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理不尽な魔法(システム)なぞ論理で壊す:最底辺奴隷の下克上ハッキング  作者: 夜名


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第2話:魔法の絶対性と物理のバグ

「今の言葉の意味はなんだ。何か知っているのか、底辺奴隷の分際で……!」

ガツン、と強い衝撃とともに体が持ち上がる。レイヴァルトの指先には、わずかに力を込めれば俺の首骨など簡単に叩き折れるほどの殺気がこもっていた。

周囲で作業していた他の奴隷たちが、ヒッと短い悲鳴を上げてクモの子を散らすように逃げ出していく。監督役の男も青ざめた顔で直立不動の姿勢をとり、関わりを恐れて目を逸らした。

だが、胸倉を掴まれ、爪先が地面から浮いた当の俺――ルクは、怯えるどころか面倒くさそうに片目を細め、レイヴァルトの顔をじっと見上げた。

(……目が血走ってやがる。心拍数も異常に高い。この密室事件、こいつにとっても相当ヤバいプレッシャーがかかってやがるな)

俺の網膜には、レイヴァルトの生体データと環境ログがスクロールしていた。

【対象解析:レイヴァルト・フォン・ルグラン】

* 所属: 帝国最高執政院・一等検察官兼騎士団第3隊長

* 生体ログ: 心拍数145(極度の緊張・過労)、呼吸数増加、筋肉の疲労度82%

* 痕跡データ: 軍服の裾およびブーツ側面に微量の「赤粘土」を検出。帝都南部の古代遺跡発掘現場特有の土壌。


(なるほどね。寝ずの番で南部の事件を捜査した直後に、この侯爵邸での要人殺人事件に呼び出されたってわけか。プライドの高いエリート様が、現場の混乱と上層部からの圧力で完全に余裕を失ってる……分かりやすいデータだ)

「手を離してくれよ、検察官様。首輪のセキュリティ回路に余計な負荷がかかると、俺の首が焦げる前に、あなたのその綺麗な手袋が俺の汗と泥で汚れますよ」

「……っ」

俺の不敵とも気だるげともつかない物言いに、レイヴァルトは眉根を寄せて息を呑んだ。

一般の奴隷であれば、検察官という圧倒的上位者からの威圧を受ければ、恐怖で失禁するか、地面に頭を擦り付けて許しを乞うのが常識だ。それなのに、この泥と汗にまみれた華奢な少年は、恐怖どころかまるで格上の人間を観察し、値踏みするような冷ややかな目を向けている。

レイヴァルトは忌々しそうに歯噛みし、俺の胸倉からゆっくりと手を離した。乱れた着衣を整えることもせず、俺は着地すると首をコキリと鳴らした。

「ふん。大口を叩くゴミだな。……だが、いいだろう。言葉の真偽を確かめる機会くらいは与えてやる」

レイヴァルトは手袋の乱れをサッと整えると、背後の豪奢な廊下を見据え、冷酷な声で語り始めた。

「今、奥の執務室では『完全なる魔導密室』の中で、招かれた公爵家の使者が血を流して倒れている。出入り口の古代魔導鍵には一切の不正アクセスの形跡がなく、窓に張られた防犯用結界も完璧に保たれていた。誰も入れず、誰も出られない。魔導院の馬鹿どもは『悪魔の呪いだ』『古代の祟りだ』とパニックになり、捜査は完全に手詰まりだ」

レイヴァルトは懐から掌サイズの小さな魔導記録板を取り出し、俺の目の前に突きつけた。そこには執務室の簡易的な間取りと、現場に残留する微弱な魔力の波長ログが記録されている。

「お前はさっき、『あんなのただのプログラムエラーだ』と言ったな。それが奴隷の命惜しさの強がりではなく、本当にその構造を見抜いているというのなら……証明してみせろ。もしくだらない出タラメで私の時間を奪ったのだとすれば、その場でその首輪の過電流スイッチを入れ、首ごと焼き切ってやる」

それは検察官としての職権濫用スレスレの不当な脅迫だった。しかし同時に、常識的な捜査の限界に突き当たり、袋小路に追い詰められたエリートの、藁にもすがるような焦燥の裏返しでもあった。

俺はやれやれと肩をすくめ、足元に落ちていた竹ほうきを拾い上げると、トントンと柄で地面を叩いた。

「証明なんて大層なもんじゃありませんよ。ただ、貴族様や魔導師の連中ってのは、自分たちが作った『魔法の絶対性』を過信しすぎて、肝心の足元――物理の基礎(物理法則)を見落としてるだけだ」

「物理の基礎……?」

聞き覚えのない単語にレイヴァルトが眉をひそめる。俺は気にも留めず、ほうきを肩に担ぎ直すと、脳内のソースコード視界をさらに深く解放した。

執務室のある2階の窓枠。そこにわずかに残る、魔導結界の周波数の「歪み」と「熱の滞留ログ」が、俺の視界の中ではっきりと赤く点滅していた。

「案内してくださいよ、検察官様。あなたの誇る優秀なエリートチームが完全に見落としている、『最大のバグ』を教えてやりますよ」

レイヴァルトは一瞬だけ驚愕に目を見張り、次の瞬間、口元に不敵で危険な笑みを浮かべた。

「面白い。ついて来い、奴隷。……私を失望させるなよ」

泥まみれの奴隷と、帝国のエリート検察官。絶対に交わるはずのなかった二人の危険な共犯関係が、この瞬間、事件の渦中へと向かって音を立てて動き始めた。


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