親はなくとも子は育つ
「はあ……」
フィッツガルドの帝都にて。
どこか遠い目をしながらため息をつくヴィルヘルミナさん。
その憂いを帯びた顔は美しく思わず吸い寄せられそうなほどですが、その手元ではもの凄い勢いで書類の山が処理されており、気付いた人間は巻き込まれてなるものかと回れ右をすることでしょう。
「どうしたんだいヴィルヘルミナ。どこか体調が?」
「え? なんでもありませんわよ。口を動かす暇があるなら手を動かしなさいな」
そしてそんなヴィルヘルミナさんに迷いなくつっこんでいくローマンさんと、二人の関係を知っているので「マジかよこいつ」という目になる周りの文官たち。
それでも「カガトが居なくなって寂しいのかい?」と核心つかないあたりローマンさんも成長しています。
そこは核心ついた方が面白くなるだろうが!?
「しかしカガトが居ないと不便だねえ。ちょっと遠出をするなら転移魔術を頼めて余計な手間が省けたのだけど」
「転移魔術ならある程度素養があれば他の者でも使えるように調整が終わっているはずでしょう。……ちょっと待ちなさい。何故貴方がカガトを自分の部下みたいに扱ってますの!?」
「ハッハッハ。やだなあ。友人としてお願いしてるだけだよ」
そういうローマンさんですが、部下としてではなく友人として使うという事は賃金が発生しないのである意味余計にタチが悪いです。
もっともカガトくんからすればローマンさんは色々と教えてくれる先生のようなものなので、その対価だと思っているでしょうが。
「まったく! 陛下といい何故皆私のカガトを勝手に連れまわすんですの」
「彼頼み事は基本的に断れないタイプみたいだしね」
そう「私のって言っちゃったよ」とはつっこまずに流すローマンさん。
雇用主なので間違ってはいないのですが、明らかに私情混じっています。
「うん。これは引き離して正解だったかな」
そしてそんなヴィルヘルミナさんの様子を見ながら「こりゃあ面白くなりそうだぜ」と思う、最近父親に思考が似てきたローマンさん。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「んーこたつ出してみかんも来たし、いよいよ冬って感じだね」
そう言いながらこたつに入りみかんの皮をむくアマテラス様。
ちなみに温州みかんは十月ごろから収穫が始まり一月まで続きますが、意外にもその運送に大手の宅配会社を使うことがあり、お歳暮シーズンと重なり現場が阿鼻叫喚となります。
みかんと見せかけてポ〇ジュースがつまってて腰がグキッといったりもするよ☆
「そういえば愛媛って蛇口ひねったら〇ンジュース出るっていう都市伝説あったよね」
「ああ。一部からは出ますよ」
「なん……だと?」
都市伝説だと思っていたことが都市伝説ではなかったことに衝撃を受けるアマテラス様。
それでもちょっと目が輝いています。
「え? 大丈夫なの? 水道水と違って衛生面とか」
「流石に一般の水道みたいにジュース道があったりはしませんよ。空港や観光地などで一時的に設置されることがあるイベントみたいなものです。客寄せに都市伝説を現実にしてしまったわけですね」
「ああ、なんだ。流石に一般家庭から出るわけじゃないんだ」
その事実に安心すると同時にちょっと残念そうなアマテラス様。
「ちなみに静岡でお茶が出るとか香川でうどん出汁が出るとかいうのも一部本当です」
「マジで!?」
愛媛どころか色んなところから色んなものが出てくることに驚くアマテラス様。
今日も高天原は平和です。