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薬仙の帰還  作者: 夏目葵
12/39

第12話 魔教での生活

目覚めたあと、八代魔頭。


護法。


長老。


次々と見舞いにきた。


訪問客がやっと途絶えた頃、


沈七が、粥を持ってやってきた。


「薬膳粥です。」


かちゃりと、皿を玄夜に差し出す。


そっと、受け取り一口。


「・・・懐かしい。」


師尊の薬膳粥と同じあじ。


「そうでしょう。」


「作り方は、誰から教えてもらった。」


う~んと考える沈七。


「それが、忘れてしまいました。昔、優しい誰かに、作ってもらったんですが。」


俺と同じく、師尊に作ってもらったのだろうか。


「それは、師匠ではなかったか?」


「それは、違います。師は、料理なんて作りませんでしたから。」


師尊ではない?


師尊は、薬膳だけは作っていた。


苦くて粥以外は、美味しくなかったが。


そう言えば、師尊も誰かに教わったといっていた。


「では、誰に?」


「思い出せません。」


なぞは、深まるばかり。


粥を完食した後も、俺に霊力を送ったり、薬を調合したりと、沈七は忙しい。


「そろそろ、部屋に帰ったらどうだ。」


「ここが、部屋です。」


「・・・?!」


なん、だと?


「患者が無理をするといけないので。長老に頼んだら、よろこんで。許可してくれました。」


おのれ、あの老人。


ほほほと笑う姿が目に浮かぶ。


「治るまで、裴兄の側に控えます。」


(大事な弟子だから。絶対無茶はさせない。)


ぐっと、拳をにぎりしめ、やる気満々。




そんな沈七の様子に、


急に、力が抜けた。


ふらっと、寝台に倒れ込む。


「裴兄?」


ははっと、乾いた笑いが漏れる。


師尊と運命を共にし、死んでもいいと思った。


目が覚めたら、絶望しか感じないだろうと。


でも、どうしたことだ。


なぜか、こいつといると、悲しみが薄れる。


まるで、師尊と一緒にいるような気がする。


似てる所のほうがすくない。


沈七は、食い意地は張っているし、雑で適当。


師尊とは、雰囲気も違うし、性格も似ていない。


師尊は、もっと厳かで、近寄りがたかった。


こんなに、気安くない。


だが、ふとした瞬間に、師尊を思い出す。


薬を包むちょっとした手つき。


耳に髪を掛ける仕草。


兄弟子だからだ。


師尊の側で学んだから。


だから似ているんだろう。





ちらっと、沈七を見ると、


あ~んと、大きな口を開けて食後の饅頭を頬張っている。


「うまい。」


頬を緩める沈七。


すごく、うまそうに食べる。


・・・俺の分は、ないのか。


やっぱり、どう見ても師尊とは似ていない。


師尊は仙人のような人だった。


食にも執着せず、静かで、近寄り難く。


似ていない。


全然似ていない。







~~~~






翌日から、沈七は、本当にどこにでもついてきた。


(厠に行きたい。)


そっと、立ち上がる。


「!!!」


それまで、薬を包んでいた沈七が飛んできた。


「なんですか?立たないで下さい。」


「厠に・・・」


「この容器にして下さい。」


「・・・・・・・・・」






(喉かわいたな。)


枕元の水差しを手にとった。


じっと、見ていた沈七。


「・・・重いから、持たないでください。私が飲まします。」


水差し奪い取られる。






ある日、八魔頭の一人、毒孤幽魔が、玄夜に糖菓子を持ってきた。 


正派領にある有名菓子店の糖菓子だ。


たまには、食べようと口を開けた瞬間。


シュバッ


取られた。


「毒があるかも知れません。毒見です。」


むごむご。ごくん。


「あ~やっぱり、お酒が入ってました。病人には、厳禁です。私が、処分しておきます。」


「・・・・沈七」


「はい?」


「沈七!!!!!」


我慢の限界。


こいつ、なにが師尊に似てるだ?


もう、無理だ。


がばりと起き上がった途端。


トン


点穴。


「だから、まだ動いちゃ駄目ですよ。」


「・・・・」


解こうともがく。


解けない。そんなばかな。




じっと、沈七見見つめる。


沈七は気付かない。


薬箱を整理しながら、


呑気に鼻歌を歌っている。





「薬師様、何かありましたか~?」


扉の外から、部屋を守る護法の声。


助けてくれ!



「いえ、患者が我が儘を言っただけです~」


「はは、そうですか。薬師様、ご迷惑おかけします。」


「大丈夫ですよ。仕事ですから。」


「ゔ、う~ん!!!」


こいつら、俺を何だと思ってるんだ。


「もう、うるさいですね。何ですか?」


トン


点穴を解かれる。


「お、お前!俺をだれだか分かってるのか?」


「もちろん。患者で裴兄で、魔教教主、私の友ですよね?」


「普通、教主と分かったら態度が変わるだろ。」


「変えて欲しいんですか?」


「いや・・・」


「じゃあ、いいですね。私も公的な場では立場をわきまえます。安心してください。」


裴玄夜は、負けた。





~~~~~



玄夜を治療しはじめて、5日ほどたったある日。


朝早く。


沈七は薬草を煎じていた。


薬を、作り終えると、そのまま厨房に立ち寄る。


まだ日も昇りきっていない時間だ。


厨房には誰もいない。


沈七は慣れた手つきで米を洗った。


薬草を刻んで、米と一緒に火にかける。


ぐつぐつと音が響く。


やがて、ほんのりと薬草の香りが立ち始めた。


「よし。」


頷く。


美味しく出来そうだ。


しばらく鍋を眺めていた沈七は、欠伸を噛み殺した。


眠い。


昨日は夜遅くまで薬を作っていた。


その後も処方を書き直していたせいで、ほとんど寝ていない。


だが、もう少しだ。


粥を作ったら玄夜に薬を飲ませ、朝食をとらせて、脈を見る。


それが終われば。


少しは寝れるはずだ。


取り留めの無いことを考えているうちに、粥が完成したようだ。


薬膳粥を器へ移す。


自分用もよそう。

・・・少しだけ多めに。


満足げに頷き、部屋へ戻る。


静かに扉を開き、寝台の玄夜の様子を見る。


まだ寝ていた。


「珍しい。」


思わず呟く。


普段ならとっくに起きている時間だ。


まだ顔色も悪い。


あれだけ重傷だったんだ、玄夜の驚くべき回復力がなければ、どうなっていたことか。


沈七は器を机へ置いた。


薬を並べる。


脈を診る。


熱はない。よかった。


「裴兄。」


反応なし。


「裴兄。」


もう一度。


すると玄夜の眉が僅かに動いた。


だが起きない。


沈七はしばらく考えた。


ぷにっ。


少しほっぺをつついてみた。


子供の頃とは違う。


大人になったなぁ。



その瞬間、長い睫毛がふるえる。


玄夜の目が開いた。


「・・・朝から何をしている。」


掠れた声だった。


「起きなかったので。」


沈七は真顔で答えた。


玄夜は深く息を吐く。


「普通に起こせ。」


「普通に起きませんでした。」


反論できなかった。


沈七は満足そうに頷く。


そして持っていた粥を差し出した。


「朝食です。」


「・・・」


「薬もあります。」


「・・・」


玄夜は沈七を見た。


手に持つもう一つの器には、玄夜の倍の量のお粥がもられている。


本当に。


師尊には、全く似ていない。


全然似ていない。


だが。


気が付けば。


朝起きて最初に探すのは沈七になっていた。


玄夜は何も言わず粥を受け取る。


沈七は安心したように、自分の朝食へ手を伸ばした。




沈七は、黙々と食べ、玄夜がたべおわる前に完食した。


食べ終わった、その瞬間。


眠気の限界が来た。


薬を作り。


粥を作り。


看病をして。


五日間ほとんど休んでいない。


沈七の身体がぐらりと揺れる。


ぽすっ。


そのまま寝台へ突っ伏した。


玄夜は固まる。


「・・・沈七。」


返事がない。


「沈七。」


返事がない。


寝ていた。


すぅ、すぅと寝息を立てながら、気持ち良さそうだ。




月影教の教主の傍らで寝る男なんて、そうそういない。


恐怖の象徴として、噂される男だ。


その安心しきった寝顔をみていると、


また師尊との記憶が甦った。


昔、玄夜が風邪をひいて寝込んだとき、師尊は、薬だけ渡し、看病してくれる事もなく立ち去った。


冷たいと思った。


風邪の苦しさが、数倍になったように感じた。


その日は1日、熱で苦しみ、寂しさで泣いていた。


しかし、翌朝。


目が覚めると、銀の髪が顔をくすぐった。


横を見ると師尊が、寝台に突っ伏して寝ている。


寝ている師尊をみるのは始めてだった。


いつも、食事も睡眠も取らない仙人のように思えていた。


この人は、夜通し苦しむ自分を看病してくれていたのだ。


心が、ポッと温かくなった。


・・・・・



なぜ、思い出してしまうんだ。


そっと、沈七の鼻をつまむ。


「ふごっ、ふごごご。」


はなす。


「うっ、う~ん」すやすや


師尊は、こんなに恥ずかしい奴ではなかった。


「くくくくっ」


思わず、笑いがもれる。


自分も、またパタリと寝台に横になる。


師尊以外の人間が側にいるのは、苦手だ。


でも、沈七は不思議と安心する。


少し、バカで抜けているからだろうか。


そっと、目を閉じる。


もうしばらく、休もう。




~~~~~~~



それから、更に一週間。


玄夜は、沈七の過保護な看病のもと、


ほとんど軟禁生活を送った。


なぜか、周囲の魔人は自分ではなく、沈七の言うことを聞くのだ。


いくら、部屋から出せと命令しても、沈七殿の許可がなければ出せませんと言われる。


もちろん、無理に出る事もできるが、沈七の怒る顔を思いだし、大人しくしている事にした。


翌朝、ついに沈七から外出許可がでた。


「裴兄、今日から少しの散歩なら、許可します。」



「ただし、必ず私の付き添いのもとでお願いします。あなたの、系脈はやっと全てくっつきました。私は、とんでもなく苦労しました。私でなければ、裴兄は全ての武功を失っていましたよ。

そんなときに、無理すれば、全て水の泡ですからね。わかってますか?あれ、聞いてませんね。もう一度いいますか?」


くどくどくどくどくど


「はっ?!」


今、意識が半分とんでた?!


全然聞いていなかったが、取りあえず頷く。


「わ、わかった。」


「まったくもう。」


やれやれ、という感じでため息をつきながら、そっと、腕を取られる。


沈七は、そっと、もたれ掛かるように俺の身体を支える。


ふわっと香る檀香。


普通の檀香より、どこか柔らかで甘い。


師尊と同じ香り。


思わず、くんと嗅いでしまう。


「・・・・・あの、裴兄?セクハラですか?」


「セ、セクハラ・・・?」


なんだそれは?


しらぁーとした目でみられる。


なんだその目は?


「当たっただけだ。」


「本当に?」


「本当だ。」


「そう言う事にしときましょ。」




裴兄、昔と変わらないな。


私は知っていた。


子供の頃の玄夜が、たまに私にぶつかってきては、こっそり匂いを嗅いでいたことを。


当時は寂しいのだろうと思っていた。


師尊に甘えたい年頃だったし。


だが。


今思うと。


もしかして違ったのだろうか。


「・・・」


沈七はそっと一歩離れた。


少しだけ怖くなった。



~~~~~~



部屋を出ると、近くで掃除をしている下女がいる。


「おはよ。夕陽」


「あら、沈七おはよ…はっ、君上。」


下女は、玄夜に気付くといそいで、拝礼した。

通り過ぎたところで、沈七が後ろを振り返る。


「また、あとで飴もってくね。妹さんの分も作ったから。」


「沈七ありがとう」


下女は、沈七と親しいようだ。


自然な笑顔を浮かべている。




そのまま歩いていくと、部屋を守る護法の一人と出くわした。


「君上に、拝礼いたします。」


「あっ、高要さん。いつもお疲れ様です。」


「沈七、教主様をありがとう。教主様、ご回復をお喜び申し上げます。」


「教主様の、回復力のおかげですよ。」


にこにこ。


いつも、厳しい顔をしている高要が、笑っている。





また、しばらくあるく。


20代くらいの妖艶な美女が歩いてくる。


誰だ?


なぜ、誰も警戒しない?


「君上。ご回復お喜び申し上げます。」


「あ、朱香様。また、お若くなりましたね。」


朱香?!


幻魂邪手!


8魔頭の一人だ。しかし、50歳くらいの見た目だったはず。


目の前の幻魂邪手は、明らかに若い。


「沈七の薬のおかげです。また、頂けますか?」


「もちろんです。材料さえあれば、いくらでも作りますよ。美女の為ですからね。」


「あらまぁ。ほほほほ」


再び歩き始める。


なんだこれは。


明らかにおかしい。


下女や護法は分かる。


でも、幻魂邪手までろう絡されてる。




「沈七。おまえ幻魂邪手に何をした?」


「朱香様は、お悩みがあったようでした。なので、ちゃちゃっと、若返りの薬を考案し、作りました。」



「・・・・はっ?」


それは、そんなに簡単に出きるものだったか?

喉から手が出るほど欲しがるものも、いるだろう。


「とはいえ、少しでも配合を間違うと、劇毒になりますから、私以外は扱えませんけどね。」


「副作用はないのか?」


「あります。」


やはり!!寿命が縮まるとか、霊力を損なうとか、きっと強い副作用にちがいない。

幻魂邪手、それでも若さが欲しかったのか。

女とは、わからない。


「服用後、一週間味覚がなくなります。

ものすごい、苦い薬なので。」


「・・・・」


今わかった。


こいつは、師尊以上におかしい。


頭がおかしい。





なんか、冒頭。

少し物足りない気がしますが、

取りあえず、完結してから直します。

読みにくいと、思いますが、違和感を感じた方がいたら、すみません。

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