オシラサマ (上)
声のした方に全速力で走る。山の中だから自転車は入れない。木々が鬱蒼としていて走りにくい。
暫く走るとジンジャと呼ばれる古い遺跡のある所に出た。大体1つの街に1つはある、変わった建物だ。
石で出来た階段を登ると何かが吹っ飛んで来た。血まみれでボロボロになっていて意識は無い様だったが、それは真照だった。何とか受け止める事に成功する。
真照が吹っ飛んで来た方向を見ると、そこには…こいつはお化けなのか?パッと見は軍服を着た少年だが、何から何まで真っ白だ。肌も、服も、目も、髪も。表情は無く、ただただ冷徹にこちらを見ている。その顔は、真照にとても良く似ていた。真照が無表情になったらこんな感じかもしれない。手には赤い紐…いや、鞭か?そこだけ赤くて目立っている。
「誰だお前!真照に何をした!?」
少年は答えない。俺の事は意に介さないとでも言う様に、真照に近づいてきた。
「させるか!」
俺の奥の手その1!塩!真照みたいに対抗手段が無い俺が長い時をかけて気づいたお化けへの対抗策である。伊達に命をかけた鬼ごっこをしていない。お塩万歳。
『……』
少年は若干嫌そうにしているが大した効き目は無い様だ。一袋かけたのに。
少年はまだ近づいて来る。
俺の奥の手その2!札を投げる!これは遺跡から大量に発掘されるもので、そこまで高くないが大体のお化けに効果がある。これをあいつに投げぁああああああああああああああああ!!!弾かれた!鞭っぽいのでパァンって弾かれた!でも弾くって事は少なくとも脅威としては感じていると言うことでもある。
今手に持ってる札を全て投げる。大体が弾かれたが、1つ2つは当たった様だ。当たった時に大きく仰け反っている。顔は真顔だから中々にシュールな図になっているが。
『……』
どうやら俺の事を敵として認識した様だ。そうだ。それで良い。このまま真照を狙われたら真照は死んでしまう。それだけは避けないといけない。それにまだ、俺には奥の手があるからな!手数は多い方が良い。
俺の奥の手その3!水!天然水のとても綺麗な水である。水場にはお化けがよくいるが、あれは水を取らせまいとしているだけだ。お化けの嫌がる事は、俺には有益なのである。事実、とても良く効く。
俺はそれを少年にかける。流石に鞭では避けきれまい。
と思っていた時期が俺にも有りました。何なんだあれ!?鞭をもの凄い速さでブンブン回して、水を避けるって!?まさかの鞭万能説。ただし鞭は水がかかったはず。それでも弱体化しないと言う事は鞭はあのお化け本体に関係ない?鞭は体の一部ではない?
『……!』
うわっ!?危なっ!?少年が鞭を打って来た!すんでの所で避ける。途端に響く爆音。飛び散る石だたみの欠片。風圧で吹っ飛ぶ俺。
…何だろう?あの武器?あれ本当に鞭?俺、鞭の定義を見直した方が良いと思う。ノット鞭、イエス何か。あんなのに当たったら俺死んじゃう。木っ端みじんになる。
だが、俺にも手段が無いワケじゃない。要は鞭を固定するか、手から離せば良いんだ。
不意打ち気味に札を投げる。さっきので全部使い切ったワケじゃない。ちゃんとある程度は手元に残してある。狙うは右手。鞭を持っている方。
少年は仰け反る。手から鞭が離れる。その離れた鞭を拾う。…軽いな。これ本当に鞭か?糸よりも軽い。中味が詰まって無いんじゃないか?
その鞭を振るおうとした途端。
「!?」
重いっ!?何だこれ!?とても鞭とは思えないほどだ。思わず鞭を落としてしまう。今度拾ったのは持ち主の少年だった。しかも拾うついでに腹パンまで決められた。
「がっ!?」
口から言ってはいけない何かが出る。腹が痛くて思わずしゃがむ。そこからは一方的だった。
殴る、蹴る、鞭。着実に俺の体力を減らしに来ていた。目の前にいる俺を消そうと、無慈悲な攻撃は続く。いつしか真照と同じ様にボロボロになっていた。しかも口から血が流れている。
う、やば…。意識が朦朧として来る。この状態じゃ俺の奥の手その4とその5のファブ○ーズと数珠が使えない。体を庇うので精一杯だ。
そんな時、白い光がこちらに向かって放たれた。
『……!』
少年は脅威と感じたのか俺からどいて避けた。俺は回避出来ずにぶつかるが…暖かい。まるでお日様に当てられているみたいだ。このまま寝そう。
「よ、ろず…。逃げ、て…」
見ると、真照がよろよろと立ち上がっていた。手元には鏡。
「真照…!?大丈夫か!?」
「逃げて…。これはあたしの問題。万は関係ない…!」
「関係ないワケ無いだろう!何で真照が死ななくちゃならないんだ!!」
「もう良い…!もう良いのよ!あいつは…オシラサマはあたしが目的よ!関係ない万が死ぬなんて嫌…!!だから…」
真照が俺を見て言う。その目は涙で濡れていた。
「生きて…!あたしの分まで、生きて…!!」
その言葉に、俺は…。
ブチギレた。
何故だろうか?自分でも何でこんなにも怒りを感じているのか分からなかった。
「おい…真照。お前は何で諦めているんだ?」
「え…?だって鑑定に死ぬって…そう書いてあって…」
「鑑定にそう書いてあったから、何だ?死ぬのか?それは絶対なのか?なぁ、何で抗わないんだ?…もしかして、死にたいのか?」
その言葉に真照もキレた様だ。
「何よ…さっきから…。あたしだって死にたくない!!!」
「なら何で諦める!?なら何で抗わない!?…お前は、まだ!!生きてんだろうがよ!!!そう簡単に命を投げ出すな!そう簡単に諦めるな!!」
「っ…!」
「真照、お前の手帳を見た…。沢山願い事が書いてあったな。その中で真っ黒に塗り潰されたやつがあったな…。それが真照の、一番叶えたい夢なんだろう?なら、言え!俺が!!俺が、叶えてやる!!!」
真照の目から涙が零れる。2、3度口を開けたり閉じたりした後、大きい声で、
「生きたいっっ!!!あたしは!!!あたしは、生きたいっっ!!!」
それは、心からの、魂からの叫びだった。
俺は、オシラサマを倒すための力が欲しい。真照の願いを叶えたい。真照の、生きると言う幸せを、叶えたい!!!
その時。眩い青い光が辺りを満たした。
オシラサマは土着神です。本当は良い神様です。




