4既視感を覚える嫌な視線でした
「これは、女王自らのお出迎えとは」
「な、お前は!」
エリザベスたちの前に現れたのは、イケメンの男性だった。第三者の登場にさすがにカナデもソフィアも暴走を止めた。カナデにとっては、初めて会う人物だった。カナデの視線に気づいたのか、男性はカナデに自己紹介を始めた。
「おや、あなたが噂の女性ですか。初めまして、私、この国の宰相を務めさせていただいておりますフリードリヒです」
「は、初めましてカナデと申します」
フリードリヒは、異世界転生・転移物によくいるイケメンそのままの容姿をしていた。キラキラと輝く銀の髪を背中まで伸ばし、軽く一つに縛っていた。瞳の色は紫のアメジストのように神秘的な色をしていた。長身で細身のスタイルの良い身体。ただし、その瞳から感じるねっとりとした視線がカナデの神経を逆なでしていた。
フリードリヒが握手のために差し出した手をカナデは握ることをためらってしまった。この嫌な視線には覚えがあった。
「すいません、あなたのようなイケメンに、私ごとき庶民が手を握ってよいのかと思いまして」
「イケメンと言っていただき光栄です」
そう言ったフリードリヒは、あっさりとカナデのために差し出した手を引っ込めて、にこりと微笑んだ。カナデが握手することを拒否してくれて助かったという印象を受けた。
「フリードリヒ!どうしてお前がここに居る」
「どうしてと言いましても、公務を抜け出してこのような場所にいる女王がいけないのです」
「ふん、あんな爺どもの会議につき合っていられるか。それで、わざわざわれを呼び戻すために来たのか?」
「フリードリヒ様、お、お久しぶりです。レオナです」
「ああ、久しぶり。ソフィア君もいたんだね」
ねっとりと視線は変わらず、フリードリヒはソフィアとレオナにも挨拶する。カナデはその視線の意味を考えることを拒否した。その代わり、別の質問で彼の考えを読み取ることにした。
「フリードリヒ様、初対面の私から、一つ質問があるのですが、お許しいただけますか?」
「何かな。私もそこまで暇ではないんだが。手短に頼むよ」
「ありがとうございます。お手間は取らせませんので」
ここで、カナデは大きく息を吸い込んで目をつむる。彼の視線の意味を考えれば、答えはおおよそ見当がつくが、こんなイケメンがそんなことを考えているとは思いたくはなかった。
「この世界の女性の服装をどうお思いですか?」
「どうって、可笑しな質問だね。しかも、この世界の服装って。普通だと思いますよ。可愛らしくて、私はとても良いと思っています。かわいいというのは、仕事の意欲にもつながりますし、それがどうかしましたか?」
「いえ、ただ聞いてみたかったのです」
「では、戻りましょう。女王」
「うむ、仕方あるまい。カナデ、お主の話は興奮しすぎで何を言いたいのか、いまいちわからんかった。後でまた詳しい話を聞きたい。われにもわかるように説明頼むぞ」
話は終わったとばかりに、エリザベスと宰相は部屋から出て行った。部屋にはしばらく沈黙が訪れた。
「かっこいいですよね。フリードリヒ様。あの熱い視線を受けると、胸がドキドキしてこれは恋でしょうか」
「うわ、出たよ。あれ、ということは」
「カナデさん、さすが鋭いですね」
カナデはレオナの恍惚とした表情に既視感を覚えた。このような光景を見たことがあった。あれは確か。カナデの言おうとした言葉はソフィアに言われてしまった。
「あの男もおそらく、カナデさんが出会ったくそ勇者と同じ考えの持ち主だと思いますよ」
「ソフィアさんは詳しいんですね」
「ああ、それは」
「思い出さなくてもいいですよ。ソフィアさんが詳しいのは、男に対する警戒心からだと思いますから」
カナデの思い違いにソフィアは胸をなでおろす。ソフィアがカナデと同じ、もといた世界を知っているということを知られなくて済んだ。知られると面倒なことになりそうなので、このまま黙っていることに決めた。
「私もそろそろ勤務に戻らなくては。カナデ様、ソフィア様、失礼いたします」
レオナも、自分の仕事を思い出したのだろう。二人を残して、仕事に戻ってしまった。部屋に取り残された二人は、目を合わせると苦笑した。
「私もここで働いていますが、立ち位置としては客人みたいなものですので、このままもう少し、カナデさんとお話しする時間はありますよ」
「えっと、では、もう少し、私とお話ししていただけると嬉しいです。今、私が置かれている状況をもっと詳しく知りたいので」
「かしこまりました」
「ぐううううう」
ソフィアの有り難い申し出に返事をしたカナデだが、目覚めて興奮して腹が減ったのだろう。盛大な腹の音が部屋に響き渡った。
「ふふふふ」
「なんか、すいません」
申し訳なくて謝ると、ソフィアは笑っていた。口元を押さえて笑う姿はやはり、理想の聖女そのものだ。ぼうっとその様子を眺めていると、視線に気づいたソフィアが問いかける。
「何か、食べるものを用意いたしますか?夕食までまだ時間がありますので、お菓子と紅茶をお持ちいたしますよ。ああ、でも、カナデさんにはぜひ、食べていただきたいものがありますので、そちらをお持ちいたしますね」
「ぜひ、お願いします」
部屋を出てしばらくして、ワゴンを押してソフィアは戻ってきた。ワゴンの上には、カナデがもといた世界でよく見たものが並んでいた。
「あの、これって、もしや」
「ご存じでしたよね。カナデさんが以前、この都市を知っていた感じから、このメニューがいいかなと思いまして。お口に会えばいいのですが」
ワゴンに乗っていたのは、カナデがもといた世界での朝食メニューだった。朝食のメニューとして、カフェなどに行けば食べられる、定番が並べられていた。
「小倉トーストに、コーヒーにゆで卵……。完全に名古屋のモーニングですよね」
「いえ、首都「ネームオールドハウス」の名物NOH (ノーフ)飯」と呼ばれるものの一つになっていますよ」
「さようですか。ああ、でも懐かしい感じがする」
カナデは空腹に耐えきれず、小倉トーストにかぶりつく。それから、ゆっくりとコーヒーの香りを楽しみながら、ソフィアから出された朝食メニューをすべて平らげた。
「そういえば、今何時なのかわかる?これが朝食メニューらしいのはわかるけど、今って午前ってことでいいの?」
今更ながらにカナデは現在時刻をソフィアに確認する。
「そうですねえ。午前11時くらいですね。ちょうど、朝食と昼食が一緒の感じですかね」
「ごちそうさまでした」
「よい食べっぷりで、健康状態に問題がなさそうで何よりです。それで、お腹がいっぱいなところ申し訳ないのですが」
『本当によく食べる』
『見ていて、気持ちがいいがのう』
カナデが食べ終わるのを見計って、ソフィアがカナデに差し迫った問題を提示する。女神と悪魔の二匹の猫はいつの間にか、ソフィアのひざの上でくつろいでいた。




