ヒトリカクレンボ 前編
※危険ですので良い子でなくても真似しないで下さい。
時は丑三つ時、即ち午前三時。
暗い部屋の中の光源は、砂嵐な画面のテレビのみ。
「最初の鬼はわたしだから。」
水色の髪の少女は兎のぬいぐるみに語りかける。
そのぬいぐるみには綿ではなく、米と、少女の爪が入れられていた。
縫い目には赤い糸。余った糸はリボン結びにされていた。
ちゃぷ…
水を満たした風呂桶にぬいぐるみが沈められる。
水面がゆらゆらと揺れた。
洗面所から出た少女は目を瞑って十数える。
「いーち、にーい、さーん、しーい…。」
今日は梅雨にしては珍しく、晴れているようだった。
月が少女の顔を照らした。
「ごーお、ろーく、なーな、はーち…。」
その少女は、智神 こころと呼ばれる少女だった。
かくれんぼをするために目を隠す彼女は年相応に見える。
「きゅーう、じゅーう。」
ぱっ、と彼女は目を開いた。
そして、ポケットからハサミを取り出す。
そのままふらりと彼女は風呂桶の前に立つ。
「ウサミちゃん、見つけた。」
彼女はドスりとハサミでぬいぐるみを刺した。
米がパラパラと溢れる。
「次は、ウサミちゃんが鬼だから。」
そう言った彼女はハサミをぬいぐるみの手に持たせて素早く押入れに駆け込んだ。
それと同時に水が滴る音が聞こえた。
彼女は押入れの中で息をひそめる。
だが、中々来ない。
そのまま彼女は寝落ちした。
気がついたら朝で、ぬいぐるみは家中探しても何処にも見つからなかった。
☆☆☆
「ふぁ〜あ…」
眠い。あと五分寝たい…。
しかし、その夢は叶わない。
何故ならば。
『ピザ・モッツァレ…』
電話がかかって来たからだ。
九頭龍からのようだ。
前にもこんな事あったな。
「…もしもし…」
『おう!幸神!外見てみろ外!』
「はぁ、外?」
俺はカーテンを開ける。
朝日が眩しい。
そこで見たものは…。
『ぬいぐるみが一人でに歩ってるぞ!』
数えきれない程の数のぬいぐるみが街中に蔓延っていた。
「…はあ?」
俺は暫く開いた口が塞がらなかった。
動物を模したぬいぐるみ、人型のぬいぐるみ、自作であろうぬいぐるみ、果てはプラモまで。
普段動く事の無い人形達が、百鬼夜行よろしく歩き回っていた。
見る人が見ればファンシーな、別の人が見ればホラーな光景だ。
俺は急いでテレビをつける。
緊急ニュース扱いで俺達の住んでいる街が映し出されていた。
「本日未明頃から足藁市にてぬいぐるみが一人でに動く珍事が発生しております…」
足藁市っていうのはこの街の名前だ。
上空のヘリコプターからの映像が映し出されている。
街は至る所にぬいぐるみが有るようだ。
電車は止まり、車は動かず、交通機関は麻痺。
人は…動けるみたいだがわらわらとまとわりつかれている。
公園にいる少女が映る。
あ、よく見たら真照の妹の穂能だった。
ぬいぐるみと楽しそうに遊んでいる。
「…大変な事になってるな」
『おう、大変だ!だがおもしれーぞ!家から出てみないか!?』
「お、おう」
制服に着替えた俺は玄関を開ける。
そこには九頭龍がいた。
頭の上にぬいぐるみがよじ登ろうとしている。
「お前…家の前に居たのか」
「そーだぞ!何度チャイムを鳴らしても出ないから困ってたんだぞ!」
「あー…すまんな」
とりあえず九頭龍の頭の上に乗ったぬいぐるみを引き剥がす。
ジタバタと暴れていた。
「本当に動いてんな…」
「陸に上がった魚みたいだな!」
いや、例え方!
確かにそれっぽいけども!確かにそれっぽいけども!
そんな会話をしていたら、焦った顔の真照と何故か若干震えている夜神と少し顔色が悪いこころがやって来た。
「万!九頭龍!無事だった!?」
「ああ、と言うか無事もなにも…被害なんて無いだろ?」
交通機関を使う訳じゃ無いしな。
「違うのよ!被害が出てるわ!」
「へ?」
ぬいぐるみなんかが被害を出せるのか?
と思ったのもこの知らせを聞くまでの束の間だった。
「造神先輩が拉致られたわ!」




