噛めば噛むほど味が出る
「もっと硬いパンが食べたいのう」
「いきなり何ですか」
安達家のリビングにて。
朝食のトーストを齧っていたと思ったら唐突にパンに文句を言い出したリィンベルさんと、首をかしげるエルテさん。
バターがない時はマヨネーズかけて焼くと結構美味しいです。
カロリー?
細かいことは気にするな!
「いやこれはこれで好きなんじゃが、日本のパンはやわらかすぎて食いでがないというか」
「分かりますぞ。時間が経ったライ麦パンなどナイフが通らないほど硬いですからな」
「ええ……」
話しに乗ってきた紳士神官ことナタンさんの言葉に戸惑いの声を漏らすエルテさん。
ナイフ通らないとかそれは果たして食べ物なのかと疑問に思うでしょうが、海外ではパンを長期保存するのでマジでそんな状態になることもあったそうです。
そんなものどうやって食うんだとなりますが、スープやワインにひたしてから食べるので問題ないそうです。
「エルテは気にならんのか?」
「私は食べられれば細かいことはどうでもいいです」
一方孤児で割とぎりぎりな生活をしていたので、食にそんな拘りはないエルテさん。
安達家最年少ではありますが、生活レベルでも間違いなく最底辺を経験してきたある意味強い子です。
「わしが悪かった。たんと食え」
「目玉焼きにベーコンもつけましょう」
「何でですか。もらいますけど」
何故か慈愛に満ちた目を向けながら餌付けしようとしてくる大人二人に、不思議に思いながらも貰えるものは貰うエルテさん。
今日も日本は平和です。
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一方高天原。
「日本のパンてやわらかいの?」
「やわらかいですよ。ヨーロッパ圏の一部の人間が『こんなのパンじゃねえ!?』とぶちギレる程度には」
「そこまで!?」
ちょっと疑問に思ったことがカルチャーショックを引き起こすレベルだと知り驚くアマテラス様。
なおそのヨーロッパ圏内でも「そういうおまえの国のパンも大概だろうが」と内輪もめが発生する模様。
もちろん日本のやわらかいパンが好きだという人も居ます。
「まあ好みの問題もありますが、そもそもの目的と作り方が違うせいでしょうね。日本ではあくまで米が主食ですし、パンは大量に作って長期保存するものではありませんから」
「あー食パンとかも結構賞味期限短いよね」
さらに使う水の硬度なども関係するらしく、海外から日本に来たパン職人の中には、味わいや硬さが変わってしまうので自国の水を取り寄せる人もいるそうです。
日本の水を使ったら程よい硬さになり「ええやん」となる場合もあるそうですが。
「逆に日本と同じようにパン食に馴染みがない国では受け入れられやすいそうですね。東南アジアなどでもパン食が広がっていますが、日本式のパンが優勢らしく日本企業が進出しているそうですよ」
「あー。食べ慣れたパンの固定概念がないからかなあ。アンパンとか『なんじゃこりゃあ』とか言われそうだもんね」
「いえ。アンパンはアンパンで結構人気があるそうです」
「何で??」
和洋折衷の代表格ともいえるアンパンが好評だと聞き首を傾げるアマテラス様。
私にも分からん。
今日も高天原は平和です。