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月白旅館、鏡の間の夜勤  作者: わがままな饅頭


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四、古い新聞記事

休憩時間、千夏は、非番の日を利用して、麓の町にある、小さな図書館を訪れることにした。あの事故について、もう少し、詳しく知りたいという気持ちを、抑えられなかったのだ。


「百年前の、山崩れの事故について、調べたいんですが」


司書の老婦人は、少し驚いた顔をしながらも、地域資料室の奥から、古い縮刷版の新聞を、何冊か、運んできてくれた。


「月白旅館の、事故のことかしら。この辺りでは、今でも、時々、話題に上るわね」


千夏は、丁寧に、当時の記事を、探し始めた。黄ばんだ紙面に、達筆な、古い活字が並んでいる。


『月白温泉、山崩れにより宿泊客三名、従業員二名死亡』


見出しを見つけた瞬間、千夏の心臓が、大きく跳ねた。記事には、当時の状況が、簡潔に、記されていた。


『前日からの豪雨により、旅館裏手の斜面が崩落。当時、鏡の間と呼ばれる離れの一室に、避難していた宿泊客、従業員が、巻き込まれた模様』


(避難していた、部屋……)


千夏は、記事を、さらに読み進めた。


『崩落の直前、当該の部屋からは、複数の悲鳴が聞こえたとの、近隣住民の証言がある。だが、救助が到着した時には、既に、手遅れであった』


記事の最後には、犠牲者の名前が、簡単に、記されていた。その中に、「佐伯」という姓を見つけ、千夏は、思わず、息を呑んだ。


(佐伯さんの、お姉さん……)


さらに、ページをめくると、事故から、数年後の、別の記事が、目に留まった。


『月白旅館にて、再び、不審な事案。深夜、離れの一室を訪れた宿泊客が、行方不明に』


その記事には、当時の従業員が、「離れの部屋には、近づかないよう、注意を促していたが」と、コメントを寄せていた。だが、それ以上の、詳しい経緯は、記されていなかった。


千夏は、司書に、それとなく、尋ねてみた。


「この、行方不明になった方について、その後、何か、分かったことは」


司書は、少し、言いにくそうに、答えた。


「結局、見つからずじまいだったと、聞いているわ。あの旅館は、昔から、色々と、噂の絶えない場所だから」


「噂、というのは」


「鏡の間に、近づいた者は、時々、"何か"に、連れて行かれてしまう、とかね。まあ、ただの、迷信でしょうけど」


司書は、そう言って、笑いながらも、その目には、僅かな、真剣さが、滲んでいるように、千夏には見えた。


図書館を後にし、山道を、旅館へと戻りながら、千夏は、これまで以上に、重い不安を、抱えることになった。単なる、迷信では、片付けられない、何かが、あの鏡の間には、確かに、存在しているのかもしれない。


だが、その不安以上に、千夏の中では、抗いがたい好奇心が、少しずつ、頭をもたげ始めていた。

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