第22話 町デート?
「久しぶりだな。」
夜陵城。
この世界に来て、初めて住んだ町。
「師尊、なんだか楽しそうですね?」
「ずっと、魔天閣の中に居たからな。やっぱり、栄えている。玄夜、頑張ったな。」
玄夜は、照れくさそうに下を向いた。
「ありがとうございます。」
今日の玄夜は、目立たない灰色の衣。
裴兄だった時と同じ変装をしている。
暫く歩くと、私の大好きな山楂子飴が売っている。
日本にはなかった。
実に35年ぶりだ。
少し気分が上がる。
「玄夜、山楂子飴を買ってもいいだろうか?」
「・・・」
「玄夜?」
「そう言えば師尊は、甘味はお好きでしたっけ?」
「昔から、好きだが。」
「・・・そうですか。」
「なぜ、そんな反応をするんだ?」
「・・・一つ買いましょう。」
なんだ?
私は、昔からずっと甘味大好きだ。
いまさら、何を言ってるんだ?
買った山楂子飴をあむあむ食べながら、
ブラブラする。
こうして、改めて見ると古代だと実感する。
ハンバーガーショップもないし、
好きなブランドの服屋もない。
漢服ばかりだ。
八百屋。
魚屋。
肉屋。
料理人として興味はある。
でも、今じゃない。
ふと、可愛い小物が売っている店を見つけた。
ピンクと赤の可愛い櫛だ。
螺鈿の細工もしてある。
「師尊、それは女性物ですよ?」
「知っている。ただ、母と妹に似合うと思っただけだ。」
玄夜の足が止まった。
「・・・・」
「店主、この櫛を二本包んでくれないか?」
「師尊、買うんですか?」
「・・・いつか、渡せるかも知れないから」
店員に、櫛を包んでもらう。
お金を、出そうとする玄夜を遮り、
自分の銭嚢を取り出した。
櫛を受け取り懐にいれる。
「さて、そろそろ行こう。崑崙閣にいかないとな。」
玄夜は、なぜか動こうとしない。
「玄夜?どうした?」
「・・・いえ、何でもないです。行きましょう。」
~~~~~~~
朝、懐かしい夢をみたからか、
師尊と出掛けてみたくなった。
師尊は、久しぶりに夜陵城に来たと嬉しそうだ。
町が栄えたと、言ってくださり、嬉しい。
途中で、山楂子飴が売っていた。
別に珍しいことではない。
でも、師尊はなぜか目を輝かせている。
今までは、気にしていなかった。
でも、今日はふと気になった。
師尊は、甘味が好きだっただろうか?
俺の記憶では、師尊はお菓子を差し入れられた
時は、全て弟子に譲っていた。
茶屋で、甘味を食べる時もそうだ。
俺は、師尊が甘いものを嫌いだとばかり思っていた。
だから、少し引っ掛かった。
「そう言えば師尊は、甘味はお好きでしたっけ?」
「昔から、好きだが。」
さらりと、師尊は答える。
当たり前だろ?と言うように。
俺が、知らなかっただけなのかもしれない。
また、ぶらぶらと町を歩く。
師尊は、物珍しそうに見ている。
キョロキョロと落ち着きがない。
これでは、師尊というより大きな子供だ。
綺麗な工芸品の置いてある店が目についたようだ。
するりと店に入る師尊を追いかける。
師尊は、螺鈿の櫛を手にして、
何やら悩んでいるようだ。
「師尊、それは女性物ですよ?」
まさか、師尊に好きな女性でもいるのか?
血の気が引いた。
「知っている。ただ、母と妹に似合うと思っただけだ。」
女性ではないと、ホッとした。
ホッとした所で、あれ?と思った
師尊は、家族はいないと言っていなかっただろうか?
少なくとも、弟子として過ごした間、
師尊は一度も家族に会っていない。
どういう事だ?
俺が知らないだけなのか?
生まれ変わったと言っていた。
今の身体の両親という事だろうか?
ちらりと師尊を見る。
知らない誰かに見えた。
「さて、そろそろ行こう。崑崙閣にいかないとな。」
声さえも、違う。
当たり前だ。
別人の身体なのだから。
・・・・でも、師尊は師尊だ。
止まっていた足を進める。
急いで師尊の背を追った。
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夕方、崑崙閣の前で、師尊はピタリと止まった。
どうしたんだろうか?
「師尊、入らないんですか?」
「いや、入る。入るんだが。」
はぁ。
ため息を着く師尊。
まさか、緊張しているのか?
あの、師尊が緊張するなんて。
初めてみた。
崑崙閣は、相変わらずの賑わいだ。
柔らかい明かりが漏れでて、
人々の賑やかな声が聞こえる。
薄暗くなりはじめた、夕暮れの道と、
暖かな店の中は、別世界のようだ。
しばらくして、師尊は、
意を決したのか、一歩踏み出した。
「あれ、沈七じゃないか。」
「ご無沙汰してます。店主はいますか?」
知り合いらしい、店員に話しかけられている。
「お前、心配してたぞ。店主呼んでくるから、待ってろ。」
しばらくして、楊店主がやってきた。
沈七は、急いで店主の元に近づく。
「楊店主。」
「沈七、連絡くらいしろ。」
ガバッ。
沈七は勢いよく頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。」
「まったく……心配したんだぞ。」
「すみません。本当に。」
楊店主は腕を組んだまま、大きくため息をつく。
「怪我でもしたのかと思った。」
「色々ありまして……。」
「それで?」
「はい。何とか無事です。」
沈七が顔を上げる。
「ご心配をおかけしました。」
その顔を見て、楊店主の表情がようやく緩んだ。
「元気そうで何よりだ。」
楊店主が沈七の肩を軽く叩いた。
「ありがとうございます。」
少し離れた場所で、玄夜はその様子を見ていた。
あれは、なんだろう。
昔の師尊なら。
背筋を伸ばし。
目を伏せ。
静かに礼をする。
あれほど気安く頭を下げる人ではなかった。
常に、美しく、優雅で威厳があった。
ーーその時
楊店主の明るい声がきこえた。
「沈七、積もる話しもある、少し飲んで行かないか?」
「本当ですか?」
「では、お言葉に甘えて。」
師尊は、にこにこと随分嬉しそうだ。
俺はそっと、近づき耳打ちした。
「師尊、私は先に帰ります。護法の一人を付けるので、くれぐれも羽目を外し過ぎないようにして下さい。」
「ありがとう、玄夜。」
これ以上見ていられなかった。
違う。
そう思った。
今日だけで何度目だろう。
山楂子飴を見て目を輝かせた師尊。
町をきょろきょろ見回す師尊。
母と妹のために櫛を買う師尊。
そして今。
楊店主に叱られ、困ったように笑う師尊。
どれも俺の知らない姿だった。
苦しい。
理由は分からない。
ただ、これ以上そこにいることが出来なかった。
わいわいと賑わう店を足早に後にする
暗い夜道。
行きは二人だった。
今は一人で町を後にした。




