図鑑 No.014:黒薔薇の黙咲の娘キャンティ
頁を開いた瞬間、脳裏にひらめくのは光の奔流だった。
古代の聖歌のような囁きが木霊し、文字でも絵でもない「何か」が俺の感覚へ流れ込んでくる。
世界の理が一瞬だけ剥がれ、妄想と現実が重なりあう。
──そう、これは図鑑でありながら、異界を解き放つ鍵そのものなのだ。
(*月下に咲く黒薔薇の庭を背に、黙して微笑む艶麗なる影)
■ 分類名:半人半神・黒薔薇一族系統
• 発動条件:妄想が「孤高の美」と「沈黙の呪い」を同時に描いたとき、発生。
• 通称:「沈黙の薔薇」
「血を継ぐ微笑」
「夜会の影姫」
■ 外見特徴
• 漆黒のドレスに身を包み、闇夜に浮かぶ白い肌がひときわ妖艶に映える。
• 紅の瞳は人を惑わせ、見る者の心を凍らせると伝えられる。
• 髪や衣の隙間からは薔薇の花弁が零れ、足跡に黒薔薇が芽吹くという。
■ 能力特性
• 黒薔薇の結界:周囲に幻影の薔薇を咲かせ、敵の精神を鈍らせる。
• 黙咲の鎮魂歌:囁くように奏でる旋律が、魂を安らぎに導くが、生者をも沈めかねない。
• 血の継承:黒薔薇一族の末裔。解放されれば、その力は王族をも超えるとされる。
■ スキル一覧
【サイレンス・ロージア】
・ 黒薔薇の花弁を散らし、対象の声と魔力詠唱を封じる。
「静かにして……声は夜の闇に飲まれるのよ」
【ミゼラブル・トゲ】
・ 無数の黒い茨を生み出し、対象の心臓を締め付ける。
ダメージと同時に「絶望」状態を付与。
【ヴェール・オブ・ナイト】
・ 漆黒のカーテンを展開し、物理・魔法攻撃の命中率を下げる。
発動時、空気が夜に染まる。
【黙咲の抱擁】
・ 両腕で抱きしめる仕草を見せるだけで、対象は立ち尽くす。
効果:精神耐久が弱い者は即座に「行動不能」。
【ブラッド・ローズ・サクリファイス】(必殺妄想技)
・ 自身の血を薔薇に変え、それを散らして範囲攻撃。
犠牲と美の象徴。発動後はHPが半減する。
■神代魔法との関連性
• 伝承に記される「黙示の花嫁」と同一視される存在。
• 神シロの古記録に「黒薔薇の娘は、沈黙と契約の器」と注釈が残る。
• 詠唱の一節に応じて姿を現すこともあり、召喚魔法の隠し鍵とも噂される。
■ 備考/伝承
古き文献にはこうある。
「彼女を見たとき、薔薇は黙して咲き、風は声を失う。
微笑みを受けた者は生涯その影を忘れず、
裏切りし者は沈黙の棘に貫かれる」
■ 図鑑メモ
「……観察の折、彼女はこちらを一瞥しただけで周囲の音が消えた。
心臓の鼓動すら遠くに追いやられ、ただその瞳に囚われる。
彼女は敵か味方か、未だ判別できない。
だが一つだけ確かなのは⸻
黒薔薇は、決してただ美しいだけの存在ではない。
……その瞳に見つめられると、抗えない。
でも、彼女が泣いているように見えたのは……俺だけなのか?」
⸻ゴクトーの妄想の記憶より。
図鑑を閉じると、わずかな温もりだけが掌に残った。
それは神代の囁きの名残のようだった。




