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薬仙の帰還  作者: 夏目葵
23/25

第23話 高要の日常

私は、高要こうよう


教主様を直接お守りする4人の護法の一人だ。


教主様が、即位して5年。


私が仕えて3年の月日がたった。



最近の教主様は、境地を上げる為、

無理な修練を繰り返している。


もう、十分強い。


だが、何かに急かされるように、

強くなろうとしている。


そのせいか、教主様の心魔の病は、

日を追うごとに、酷くなっている。



そんな、ある日の事だった。


あいつ沈七が現れたのは。


教主様が偶然、町で彼を見つけ、

たまたま、興味を示した。


最初は、それだけの筈だった。


なぜか、教主様は、無理に時間を作っては、

彼の働く崑崙閣という飯店に通うようになった。


料理を食べる為ではない。


沈七を見る為。


それだけの為に、無理をしているようだ。



少しの違和感を感じた。



普通の人間が、こんなに容易く

教主様の心に入り込めるだろうか。


不安に思いながら、口出しはできない。


教主様は天、間違えるはずなどないのだから。




夏祭りの後


毎年、教主様は、羅城の間に籠られる。


祭りが終わり、戻ってきた教主様は、

上等な黒衣に着替える。


今年も、やはり儀式を行うようだ。


どのような事をなされているのか、

誰も詳しくは知らない。


羅城の間は、教主様以外、

決して入れない部屋だ。


漆黒の扉には龍が彫られている。


近付くだけで肌が粟立つような魔気が漂い、 使用人達は誰一人として近寄ろうとしない。


私は護法として、その扉の前で待機していた。



この三年間、儀式を行うと、教主様の心魔は深くなり、内傷まで負ってしまう。



霊薬を用意し、魔医を待機させている。



それから、六刻。



扉が、開かれた。


うつ向き、漆黒の扉を支えにしている。


教主様が、弱った姿を見せる事は珍しい。


どんな重傷でも

颯爽としているのが、教主様だ。


異常を感じ、駆け寄った。


ポタ……ポタ……


足元を見る。


石造りの床に血が落ちていた。


教主様の口元から流れた血だ。


背筋が冷えた。


私は三年間仕えている。


だが、これほど弱った教主様を見たことがない。


急いで教主様を支える。


教主様は、ぶつぶつ、何かを呟いている。


このままでは、

教主様が壊れてしまうのではないか。



暗い回廊を歩き、しばらくして、

教主様の部屋にたどり着いた。


事前に、人払いをしていたから、

誰にも見られなかったはずだ。


寝台に教主様を横たえる。


教主様は、部屋に戻ると、

すぐに気を失ってしまった。



魔医を呼びに行くため、部屋を出ると、

トンと音がした。


間者か?


誰だと問いかける。


廊下の隅から、

おずおずと出てきたのは、下女の夕陽だった。


聞くと、立ち入り禁止だとは、知らなかったようだ。


後で、命令を徹底できなかった、

管家を呼び出さなければならない。


下女を下がらせ、魔医の元に急いだ。



それから、3日。


教主様は、目を覚まさなかった。


あらゆる霊薬、最高の医術。


全て施した。


しかし、全身の系脈はズタズタ。


内臓もボロボロ。


生きているのが、不思議な状態だ。


誰かに、この事を知られるのは危険。


武林最高と、言われる神医は、神出鬼没で、

何処にいるかさえ分からない。


あの、毒王。


毒蠱死風、沈清月がいたら、助けられたかもしれない。


薬仙としての清月は、

いかなる病も治す事が出来る神仙だと噂だった。


しかし、もう13年も前に死んだ。



ふと、思い出す。


先日、町であった騒動。


あの崑崙閣の料理人。


沈七。


あの男が、偽医者を見破り、

町人達を助けたという。


彼ならあるいは、教主様を助けられるかもしれない。


助けられるならそれでいい。


助けられないなら――殺せばいい。


私は三日間眠っていない。


もう他に方法が無かった。


すぐに部下に、沈七を連れてくるよう命令した。




沈七は、着の身着のままやってきた。


茶色の薄れた衣に、寝癖のついた髪。


気の抜けた馬鹿そうな表情。


それが、教主様を一目見た途端、一変した。



鋭い目付きに、堂々とした様子。


雰囲気まで、変わっている。


今は、誰も彼に逆らえない。


そんな空気になった。



その後は、驚くべき事の連続だった。


私には、分からないが、魔医によると、

沈七が薬を作るのに使った配合は、

普通は、考えられないものだという。


よっぽど腕に自信がある者でなければ、

作ろうとも思わない。


一歩間違えれば、劇毒になりうるという。


それを聞いて私は、一瞬教主様を害そうと

しているのかと疑った。


しかし、みるみる回復される教主様。


沈七が、泊まり込みで看病する中、話をする機会もあった。


裏表のない人柄。


物怖じしない性格。


少し抜けている所が、逆に庇護よくを誘う。


聞けば、直ぐに答える。


嘘を付いている様子も、何かを隠す仕草もない。


でも、一つだけ、全てを話している訳ではない。


秘密が無いわけではないと感じた。


しかし、それは私だって同じ。


誰だってそうだろう。


悪い人間ではない。


私個人的には、好きなタイプの男だ。


だが、私は護法。


客観的に見ると、間者に思える。


警戒を解いてはいけない。



数週間たち、教主様は、完全に回復された。


魔医によると、後遺症もなくここまで完璧に経絡を繋げられることは、普通ありえない。

まさに、神業だと言う。


どう見ても、その辺にいそうな男である沈七。


易容を疑ったが、霊力の痕跡もない。


人皮面具だとしたら、あれだけ近くにいる教主様が気付かれないのだ。


並大抵の腕ではない。


一流暗殺者、教主様に迫る教地、そのくらいの

レベルでなければ、直ぐにバレてしまう。


沈七から感じられる攻力は、せいぜい一流、


それは、流石に無いだろうと、私は思った。




ある日の朝の事である。


沈七が、教主さまの部屋の隣に、別の部屋を用意して欲しいと言ってきた。


聞けば、もう付きっきりの看病は必要ないとの事だ。


直ぐに手配すると、返事をすれば、嬉しそうに笑っていた。


なんか、嗅がれたり、触られたりして、少し嫌だったらしい。


我らが、天がこんな男にそんな事するはずはない。



・・・多分、多分ない。


・・・・聞かなかった事にしよう。



その日の、夕暮れ時。


教主様お一人で、庭園で黄昏ている、沈七の元に向かった。


護法、護衛、全て待機との事だ。


何かを、考えているご様子だった。


大丈夫だろうか?




その後、非常に長い時間。


二人は庭園で、いちゃいちゃと抱き合っていた。


いや、これは失言だ。


そっと、包容を交わしていた。



やっと、動いたかと思うと。


教主様が、沈七を担いでいる。


よかった、横抱きじゃなくて。


あっ、これも失言だった。



そして、なんと二人で教主様の部屋に入っていく。


きっとすぐに沈七が出てくるはずだ。


一刻。


二刻。


三刻。


沈七は出てこない。


そんな馬鹿な。


私は護法である。


教主様の私生活に口を出す気はない。


本当だ。


本当だが。


なぜ出てこない?


・・・ついには、朝日が登り。


午の刻になった。


まだ、出てこない。


部下に、げっそりしてますが、大丈夫ですか?

と聞かれてしまった。


確かに、心労で少し窶れたかもしれない。


流石に、確認した方がいいだろう。


もし、何かあったとなれば、一大事だ。


仕方ない。



意を決して、重厚な龍の装飾の扉をあける。


・・・・・


布団に、二つの盛り上がり。


嫌な物を見た。


あ~失言だった。


私は、例え教主さまが、沈七を抱き抱えていようと、平静でいなければならない。


不敬な考えは、持ってはならないのだ。



嫌だったが、本当に仕方なく声を掛ける。


2回目でようやく、お目覚めになられた。


気だるそうに、今日の朝議はなしだと言われる。


仕えて、3年。


初めての事だ。


むくり、と隣の沈七が起き上がる。


相変わらず、間抜けな顔をしている。



もう、なんでもいいや。


私は、素早く扉をしめた。


封印!


いや、実際には、何もしていないが、

何時もよりしっかりと扉を閉めておいた。




その事件を境に、教主様は沈七の事を師尊と呼ぶようになった。


もちろん、二人きりの時だけだが、その時は、

沈七も、まるで弟子に接する時のような話し方になる。


この事は、護法である私と、一部の使用人しか知らない。


・・・教主さまの師尊といえば、魔攻を教えた

混沌心剣しか思い当たらない。


しかも、教主様は、混沌心剣の事を師だとは思っていない。


では、なぜ沈七を師尊と呼ぶのだろうか?


昔、噂で教主様の師は、あの毒蠱死風沈清月だと

聞いた事がある。


誰も、真偽は知らない。


沈七の人並みならぬ薬学、針術、医術の知識と技量に、あの薬仙を重ねているのだろうか?



そして、なんと沈七を魔教に引き留めるだけの為に、薬王閣まで作ってしまった。


さらに、少しの間で、幻魂邪手、毒孤幽魔の二人を手懐け。


カイロや歯みがき粉、洗髪液の開発、改良まで行い、使用人達を見方に付けた。



ここまで、くると異様と言わざるおえない。


いつの間にか、魔天閣に溶け込んでいる。


それも、目立たぬようにではない。 


めちゃくちゃ目立っている。



そして、昨日。


教主様と沈七は、町に遊びにいった。


遊びというか、逢い引き・・・


まぁいい。


とにかく、二人で出掛けたのだが、

夕方になって、教主様一人で帰ってきた。


少し、暗い顔をされている。


部下によると沈七は、町の友人と酒を飲んで

盛り上がっているらしい。


少し、心配したが、その日酔っぱらって、帰ってきた沈七をいつも通り、部屋に引きずり込んでいたから、大きな問題ではないのかもしれない。


はぁ。


思わず、ため息がでる。


教主様の心魔が落ち着いてきたのは、沈七のお陰だろう。


でも、やはり変だ。



一人、廊下を歩いていると、厨房から沈七が出てきた。


今日も黒目黒髪、濃い緑の衣姿。


町にいる平民の男にしか、見えない。


だが、実際は、凄腕の薬師、薬王閣の閣主、教主様の寵愛を受ける男だ。


極めつけは、何をするにしても、

必ず騒動を起こす問題児。


・・・・!今度は、何を仕出かしたんだ。


「あ、高要さん。丁度よかった。実は、カカオを発見したので、チョコレートの試作作ってみたんです。よかったら、食べて感想を教えて下ださい。」


それだけか?


以外だ。


少し拍子抜けした。


・・・・いや、


残念だと、思った自分に驚く。


沈七は、他の人にも配るのだと、風のように立ち去っていった。


手の中の黒い塊を見る。


甘い香り。


旨そうだ。



食べたい。


でも、どうしても一抹の疑念が心を掠める。



ふぅ。



誰も見ていない事を確認。


そっと、近くの池に放り投げた。


やはり、どうしても口に出来なかった。




















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