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薬仙の帰還  作者: 夏目葵
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第16話 あなたは誰だ




夕方。


玄夜は、その日どうやって過ごしたのか思い出せなかった。


ずっと、ぼんやりと霧がかった意識で、沈七が、師尊かもしれないと考えるたびに、ドクンドクンと心臓が鳴る。


どうしたらいい?


これ以上は、耐えられない。



なんとか、平静を装って、何時も通り夕食を食べた。


一口、味がしない。


食べる気になれない。


玄夜は、とうとう頭を抱えた。




~~~~~~





沈七は、お腹いっぱい夕食を食べ幸せだった。


自分で作った料理もいいが、誰かに作ってもらうと新しい発見がある。


八角をあんな風に使うなんて。


今度やってみようと考えるとうきうきする。


少し、弾んだ気持ちのまま、薄暗くなってきた庭園に出た。


秋の訪れを感じさせる、涼しい風。


気持ちいい。


所々にある灯籠には、明かりが灯っている。


「綺麗だな。」




あの日も、こんな夜だった。


前世の自分が殺された日。


あの時は、仕方ないと死ぬ事を受け入れた。


あえて、傷を治さなかった。


死にたかった訳じゃない。


ただ、疲れていた。


これ以上、歩けそうになかった。


それだけだ。





少ししんみりした気分になった時だった。



「沈七。」


「・・・裴兄」



玄夜が立っていた。


苦しそうに、胸を押さえて。



「どうしました?顔色が悪いですよ。胸が痛むんですか?」



「・・・あなたは、誰なのですか?」




畏まってどうしたんだ?




「裴兄も知っていますよね?崑崙閣の料理人です。」




「そうじゃない!!!」


ビックリした。

大声出さないでほしい。



「では、何ですか?」


少しイラッとした。

なんだよ。

何を聞きたいんだよ。




「・・・貴方は、師尊なんですか?」




「私は、貴方の師じゃないですよ。」



昔は、そうだったけど。


今は、友だろう?





「そう、か。そうだよな。」


ははは、と自嘲気味に笑っている。




もう、行こう。


今日の裴兄は、可笑しい。




「・・・沈清月。」



また唐突に。




「はい、何ですか」




「・・・・・・!!!」




「し、沈、清月?」




「だから、何なんですか?」



「えっ。」



裴兄の動きが止まった。





「ちょ、ちょっと、本当に大丈夫ですか?

まさか、傷が開いたんじゃ。」



熱でもあるのか?


熱を測ろうと、近付いた。




その時だった。



ガシッ



「あたっ!」


腕を掴まれた。


痛い。




「本当に、沈清月なのか?」


怖。


目がまじだ。



「そうですが。昔は、そう呼ばれてましたけど。」



「なぜ、師尊ではないと言った?」



「友だと言ってくれたのは、あなたでしょ?

私は、嬉しかったんですけど。嘘だったんですか?」



「どうして、言わなかった?」


怒ってる?


分からない。なんでだよ。




「・・・聞かれませんでした。」



私がこの世界で死んで、13年。


私の感覚では、35年だ。



とっくに、立ち直っていなければおかしいだろ。


わざわざ、言う必要もないと思っていたんだ。





「どうして!!!」



慟哭のような叫び。




「俺は、師尊を探していた。あなたに、どうしてももう一度会いたかった。」



「・・・っ」



肩を揺らされる。



「師尊。無様な弟子を笑いますか?」




この子は、本当に・・・



まさか、本当に苦しんで。



前世の私の死を悲しむ者がいたなんて。




「すみませんでした。」




その言葉を聞いた瞬間、


玄夜の肩から力が抜けた。


ようやく。


本当にようやく。


探し続けた人が目の前にいるのだと実感した。




「師尊。会いたかった。」




沈七は何も言わない。


ただ背中を撫でる。


幼かった頃と同じように。


玄夜は目を閉じた。


張り詰めていたものが、


少しずつほどけていく。




「玄夜。」




静かな声。


昔と同じ言い方。


何を言おうと思っていたのか。


分からなくなった。


言いたい事は、沢山あった。



怒ろうと思っていた。


責めようと思っていた。


どうして戻らなかったのか聞こうと思っていた。



でも、今はどうでもいい。


生きている。


目の前にいる。


触れられる。


それだけで。




 




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