人としたように、適当な店で飯を食おうと思っただけだ。


術で顔を変え、部下を下がらせる。


店へ入る。


そして。


一人の男が目に入った。


柳寒舟。


そう思った。


後ろ姿だけなら。


癖のある黒髪。


細い背中。



だが。確信がもてない。


こんな所に、あいつがいるだろうか。


そっと、前へ回り込む。


・・・・違った。


知らない男だ。


柳寒舟ではない。


もちろん、あの人でもない。


男は夢中で麺を食べていた。


実に美味そうに。


裴玄夜は少しだけ眉を上げた。


変な奴だ。


それだけだった。


だが、何故か目が離れなかった。


別に理由はない。


ただ、面白そうだと思った。


だから声を掛けた。


それだけの話だ。



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