29次のターゲットは学園の制服です
「教員免許ですか?もといた世界では取得していましたが、この世界でそんなものが役に立つとは思えませんが」
突然のエリザベスの質問に、カナデは首をかしげながらも正直に答える。
「意外ですね。カナデさんがそんなものを取っていたとは知りませんでした」
「教員免許かあ。あれは苦い思い出がよみがえります」
ソフィアの言葉を受け流しながら、カナデはもといた世界で取得した、教員免許についての記憶をたどる。
カナデは、教育学部ではない、文系の学部を卒業した。先生を志望するつもりは全くなく、自分に教員の素質があるとも思えなかった。
「教員の素質って何だと思いますか?」
カナデは過去を思い出しながら、ソフィアに質問する。
「急にそんなことを言われても、そうですね。子供が好きとか、人前で話すのが得意とか、後は、正義感にあふれている人とか、人の役に立ちたいとか、いろいろあると思いますけど」
「子どもが好きという一点だけで、私は、地獄の教員免許取得を頑張ったんですよ。今思うと、笑えますよね」
子供が好きだった。もともと、近所などで子供を見かけるたびにほっこりとした気持ちになったものだ。そんな子供たちともっと近くで接したいと思ったのが、教員免許取得のきっかけだった。とはいえ、幼稚園児や保育園などの小さい子には興味はなく、小学生から中学生くらいの少年少女に興味をひかれた。
ただし、カナデには致命的な欠点があった。教師になるうえで、とても大事な素養が欠けていたのだ。
「私、大勢の人前で、うまく話せないんですよ。それに、面接も苦手で、超がつく人見知りな性格なので」
カナデは自分の性格を分析して苦笑する。
「今のカナデさんからは想像できません。ですが、まあ、今までのカナデさんのことを思えば、理解できないこともないですけど」
「いきなり、何を話し出すかと思えば。カナデが人前で話せない?人見知りとは本当か?」
「この世界に来てから、いろいろ吹っ切れたんですよ。よくあるでしょ。もといた世界ではコミュ障でオタクで、引きこもりだった主人公が、異世界に着いた途端に、リア充しだして、コミュ障もオタクも引きこもりな体質もなくなるやつ」
カナデの独白が始まり、ソフィアとエリザベスは戸惑いながらも、話を聞いていた。カナデの自己分析については、ソフィアはなんとなく理解できたが、エリザベスには理解できないことだった。
「いやまあ、いきなりこんなところに放り出されて、どうしようもない場合は、火事場のバカ力のようなものが働いて、人見知りでも、他人とうまく話せるようになるんですけどね。それに、この世界はツッコミどころが多すぎて、人前とか、人見知りとか言っている場合ではなくなりました」
二人の言葉にカナデは弁解した。
「それで、このまま、私の教育免許取得の苦い思い出を話してもいいのですが。エリザベス様、部屋に入ってきたときに慌てていましたけど、急ぎの用事でしたか?」
カナデは現在の自分の置かれている状況を思いだす。別にソフィアたちに語っても構わないが、今は、この世界で生きていくことに決めたのだ。昔のことをうじうじと思い返していては前に進めない。それに、エリザベスは女王であり、カナデの過去話につき合っている暇はないはずだ。
「そ、そうだった!カナデがいきなり話し出すから、用件を言い出しそびれてしまった」
エリザベスは、カナデの言葉で、ようやく自分がこの部屋にやってきた用事を話し出した。
「ええと、その話だが、どうも、今回の女性騎士団や侍女たちの制服が改定されたことが、思いのほか評価されてな。学園にもぜひ、制服改革を行ってほしいという要請が、我の元にやってきた」
「学園、ですか?」
「ああ、カナデさんは知らないみたいですね。魔力がある子どもが通う学園が、首都である『ネームオールドハウス』にあって、そこの制服改定を頼まれたんですよ」
『確かに異世界物の制服はないわあ』
ソフィアの言葉に、カナデは心の中で叫んだ。ソフィアも実は同じことを思ったので、二人の思いは見事にシンクロしていた。
「制服って、やっぱり破廉恥なんですよね。いや、破廉恥でないことがないですよね?」
「私は学園の制服を拝見したことはありますが、なかなかの破廉恥具合ですよ。カナデさんの言う、異世界あるあるです」
カナデの言葉に、ソフィアが即座に反応する。
「ソフィアさんって、実は、この世界の住人ではなかったり……。たまに私と妙に意見が合いますよね」
「ごほん、何のことやら」
「パン!」
本題に入れそうにないと察したエリザベスが、手を合わせて音を立て、二人を自分に注目させる。
「ゴホン、話を進めてもいいか。騎士団や侍女たちの制服を変えようと試みた人物をぜひ、学園に招待したいとのことだ。とはいえ、カナデ、お前がのこのこと手ぶらで学園に行ったとしても、ただの不審者として扱われること間違いない。だから、どうしたらおぬしが合法的に学園にもぐりこめるか、考えようと思ったのだ」
「本当に、エリザベス様も、ソフィア様も、私に対する言葉に遠慮がなくなりましたよね。いや、別に構いませんよ。構いませんけど、少しくらい、オブラートに包むとか、私の気持ちを考えるとかして、私への配慮をしてくれてもいいのではないですか?」
カナデの嘆きにも耳を貸すことなく、ソフィアが納得して補足する。
「エリザベス様の言うことは最もですね。だからこそ、教員免許という話が出たというわけですか。ですが、カナデの話を聞く限り、教師として学園にもぐりこむのはあきらめた方がよさそうですよ。最悪、生徒たちに訴えられて逮捕されます。不審者か逮捕か、どちらにしても最悪な結果になりそうです」
「うむ、カナデが捕まる様子は、残念ながら容易に想像できるのが悲しいな。それなら、どうしたらよいと思う?ソフィアの考えを聞かせてくれ」
「教師がダメなら何がありますかね。保護者か生徒、あるいは」
「どちらも無理だろ。素性が明らかでない奴が入ることは難しい。我の推薦も出せるが」
「ダメですね」
「ちょっと、逮捕されるのはないから。あくまで、人前で話すのが苦手なのと、可愛い子供に興奮してしまう性癖がある、というだけの普通の女性ですよ、私は」
カナデの言葉は完全に無視され、二人はいかに正当な理由でカナデを学園にもぐりこめるかの話し合いを始めてしまった。




