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薬仙の帰還  作者: 夏目葵
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第19話 毒孤幽魔




ウケケケケケ


戦場を駆け抜ける、痩身の男。


醜悪な面を付け、奇声をあげている。


男の通った道には、死体の山が築かれる。



「うわぁ。毒孤幽魔様すげぇ」



毒と三日月のような円月刀を使う奇人。


毒孤幽魔。


仲間の魔人達からも恐れられる。


残虐非道な男。


なぜか、魔天閣内で、彼をみた者はいない。





ある日のこと。


薬王閣。


沈七は薬の調合をしていた。


「沈七様は、いらっしゃいますか?」


細身の長身、緑の外衣。


柔和な笑顔の男が沈七を訪ねてきた。


とても、魔教にいるとは思えない、正派にいそうな男だ。


周青は、一瞬戸惑った。


「どなたでしょうか?閣主に御用ですか?」


「私は、温如春おん・じょしゅん。と言います。」


「温如春様?聞いた事がありませんが。」


「ああ、失礼しました。毒孤幽魔といった方が正しいですね。」


「えっ!ど、毒孤幽魔様?」


あの醜面の?


「ははは。これで分かります?」


腰の令牌を差し出された。


た、確かに。


「閣主をお呼びします!」





~~~~~~~~



半時辰後。


毒孤幽魔と沈七はすっかり打ち解けていた。


「え~!如春は、蝕骨花食べたんですか?」


「はい、ピリリとして、美味しいですよね。」


「私も、食べたんですけど、また食べたいですね。」



そばで、聞いていた周青は、思った。


蝕骨花は、猛毒だ。


文字通り、骨まで溶かす恐ろしい花。


奇妙なオレンジと青の斑点があるピンクの花だ。


まず、なぜ食べようと思ったのか。


そして、なぜ生きているのか。


変人二人の会話は続く。


「そういえば、奇妙な顔のついた根をもつ草を見つけたんですよ。私、ほとんどの薬草は知っているですが、見た事がなくて。」


「阿七、食べました?」


「食べました。」


「おお、よく生きていましたね。それは、人面参ですよ。古い文献で見たことがあります。食べると、魂が抜け出ます。」


「魂ですか?」


「はい。一刻ほど、身体から魂がでます。そして、二刻の間に身体に戻れなければ死にます。」


「・・・・」


「阿七は、万毒不侵の境地ですか?」


薬仙の身体であれば、万毒不侵だったが・・・


「千毒不侵くらいですかね。」


「なら、運がよかったですね。ははは、普通死んでますよ。」


「・・・・味は、まぁまぁ良かったんですが。」


「毒草は、美味しいですからね。」


「如春もそう思います?」


「ええ。特に苦味の後に来る甘味が。」


「分かります。」


周青は分からなかった。


「そういえば。」


沈七は、ふと思い出した。


「教主様に差し入れた糖菓子は、どこのものですか?」


「あれは正派で人気の菓子なんですよ。わざわざ買いにいったんです。けっこう並んでました。」


「少し、教主人様に頂いたんですけど。

本当に美味しいかったです。(私が、全部食べたけど・・・・)」


「えっ、もしかして、阿七も甘味好きですか?」


「私は、甘味もそうですが、食べるのが好きなんですよ。」


「それなら今度、北海にある幻の氷菓を食べに行きませんか?」


「聞いたことあります!遠いから、一人では行く勇気なかったんです。」


「私もですよ。いやぁ、阿七とは、気が合いますね。こんなに気が合うのは、初めてです。」


「如春。私もです。」


長年生きてきて、ここまで同じ感覚の人は、初めて出会った。

沈七は、感動した。


本当に、どこで誰に出会うか。

運命は不思議だ。



その後、は2人は夕刻までおしゃべりに花を咲かせた。




~~~~~~~~~



日が傾き、薄暗くなった頃。


沈七は、立派な薬草園にいた。


まだ、小さな葉をそっと撫でる。


日本では、薬草の種類が全く違った。


だから、漢方を学び、あちらの世界の薬剤師の勉強もした。


でも、この世界ほど、万能な存在ではなかった。


だから、遅れて料理の勉強をした。


食べる事は、生きる事だから。



思いの外、美味しいと食べてもらう事は、楽しかった。


今では、薬よりも料理の方が好きだ。


・・・・どっちも好きだけど。




仕事にしたいのは、料理人。


趣味は薬学。


自分の中では、そんな感じ。



たまに、厨房借りて料理つくろうかなとおもう。


でも、プロの仕事には、口を出さない主義だから行きにくい。


人それぞれ、こだわっている事や、大切にしてる事があるから。


引っ掻き回すのは、嫌いだ。



「はぁ。」



疲れた。


ちょっと、伸びをした時だった。


後ろに、気配を感じた。


振り向くと、玄夜が立っていた。





~~~~~~~



やっと、仕事がおわり。


急いで師尊の元に駆けつけた。



薬草園に師尊が立っている。


夕焼けに照された、その姿は、


まるで、過去の夢のようで。



少し、不思議な感じがした。



師尊が、うーんと、身体を解すように伸びをする。



此方を振り向く師尊。


茜に照された衣がゆれる。


美しい。


昔と変わらず。



「師尊。」


「玄夜。どうしたんだ?」


「向かえにきました。」


「はは、また私も、お前の部屋に帰るのか?

子供ではないんだ。そろそろ一人で寝たらどうだ?」



「師尊。眠れないんです。13年。一度も深く眠れた事がありませんでした。でも、師尊と一緒だと、夢もみません。気付くと翌朝です。」


「・・・私は、薬ではないぞ」


「私にとっては、薬です。」


仕方ないとばかりに、ため息をつく師尊。



師尊は、なんだかんだ言って弟子に甘い。


少しのわがままなら、いつも聞いて下さるのだ。



「弟子は、お腹が空きました。師尊、早くいきましょう。」


「お前は、変わらないな。」


「はい。玄夜は、いつまでもあなたの弟子ですから。」



玄夜は、師尊の手をとる。


薄暗がりの中、2人の姿は遠ざかっていく。









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