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悪役令嬢ですが、攻略対象を全員無視して隣国の王子を奪います  作者: サトー
第二章 隣国の王子と始まる新たな物語
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黒い王冠を生み出した者

神殿全体が激しく揺れていた。


天井から細かな石が落ち、古代文字の刻まれた壁に次々と亀裂が走っていく。


リヴィアは青い宝石を握りしめた。


「この神殿を……消す?」


「そうだ」


三百年前から生き残っているという青年が答える。


「ここには、奴らが消したかった最初の記録が残っている」


ルシアンが剣を構えた。


「黒い王冠を生み出した者は、ここにいるのか?」


青年は首を横に振った。


「本人は来ない」


「なら、誰が来る?」


「記録を消すための使者だ」


その言葉と同時に、神殿の奥から黒い霧が流れ込んできた。


霧の中から、無数の黒い兵士が姿を現す。


その胸元には、黒い王冠の紋章。


「……また、あれ」


リヴィアが呟く。


ルシアンが彼女の前に立った。


「下がって」


「いいえ」


リヴィアは首を横に振る。


「今回は私も戦います」


「危険だよ」


「分かっています」


リヴィアは青い宝石を掲げる。


「でも、この神殿を守らなければ、三百年前の真実も消されてしまいます」


ルシアンは一瞬だけ彼女を見つめた。


そして、静かに頷いた。


「分かった」


「ありがとうございます」


「ただし、無理はしないで」


「殿下もです」


二人は並んで前へ出た。


黒い兵士が一斉に襲いかかってくる。


ルシアンの剣が最初の一体を切り裂いた。


リヴィアは青い魔力を放ち、別の兵士を吹き飛ばす。


しかし、敵は倒れても黒い霧となって再び立ち上がる。


「やっぱり……」


リヴィアは敵の動きを見ながら呟く。


「これまでと同じです」


「核があるはずだ」


ルシアンが答える。


「でも、どこに?」


三百年前の青年が叫んだ。


「神殿の中央だ!」


「中央?」


「この神殿そのものが記録装置になっている。中央の水晶を壊されれば、すべての記録が消える!」


リヴィアは周囲を見る。


神殿の中央。


そこには巨大な水晶が浮かんでいた。


その内部には、無数の光が閉じ込められている。


「なら、あそこを守ればいい!」


リヴィアが走り出す。


ルシアンも続いた。


だが、黒い兵士が二人の前に立ちはだかった。


「邪魔!」


リヴィアが魔法を放つ。


青い光が敵を押し返す。


その隙にルシアンが駆け抜けた。


「リヴィア、右!」


「はい!」


彼女が右へ飛ぶ。


次の瞬間、黒い刃が目の前を通り過ぎた。


ルシアンが敵の背後へ回り、剣を振り下ろす。


「大丈夫?」


「はい!」


「よかった」


二人は再び水晶へ向かう。


しかし、その瞬間。


神殿の奥から、低い声が響いた。


「無駄なことを」


黒い霧が一箇所に集まる。


そこから一人の男が現れた。


長い黒髪。


黒い衣装。


胸元には黒い王冠。


しかし、これまでの黒衣の人物とは違う。


圧倒的な魔力が、周囲の空気を歪めている。


三百年前の青年が息を呑んだ。


「……まさか」


男は青年を見る。


「久しぶりだな」


「お前……」


青年の表情が険しくなる。


「まだ生きていたのか」


「お前たちが世界の修正を失敗させたせいでな」


男は笑った。


「三百年もの間、私は記録を修正し続けた」


リヴィアが前へ出る。


「あなたが……黒い王冠を?」


「違う」


男は首を横に振る。


「私はただの管理者だ」


「では、誰が作ったんですか?」


男はリヴィアを見つめる。


「お前は、本当に何も知らないのだな」


「……何を?」


「黒い王冠を作ったのは、人間ではない」


神殿の奥で、巨大な壁画が光り始めた。


そこには――。


巨大な龍。


その頭上に浮かぶ黒い王冠。


そして、その前に跪く無数の人々。


リヴィアの目が見開かれる。


「……龍?」


「そうだ」


男が答える。


「この世界が生まれるより遥か昔」


「世界の可能性を観測していた存在がいた」


「それが――黒冠龍」


その名前が神殿に響いた瞬間。


水晶の中に、巨大な黒い龍の姿が浮かび上がった。


黄金色の瞳。


黒い鱗。


頭上には黒い王冠。


リヴィアの背筋に寒気が走る。


「この龍が……すべての始まり?」


「そうだ」


男は続ける。


「黒冠龍は、無数の可能性を観測していた」


「だが、ある時こう考えた」


「『可能性が多すぎる』と」


ルシアンが低い声で言う。


「だから、未来を一つにしようとした」


「その通り」


「それが黒い王冠の始まりか」


男は頷いた。


「黒冠龍は、自らの意思を記録として残した」


「その記録を受け継いだ者たちが、後に組織を作った」


「そして三百年前、セラとあの青年がそれに抗った」


リヴィアは三百年前の青年を見る。


「あなたは……あの時、黒冠龍と戦ったんですか?」


青年は苦しそうに頷いた。


「直接ではない」


「私は黒冠龍の記録を破壊しようとした」


「だが、完全にはできなかった」


男が笑う。


「だから私は、その続きを三百年間続けてきた」


「記録を守るためではない」


「すべての可能性を一つに戻すために」


リヴィアは拳を握る。


「それは間違っています」


男の表情が変わった。


「何?」


「未来は一つじゃありません」


リヴィアは青い宝石を掲げた。


「私はそれを何度も見ました」


「自分が死ぬ未来も」


「ルシアン殿下が存在しない未来も」


「それでも、私はその未来を選びません」


ルシアンが隣に立つ。


「僕もだ」


男は二人を見つめる。


「……お前たちは、三百年前と同じことを言う」


「だからこそ――」


男が手を掲げる。


「ここで終わらせる」


黒い魔力が神殿全体を包み込む。


水晶が激しく揺れ始めた。


三百年前の青年が叫ぶ。


「水晶を守れ!」


「このままでは、すべての記録が消える!」


リヴィアは水晶へ走る。


しかし――。


黒い魔力が行く手を塞いだ。


「っ……!」


進めない。


ルシアンが剣を振るう。


「リヴィア!」


「殿下!」


二人の視線が交わる。


そして、同時に頷いた。


青い光。


銀色の光。


二つの魔力が重なり、黒い壁を押し返していく。


男が驚く。


「二つの鍵……」


「それだけではない」


リヴィアが叫ぶ。


「私たちは、もう一つの鍵も持っています!」


「もう一つ?」


リヴィアは自分の胸へ手を当てる。


「選択です!」


その瞬間。


神殿の中央に刻まれていた四つの文字が輝いた。


『世界』


『存在』


『選択』


そして――。


『記憶』


四つの光が一つになった。


巨大な水晶が、まばゆい光を放つ。


男が後退する。


「まさか……」


三百年前の青年が目を見開く。


「四つ目の鍵が……完成した」


水晶の中から、一つの光が飛び出した。


その光はリヴィアの胸へ吸い込まれていく。


「……!」


瞬間。


大量の記憶が流れ込んできた。


三百年前の景色。


セラ。


青年。


黒冠龍。


そして――。


そのすべてを見ていた、別の存在。


リヴィアは目を見開いた。


「……まだ、誰かいる」


「誰が?」


ルシアンが尋ねる。


リヴィアは震える声で答えた。


「黒冠龍を……観測していた存在が」


神殿の奥。


誰もいないはずの場所に、一つの黄金色の瞳が開いた。


そして、静かな声が響いた。


『ようやく、ここまで来たか』


リヴィアたちは一斉に振り返った。


そこにいたのは――。


黒冠龍ではなかった。


白い龍だった。


その額には、黒い王冠とは正反対の――。


黄金の冠が輝いていた。

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