30学園の潜入方法を考えていたら、美少年が現れました
ソフィアとエリザベスが、カナデをどうやって学園に潜り込ませるかについて頭を悩ませている間、カナデは手持無沙汰で暇だった。
あれやこれや二人で議論が交わされているが、どれもカナデを不審者に仕立て上げるものしかないらしい。
「先生と保護者、生徒がダメなら、学園の仕事を引き受けている外部の人間ではどうでしょうか?」
「外部の人間か。例えばどんなものがあるのだ?」
「インフラ関係で、水道や電気とかの整備をする人。教科書などの備品を売る業者。売店の店員。後は学園の雑務を引き受ける用務員とか、ですかね」
近くにブラックとホワイトがいたので、カナデは、二匹を自分の膝の上にあげて、自分のことを話しあう二人の会話に耳を傾ける。二匹の猫も話に興味を持ったのか、耳をぴんと張って二人の会話を聞いている。
「用務員って……」
『それはよさそうなアイデアだな。カナデの今の恰好と普段の言動から、ぴったりだと思うぞ。だが、ふふふ、その仕事は、男が圧倒的に多いな。むしろ男しかいない職場だぞ。カナデがもといた世界は知らないが』
『ふふふ、それこそ、カナデにぴったりではないか。そういえば、カナデは元いた世界で力仕事もしていたと記憶しているが』
「嫌ですよ。私のもといた世界でも、学校の用務員は男性ばかりでした。だって、仕事が仕事でしょう?私の個人情報はあなたたちに筒抜けかもしれませんが、私はこう見えて、肉体労働に不向きなんですよ」
カナデはもといた世界では、会社の事務員をしていたが、その傍らで、男性が多く従事する、出荷業務も行っていた。おそらく、そのことを女神や悪魔は言いたいのだろう。
「カナデさんは、なにかいい案が出ましたか?」
カナデたちが話しているのをソフィアが見つけ、声をかける。はた目には、カナデが猫と戯れているようにしか見えない。カナデが話す言葉に、二匹の猫がニャーニャーと答えるだけで、それで会話ができているとは思わないだろう。
「カナデは。猫と話ができるのか?」
「いえ、この猫たちは……」
「ええ、カナデも私も猫と会話が可能です。ただし、頭のいい賢い猫限定で、今のところ、この二匹としかできませんけど」
カナデとソフィアは、二匹の猫が女神と悪魔だと知っているため、会話が可能になっているが、エリザベスはまさか、二匹の猫が、猫ではなく女神と悪魔だとは思ってもいないので、猫が鳴く声にしか聞こえないのだった。
「じゃあ、カナデは用務員として、学園に送り込むことでいいな」
「いいと思いますよ」
「それ以外にないのなら、我慢します……」
『カナデの用務員姿が楽しみだな』
『楽しみで待ちきれん!』
話し合いの結果、エリザベス直々に、学園の用務員として、カナデを派遣することに決まってしまった。
「それにしても、ソフィアさんが臨時講師なのはわかりますけど、どうして私が用務員なんですか。用務員って、力作業ばかりで私に務まるとも思えませんけど」
決定事項とはいえ、カナデはこの案に反対だった。どうにかして他の潜入方法はないかと反論を試みる。しかし、ソフィアはカナデの意見をあっさりと覆す。
「いいえ、この世界の用務員の仕事は、力仕事ばかりではありません。もちろん、たまにはそういう仕事もありますが、魔法が使えるこの世界で、力仕事をすることはあまりないです。カナデさんは、学園内を巡回するだけでいいんですよ」
「まほう……」
「そういえば、カナデさんには、魔力が備わってしませんでしたね。はて、どうしましょうか。用務員とは言え、魔力なしの人間が学園に入り込むのは多少の危険があり」
ソフィアの言葉は途中で遮られた。
「それなら、面白い奴がいるぞ!さっき、廊下で拾った!」
「離せ。僕は突然、この場所に飛ばされたんだ。いったい僕をどうする気だ!」
突然、ソフィアの部屋の扉が勢いよく開かれ、メイド服(新たに採用された露出が低い)を着たエミリアが部屋に飛び込んできた。彼女の後ろには、彼女に首根っこを掴まれ暴れている一人の少年の姿があった。
『誰?』
エミリアが連れてきた少年は、カナデやソフィア、エリザベスが見たことのない少年だった。いきなりエミリアが連れてきた謎の少年はいったい誰だろうか。
「か、可愛い。黒髪に深紅の瞳。これはいい組み合わせですね。そして、病弱なほど白い肌に似合わず、暴れる様子もギャップ萌え。いったい、誰の子供ですか?もしかして、エリザベス様ですか、まさかのソフィア様。はたまた、エミリアですか?あああああ、めっちゃかわいい」
この場に、空気の読めない人間がいた。当然、その人間とはカナデのことだが、彼女だけは、目をぎらぎらさせ、鼻息荒く興奮していた。
少年は、さらさらとつやのある黒髪に、真っ赤な深紅の瞳をしていた。10歳くらいだろうか。やや吊り上がり気味の大きな二重の瞳に白い肌をしていた。かわいい要素があるかは不明だが、カナデにはこの少年の容姿が心に刺さったらしい。
「む、お前らは、確か、あの勇者と一緒に居たやつだな。あれ、僕はこの姿になのに、お前らは姿が変わっていないな」
少年が暴れるのをやめ、興味津々にカナデたちを観察する。カナデの発言に少年は引き気味だった。しかし、そのことに触れることはなく、カナデたちにとって驚くべき発言をした。
「勇者って、あのくそ勇者のこと……」
「か、可愛い。さ、触ってもいいかな……」
『これは面白い。お主が呼び寄せたのか?』
『秘密じゃ。だが、これでさらにわれらの生活が楽しくなりそうだろ?』
「勇者」という言葉にソフィアが反応する。カナデは相変わらず、自分の世界から戻ってくる気配はなく、変質者と化していた。二匹の猫、女神と悪魔は、少年に心当たりがあるのか、意味深な会話を繰り広げている。エリザベスとエミリアは、話についていけず、どうしようかと二人で視線を交わし合っていた。
「今の話、本当なの?あなた、もしかして、あの時の魔王なの?いや、それだとしても、その可愛さは反則でしょ。だって、そんなに可愛かったら、以前まで敵だったとしても、許しちゃうわ。その可愛さで」
どうやら、興奮状態でもカナデは少年の話を聞いていたらしい。少年の素性を問いただしつつも、カナデの顔はデレデレと緩みまくっていた。そんな様子を見ていたソフィアはげんなりとしながらも、カナデの言葉が本当か、少年に質問する。
「カナデの言っていることは本当ですか?あなたは本当に、勇者と戦っていた魔王様で間違いないと」
「こんな格好では威厳がないかもしれないし、威厳を出すことも僕は遠慮したいが、事実、僕には魔王としての記憶が残っている」
『その辺は、われらが説明しよう』
二匹の黒猫が少年の周りをうろうろし始めた。少年は驚いていたが、猫は好きなのか、緊張していた顔がほころび、笑顔で猫たちをなでていた。
「可愛いな。僕も猫を飼いたい時期があったな」
『ソフィア、われたちとカナデ、そこの少年以外を部屋から出してくれ。詳しく説明してやるからな』
女神がカナデとソフィアに指示を出す。白猫がニャーニャー鳴いているだけに見えていたが、言葉の意味を理解できる二人は頷き、エリザベスとエミリアに部屋から出てもらうように説得する。
「すいません。その少年は、私たちの知り合いだったみたいで、少し話をしたいので、席を外してもらえますか?」
「かわいいこの少年のことは、私たちに任せてください!」
「ただものではなさそうな少年だな。城に突然現れたのも、カナデが興奮しだしたのも気になるが、ソフィアに任せておけば大丈夫だろう。行くぞ、エミリア。学園の手配を進めておこう」
「は、はい、エリザベス様!」
ソフィアの信頼は厚いようで、すぐに二人は部屋から出ていった。




