神様(寝)の日常 舞台裏の巻
「…約束が違う。」
今にも雨が降りそうなぐずついた天気だった。
それは、今のわたしの心情と同じかもしれない。
わたしはとある人物に人目のつかない校舎裏に呼び出されていた。
「約束?何のだ?」
目の前の人物…顎髭のクズはわざとらしくそう言う。
死ね。
「とぼけないで。それとも約束すら忘れてしまうような鳥頭なの?」
「ハッ」
クズは鼻で笑う。死ね。
「約束たぁな、忘れる為にあんだよ。忘れんのは得意だぜ?」
「死ね…じゃない、自分勝手。」
「おい今オレに向かって死ねって言わなかったか?」
「あれ、覚えてるんだ。忘れるのは得意なはずなのにね?」
「チッ」
嫌みをぶつけてやったらあっけなく引き下がった。
是非ともその謙虚さを増やしていただきたい。
「お兄ちゃん達…万達に接触しない事が条件だった。お前が接触したのならもう協力する義理はない。」
「ハッ、好きにすると良いさ。だが、そのせいでもっと厄介事が増えても知らねーぞ?一応抑えてはいるんだからな」
「…ちっ。」
イラつくわたしを見てさっきの仕返しが出来たとでも思ったのか、ドヤ顔になるクズ。
死ね。
「オレだって上からの命令にゃあ逆らえねーぞ」
「だから何?」
「指令が出たらそれが最優先って事だ。お前みたいな子供のの頼みなんざ聞いちゃいられねーよ」
「それが約束を破る理由になるとでも?」
「ああ、なるね」
「…このクズが」
どんな方法でもいい。とりあえず死んで欲しい。
とは思うがそう上手くは世の中回っていない。
「流石、政府特務課の犬だね。ヘドがでるよ。」
「はん、その犬にすら勝てないのはどこのどいつだか」
「……。」
そう、このクズは政府特務課のスパイだ。
しかも、かなり上の階級の。
政府特務課はわたし達神力持ちを研究する政府の裏の顔だ。
このクズはわたし達を監視する為にこの学校の先生に擬態している。
このクズを倒せば向こうもそれなりの痛手を受けるだろう。
しかし、倒す事は出来無い。
何故ならば、こいつはかなり強いからだ。
おそらく神力持ちの中でもトップクラスの実力がある。
神力にはある程度種類がある。
1つ目は、わたしや真照さんみたいな情報系。
2つ目は、夜神みたいな感覚操作系。
3つめは、お兄ちゃんや造神先輩みたいな物体操作系。
4つ目は、このクズみたいな戦闘系。
そしてその他だ。
その戦闘系の神力の中でもトップクラスなのだ。
情報系のわたしが勝てる訳がない。
で、真照さんが見る事が出来なかったこのクズの神力…『剣を操る者』は無数の剣を自分の手を使わなくても操れるというもの。
雷獣の件の時に無数の剣が浮いていたり振るわれていたりしたのもこのクズの神力だ。
フロート武器とかが近いかもしれない。
オートで迎撃したり攻撃したり出来るらしい。
ある意味剣を持つ手が無数にあるのと同じかもしれない。
この神力について問い詰めたらあっさり吐いた。
このクズにとったら大した情報ではないらしい。
死ね。
「まあオレはお前らの事なんてどうでもいいんだがよ。ほらよ」
そう言って手渡されたのは紙と人形だった。
紙には『ヒトリカクレンボ』と書いてある。
「今回の依頼だ。さっさとやれよ」
…わたしは凄く、凄く不本意だけれどこのクズの仕事を手伝っている。
お兄ちゃん達を特務課に関わらせない為に。
わたしはこのクズの仕事を手伝う変わりにクズには嘘の報告を書いて貰っている。
『役に立たなさそう、無害』と。
こうでもしないと特務課に攫われかねない。
日常が、脅かされてしまう。
お兄ちゃん達には何も知らないで貰いたかった。
…やりたくないけれどやるしかない。
ヒトリカクレンボの事が書いてあった紙を見る。
ヒトリカクレンボは簡単な降霊術のようだ。
人形を使うらしい。
その人形は…汚い。かなりボロボロだ。
元は可愛らしい兎の人形だったのだろうけれど今は片目が取れかかっている。
服を着ている。大正辺りの女学生の服みたいだ。
「…わかった。」
まさかこの時のこの判断が、街全体を巻き込む大騒動になるだなんて思いもしなかった。




