5侍女として働くことになりました
「この話をするのは心苦しいのですが、カナデさんはこれからどう過ごすおつもりですか?ここは国の中心にある、女王様もいるお城となります。私はヒーラーとしての能力を買われ、この城で働かせてもらっていますが」
暗に、仕事はどうするのかと問われたカナデは、どうしようかと頭を抱えた。ソフィアの言う通り、この世界で生きていくためには、仕事をしてお金を稼ぐ必要がある。この世界に来た当初は、勇者討伐としての仕事を任されたため、城での滞在も認められたが、今は勇者もいなくなり、カナデが城に滞在する意味はなくなった。
「仕事かあ、考えてなかった。ソフィアさんみたいに何か特殊能力があればよかったんだけど」
「まったく、仕事のことも考えずに、あんな無謀な宣言をしたのですか?」
「む、無謀とは失礼な。私にしかできないことだと思って」
「はあ」
まるで、世話の焼ける子供を見つめるようなソフィアの視線に耐え切れず、カナデはそっぽを向くが、現実問題、自分にできる仕事を探す必要があった。城に残れないとなれば、街に下りて、仕事を見つけることも視野に入れなければならない。
「一つ提案がありますが、カナデさんは、家事はできますか?」
「家事?ええと、一人暮らしをしたことがなくて、家事はもっぱら母親に任せきりでして」
「使えない女ですね。ですが、今回に限っては多めに見ることにしましょう」
「なっ、使えないなんて、私だって多少の手伝いはしてきたので、そこまで言われる筋合いは。ていうか、ソフィアさんって、意外に口が悪いですね」
「カナデさんの前だけですよ。安心してください。他の人の前では私、聖女としてのふるまいは完璧ですから」
カナデの言葉を意に介さず、ソフィアは話を進めていく。
「カナデさん」
「はい!」
改まって名前を呼ばれたカナデに、ソフィアは城に残ることができる選択肢を与えた。
「異世界から来て、その容姿に服装。おそらく騎士職には向いていないでしょう。どう考えても、身体を動かしていそうな性格でもなさそうですし。そうなると、城に残り続けることができる職は、騎士職以外となります」
「だから、ソフィアさん、口が悪すぎですって。地味に傷つくから押さえてもらえないでしょうか。事実だけど、確かに私はインドア中のインドア。もはやインドアを極めていたけれども!」
「気を悪くしたのならすみません。言葉遣いについては善処しますが、カナデさんの態度が改められない限り無理でしょう」
ソフィアはカナデの要望を無視して、淡々と話を続けていく。
「それで、仕事の選択肢ですが、この城に住む人々のお世話をするメイド、貴族女性に仕える侍女、この国の政治に関与するほどの権力者などが挙げられます」
「わかりました。掃除は苦手ですが、できないこともありません。私、この城のメイドになります!それに、今の私の服装は掃除にうってつけです!」
選択肢を与えられたカナデは、迷いなく最初の選択肢を即答した。
「即答ですか。ですが、自分のことを理解している点は少しだけ評価に値します。後は、ご自分の容姿と格好について考えが回るとなおよいのですが」
ソフィアのぼそりとつぶやかれたツッコミを気にすることなく、カナデはこの世界での自分の仕事について思いをはせる。
「私がまさかのメイドかあ。にわかには信じがたい話だけど、とはいえ、異世界に自分がいることも信じられないことだから、メイドとして働くのもありかもしれない。ただ、メイド服を着た私は、ぶふ、驚くほど似合わない……」
自分のメイド服姿に吹き出したカナデだが、同時に、今の恰好がメイド仕事をするのに適していると思った。メイド服は似合わないが、この格好で仕事をするのなら。
もといた世界で会社員をしていたカナデ。人員削減のため、事務作業と出荷業務を兼任していた。パーカーにジーンズで汚れても問題はない格好だった。この世界の服装を身にまとうという考えは微塵もなかったため、そのまま異世界に着てからも、洗濯中以外はもといた世界の服装のまま過ごしていた。
「あなたという人は。異世界の常識を知らないわけではないでしょう?少しはあなたの身分が証明されていないことを自覚してください」
「身分ですか。ああ、確かに私の容姿と服装は目立ってしまいますね。身分証明書もありませんし」
カナデの決意をソフィアはバッサリと切り捨てた。ソフィアの言いたいことを理解したカナデだが、身分はどうやって手に入れたらいいだろうか。
「わかってくれて何よりです。ですので、そんな恰好でその容姿では、怪しすぎてメイドとして雇ってはくれません。そこで、私からの提案ですよ」
私専属の侍女になりませんか?
「ええええええええええ!」
「そこまで驚くことですか?」
ソフィアの提案にカナデは反射的に叫んでしまった。よくて、城のメイドとして日々掃除や洗濯をすることを想像していた。悪ければ、町に下りて、バイトでも探そうかと思っていた。それがまさか、元聖女様のお世話をすることを提案されるとは。
「ちなみに、私は身の回りのことは自分でできますから、そこらの貴族女性とは違って、面倒を見てもらう必要はありません。ですが、カナデさんのあの約束のため、お力になれればと考えた次第です」
「ぜひ、お仕えさせてください!」
恥ずかしそうに頬を紅くして照れているソフィアの可愛さに、カナデは土下座して頼み込んだ。城に残るまたとない機会であり、それがソフィアみたいな美少女の身の回りの世話とは。
「これだから、自分の容姿が嫌になります」
ぽつりと嫌そうにこぼされた言葉にカナデは気づくことはなかった。
「では、明日にでも、エリザベス様に頼んでみます。よほどのことがない限り、大丈夫だとは思いますけど、許可を取って置くに越したことはないでしょう」
カナデの新たな生活がようやく始まろうとしていた。




