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薬仙の帰還  作者: 夏目葵
20/25

第20話 現代知識を生かすのは、転生ものの特徴


〈一つ目カイロ〉



ある日、下女の夕陽が廊下でうずくまっている。


「夕陽!どうした!」


「沈七。あ、今は薬王閣主様でしたね。すみせん。」


顔色が悪い。

でも、急性の病じゃなさそうだ。


「沈七でいいです。それより、どうしたんですか?」


「月のものが。寒くなってきて、冷えたみたいです。」


「温石は、使わなかったんですか?」


「使いましたが、すぐ冷めてしまうので。交換するのも難しいですし。」





・・・・。


カイロ


現代知識で、


作れないだろうか?


「・・・とりあえず、痛みを和らげる薬を処方します。今日は、私が伝えておくので、部屋で休んでください。」


「ありがとうございます。」



現代でも、大変なんだから、

この時代は、より大変だろう。


少しでも、助けになるなら。


やってみるか。




その日から、沈七の実験がはじまった。


鉄粉、塩、炭の粉、布袋


酸化による化学反応であったまるのは、

知っている。


思いつくのは、この辺りの材料。


「混ぜてみるか。」


とりあえず、詳しくないので、

やってみるしかない。


その後、何十回と実検を重ねる。

昼夜をとわず。


痛みを和らげる薬草を混ぜてみたり。

香りをよくしてみたり。


どうしても、中の鉄粉が布から少し漏れる。


衣をよごすので、特殊な樹木の皮で漏れない、袋を作ったり。




「師尊。せめて食事を取って下さい。」


「後で、食べよう。」


玄夜は、ちらりと食卓を見る。


まだ、朝に持ってきた膳がそのままだ。


昔から師尊は、集中すると寝食を忘れる。


「はぁ。師尊あなたが倒れてしまいます。」


「・・・・」


「師尊、聞いていますか?」


「・・・・」


「師尊?」


「・・・できた。」



沈七は、ついに完成したカイロを掲げた。





翌朝。


早速、夕陽にカイロを渡す。


「夕陽、身体は大丈夫ですか?温熱袋作りました。さしあげます。」


「こ、これは。暖かいです。それに、とてもいい香りがします。」


「試行錯誤の末、快適な温度が半日ほど持続するよう作りました。症状にあわせ、薬草を混ぜる事も可能です。」


「すごい。」


「でも、鉄粉を混ぜるとすぐ温かくなってしまうので、薬王閣で処方してすぐ使わなければいけません。どこでも、好きなときに温まるようしたいのですが、今後の課題ですね。」


「充分すごいです。他の下女にも伝えてもいいですか?」


「もちろんです。冬の間は、魔天閣で働く人には、無料でさしあげます。日々、頑張っていますから。」


「本当に、ありがとうございます。」


嬉しそうな夕陽を見ていると、頑張ってよかったと思える。


皆が暖かな冬を過ごせるといいな。






〈二つ目歯みがき粉〉



魔天閣には、魔人達が食事をする食堂がある。


そこを取り仕切るのは、王福。


恰幅のいい、食堂のおじさんだ。



その日。


沈七は、珍しく食堂で食事を取っていた。


いつもは、玄夜の部屋で食事をするのだが、

今日はどうしても忙しいらしい。


チャーハン 

餃子

卵の炒め物


どれも親しみのある味で、また食べたくなる。



「おう、お前が、新しい薬王閣主か?」


「ちょ、王さん。そんな失礼な言い方しちゃダメですよ」


ぞんざいな言い方に、周りの魔人達が慌てる。



「いいんですよ。新参者は私ですから。」


「分かってるじゃないか。沈七と言ったか。」


「はい。」


「料理は、美味しかったか?」


「とても美味しかったです。よくあそこまでチャーハンをパラパラに出来ますね。」


「そうだろう。コツがあるんだよ。」



二人は、暫く話をしていた。


料理に関しての話は、沈七にとって、

とても面白い。


とうとう、王福は、お茶とお菓子を持ち出した。


「それでな、新しく組み合わせた香草が・・・いたっ」


お菓子を頬張りながら話していた王福が、突然止まった。



「どうしました?」


「いや。ははは。最近歯が痛くてな。」


「ちゃんと、歯みがきしてますか?」


一応、歯みがき粉と歯ブラシは、

簡易的な物が、この世界にもある。


「いや、味が不味くてな。」


「・・・・」



フレーバー


味をつければ、歯みがきが苦手な王福でも、

歯を磨けるかもしれない。


思い付いてしまった沈七は、

早速とりかかった。




この世界の歯みがき粉は、塩を主に使っている。


とても、しょっぱい。




現代みたいな、しっかりとした物は作れないけど・・・


桂花、薄荷、陳皮を細かくすり潰し、塩へ混ぜ込む。


少しづつ配合を変えて。



虫歯予防の効果を高めるため、

細菌の繁殖を予防できる、月花草を混ぜる。


そして、少し泡立ちも欲しい。


磨いた後に、よりさっぱりとした爽快感が出るように。



水場によく生えている水回草の粉末もくわえて。


出来た。



早速、自分で使ってみる。


しゃこしゃこ。


「もごご、いい香りです。もごっ」


こうして、月影教特性歯みがき粉は完成した。




「王福さん。これ、使ってください。」


「これは、歯みがき粉か?俺はキライなんだよな。」


「沈七特製の品です。普通のとは違います。」


「まぁ、せっか作ってくれたからな・・・・」


しゃこしゃこ


「!?」


「どうですか?」


「ふご。なんだこれは?味も香りもいい。最高だ。」



その後、王福は歯が綺麗な食堂主として、

有名になった。


瞬く間に、歯みがき粉は魔人、庶民に広がった。


魔教内の虫歯率は、低下したらしい。


もっとも――


当の本人は。


新しい薬膳菓子の研究に夢中で、自


分の歯みがき粉が広まっている事など


知らなかった。






〈三つ目シャンプー〉



夜。


いつも通り、玄夜の部屋で書物を読んでいると、

肩に重みがかかった。


「師尊、何を読んでいるんですか?」


くんくん。


すんすん。


何故、この弟子は私の匂いを嗅ぐのだろう。


慣れてしまった自分が怖い。


たまには、この微妙な気持ちを弟子にも味わわせてやろう。


沈七は、そっと顔を横へ向けた。


くん。


くんくん。


「!」


「し、師尊。な、何をなさるんですか。」


何故か顔が赤い。


くんくん。


「ん?」


くん。


「師尊~」


「玄夜。」


「はい。」


「お前、臭い。」


「・・・・・・・・・・・・・・」




何故だろう。


玄夜は毎日沐浴している。


それは知っている。


だが、何というか。


獣のような匂いがする。


髪か?


シャンプーでも改良するか。


その夜。


玄夜は布団から出て来なかった。


寝る場所がなくなるので、


真ん中で落ち込むのはやめてほしい。







次の日。


沈七は、如春と薬房にいた。


「阿七、今度は何を作るんですか?温熱袋と歯みがき粉は、教内でも、かなり人気ですよ。」


「今日は、洗髪液を作ります。ちょっと、知り合いが臭くて。」


「洗髪液ですか?すでにあると思うのですが。」


「如春、沈七印の洗髪液は、もっと香りにこだわって、髪に良い薬草も配合します。」


「なるほど。」




2人は、暫く話しあった。


「阿七、基本の皂角そうかく)は、入れないといけません。あとは、薄荷、桂花ですかね。」


「桂花は、いいですね。あとは、季節の花を乾燥させて入れてもいいかもですね。」


大きな鍋に、材料を入れて煮ていく。


「あと、曼珠沙華とかどうですか?前に食べた時、肌に艶が出ました。」


「ちょ、如春。普通の人が使ったら、死にますって。」


「あははは。そうでした。」


近くで、聞いていた周青は、

この二人を組ませると、とんでもない毒物が

出来る事を知っていた。


周青は少し離れた場所へ移動した。


この二人の実験に巻き込まれたくない。






数日後


紆余曲折をへて、ついに沈七印のシャンプーが完成した。


「如春、これから実験をします。こちらに来てください。」


如春は、沈七についていく。


少し広い部屋の真ん中で、洗髪台に寝ている人物がいる。


豪華な黒衣に、白い肌。

目元だけの、面をつけてはいるが・・・

あの、武骨に優れた身体つきは、

どう考えても教主様だ。


「被験者です。彼が、臭いに悩んでいるんです。」


・・・・突っ込んではいけない。


沈七は、すぐに洗髪を始めた。


ごし、ごし、ごし


教主様の頭を思いっきり、ごしごししている。


如春は、初めて沈七が、やばい奴だと気付いた。


自分より上がいるとは・・・・


洗い上がると、くんくん嗅いでいる。


鳥肌が立った。


「う~ん。少しは、薄くなりましたかね。」


「・・・・」


教主様は、ずっと無言だ。


「如春、少し比較したいのですが、嗅いでもいいですか?」


「はぁ、阿七。君はすごいね。わかったよ。嗅いでくれ。」


くんくんくん


「如春は、とっても良い香りですね。せっかく洗髪液で洗ったのに、如春の方がいい香りです。」




「・・・・・なんだと」




地を這うような、教主様の声。


「玄夜は、もともとの体臭があるんですかね。

配合を変えて、柑橘を増やした方が合うのかもしれません。椿で香油を作るのもありですね。」


「・・・師尊」


ぶつぶつ、言いながら、教主様を放置して、立ち去る阿七。


私は、急いで拝礼して、後に続く。


本当に恐ろしいのは、阿七なのかもしれない。





それから、さらに数日。


教団内の下女たちは噂していた。


「ねぇ、聞いた?最近の教主様、すれ違っただけでいい香りがするらしいわよ。前も、男らしいいい香りだったけど、今は爽やかで深い香りがするって。思わず腰が抜けた子もいるらしいわ。」


「そうそう、素敵よね。」


「はぁ、恐ろしい方だけど、すごく格好いいわ。」




夜。


寝台で、寝る間際。


「師尊、新しく作って下さった、洗髪液と香油はどうですか?私もう、臭くないですか?」


「うん?ちょっとまて。」


くんくんくん


「・・・・いい香りだ。」


玄夜は、ホッとした。

師尊に、臭いと言われたのは人生で、一番ショックだった。


これで、安心して抱き締められる。


「人によって、合う香があるんだな。勉強になった。でも、如春は何もしなくても、いい香りだった。」



「・・・・ソウデスカ」




玄夜は布団にもぐった。


どうやら、まだ如春に負けた事が納得できないらしい。


沈七は首を傾げた。


良い洗髪液が完成したのだから、それで良いではないか。


本当に、不思議な弟子だ。


その頃。


温如春は何故か大きなくしゃみをしていた。




























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