第22話 新カップルの爆誕
(彩音Side)
由奈と里中君に二人きりの時間を与えたはいいものの、あいつら全然戻って来ないな。一体どれだけ二人で盛り上がっているんだろう。
まあ、無理もないか。
カラオケボックスですら我慢できずにディープな口づけを交わすような二人だ。海の開放感と真夏の熱気によって、今頃あまあまで熱々な時間を過ごしているに違いない。
一方で私はというと、ひとしきり泳ぎつかれて、海の家で購入した焼きそばをレンタルのパラソルの下で貪っていた。横には的場も一緒だ。
それにしても、海で食べる焼きそばって美味しすぎるな。
汗と一緒に塩分が流れ出た身体に、こってりとした濃厚なソースが染み渡っていく。最高の栄養補給だ。
「なあ」
横で焼きそばをすする的場が、箸の手を止めて声をかけてきた。
私はペットボトルを片手に、けだるい返事を返す。
「なに?」
「三ケ森は彼氏作らねえの?」
「急にぶっこんでくるわね」
不躾な質問を投げてきた当の本人は、悪びれもせず焼きそばの紅生姜をつついている。
「いや、フツーに気になってさ。人の恋愛ばっか応援してるけど、自分はどうなんだ?」
「……要らないわよ、彼氏なんて」
由奈の恋愛を全力応援している私だが、自分の恋愛事情に関しては笑えないレベルで悲惨だった。
一言で言えば、はちゃめちゃに男運が悪い。というより、私に男を見る目が無さすぎる。
私はパックの端についたソースを割り箸でこそぎながら、言った。
「過去に付き合った男がクソな奴ばっかりでさ、もう恋愛は懲りてる」
告白はいつも男からされる。初めはこの人良さそうと思って付き合い始めるが、付き合ってみて初めてその人のカスな部分が露見して、いわゆる蛙化現象を起こすのがいつもの流れだ。
歴代彼氏はどいつもこいつも、束縛が激しかったり、浮気癖があったり。
中でも一番嫌だったのが、私をアクセサリーのように自慢の道具として扱われること。付き合う前はそんな片鱗少しも見せなかったのに、だ。
私自身がそんな恋愛遍歴だからこそ、友達の由奈には、真面目で優しい里中君と幸せになって欲しいと本気で思っているわけだけど。
「じゃあさ、俺が三ケ森の彼氏になるのはダメか?」
――――――――は?
「……どうしたの、暑さで頭でもやられた? タチの悪い冗談ならその口縫い付けるわよ」
あまりに唐突な打診に、私は呆れ顔を浮かべながらペットボトルの麦茶を口に運んだ。
的場はいつものヘラヘラした態度を崩し、まっすぐに私を見つめてくる。
「いや、冗談とかじゃなくて」
「冗談じゃないなら何で私なのよ」
「俺、ぶっちゃけ最初は三ケ森の事、友達想いのイイ奴だな~くらいにしか思ってなかったんだよ」
「その通り。私は友達想いのイイ奴よ。で、なんで私なんかを?」
「三ケ森のこと見てるうちに、なんか自分でもよく分かんないんだけど、好きになってたんだよな。今まで見たことないタイプだったから」
「ふはっ、何それ。褒めてんの?」
あまりにも直球すぎる告白に、思わず吹き出してしまう。
けれど、的場の言葉はそこで終わらなかった。照れくさそうに頭を掻きながら、私の水着姿に視線を落とす。
「で、今日のその水着。可愛すぎるだろ。八枝さんの水着も確かに可愛かったけどさ、着てる人込みで三ケ森の優勝だ」
「……は?」
「三ケ森が好きだ。俺と付き合ってくれ」
……雑だな〜。
飾り気もムードも何もない、あまりにストレートな告白。
でも、だからこそ分かる。コイツの腹には本当に何の含みもなく、ただ本心から言ってるんだということが。
(まあでも……コイツみたいに裏も表も両方バカな男が彼氏なら、後から裏切られて幻滅したりすることも無いのかな)
猫をかぶって近づいてきて、付き合った途端にボロを出す過去の男たちとは違う。
目の前にいるバカは、どこまでもバカで、裏も表も無い。
「……ふーん」
私はずっと持っていた焼きそばを傍らに置くと、私からの返事を待って固まっている的場を睨みつけた。
「言っとくけど、あんたから振るのは絶対ナシだからね?」
「えっと、つまり……?」
「察せよボケ。付き合ってあげるって言ってるの」
「マジで? いいの? やべ、嬉しすぎる」
たった今彼女が出来た喜びを、ガッツポーズをして露骨に爆発させた。まったく、相も変わらずわかりやすい奴め。
彼は思い出したように姿勢を正すと、少しモジモジとしながら私を見つめてきた。
「あ、あのさ。俺、彼女が出来たらやってみたいことが一個あったんだけど」
「なによ?」
一応、警戒の目を向けておく。もしもエロいことでも言い出したら、この場で即座にクーリングオフを発動してやろう。
「下の名前で呼び合わないか? あいつらみたいに」
「ぶふっ……!」
「な、なんだよ!」
「いや、ピュア過ぎておもしろ~ってなっただけ。……ごめんね、大樹」
いきなり下の名前で呼んでやると、大樹はまるで豆鉄砲を食らった鳩のように目を丸くし、頬を染めた。
「うわっ、やべえこれ。自分でお願いしててアレだけど、恥ずかしいな……」
「大樹も呼んでよ、私のこと名前で。彩音、って」
ニヤニヤと覗き込んでやると、大樹は視線を泳がせ、ゴクリと喉を鳴らしてこう言った。
「あ、あ……彩音」
「ふはっ、可愛いかよ」
照れくさそうに絞り出したその声を面白がりながら、私は麦茶を一口煽った。
なんだかんだで、私もコイツのことは悪いようには思っていなかった。とはいえ由奈と里中君の恋を応援する戦友、くらいに思ってたけど。
まさか告白されるとはね~、はあぁ、なるほどなるほど。
さて、由奈たちには何て説明しようか。




