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月白旅館、鏡の間の夜勤  作者: わがままな饅頭


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7/8

七、それぞれの夏

夏休みの終わり、千夏は、旅館での、最後の夜勤を迎えていた。


「千夏さん、この夏は、色々と、驚かせてしまったわね」


女将が、労うように、声をかけてきた。


「いえ、貴重な経験を、させていただきました」


「来年も、良かったら、また、来てね」


「はい、ぜひ」


千夏は、素直に、頷いた。あの、恐ろしい出来事があったにもかかわらず、この旅館での日々が、不思議と、嫌いにはなれずにいた。


佐伯が、静かに、千夏に、近づいてきた。


「千夏さん、ありがとう」


「何を、ですか」


「姉のこと、ずっと、一人で抱えていたから。でも、今回のことで、少し、心が、軽くなった気がするの」


佐伯は、初めて、柔らかい笑みを、見せてくれた。


「これからも、ここで、姉の分まで、この場所を、大切にしていくわ」


夜勤を終え、寮の部屋に戻る途中、千夏は、ふと、あの、重厚な引き戸の前を、通りかかった。


引き戸越しに、そっと、手を合わせる。


(ゆっくり、休んでくださいね)


心の中で、そう呟くと、千夏は、静かに、その場を後にした。


山間の月白旅館には、今夜もまた、静かな夜が、訪れている。かつての悲しい出来事も、こうして、少しずつ、癒され、そして、受け継がれていく。


千夏の、少し不思議な夏休みは、こうして、静かに、幕を閉じたのだった。

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