第20話 絶対彼氏宣言
(由奈Side)
ギラギラと照りつける太陽に青い空。そして視界いっぱいに広がる、眩しいほどの海原と白い砂浜。
波の音が心地よく響く中、私と学人、彩音、的場君の四人は砂浜に降り立った。
(来ちゃった……)
学人と一緒に、海。
鞄に入れている水着の事で頭がいっぱいになる中、私と彩音は、男子達を待たせて海の家の更衣室へ向かった。
「うふふ、由奈〜。ついにあの勝負水着をお披露目する時が来たわね!」
女子更衣室に入った瞬間、彩音がニヤニヤしながら私の肩をポンと叩く。
「普通に泳ぐための水着だから……」
「何言っちゃってんのよ。悩みに悩んだ一着なんだから、あのカタブツ君をメロメロにさせなきゃ損ってものよ」
「ねえ彩音、本当に大丈夫かな? やっぱり普段着のまま泳ごうかな!?」
「Tシャツで泳ぐのもそれはそれでエッチだけど大丈夫そ?」
「うっ……」
「ま、心配しなさんな。可愛い彼女が着る水着ならどんなデザインでも嬉しいものよ。まして、高校で急成長を遂げた由奈のお胸なら尚更ね」
彩音のセクハラ発言に口ごもりながらも、私は昨日一緒に選んだ水着に着替え、鏡の前に立った。
落ち着いたダークネイビーの生地に、白のフリルが縁取るセパレートタイプの水着。小さなリボンが胸元を彩っていて、下はミニスカート風のデザインになっている。
上から薄手のラッシュガードを羽織り、ジッパーを半分ほど上げて更衣室を出た。
(大丈夫……変じゃないよね)
学校のスクール水着に比べてその布面積はあまりに頼りないが、それでも彩音が来ているような王道のビキニと比べれば落ち着いたデザインだ。
着替えを終えて外に出ると、学人と的場君がレンタル品のパラソルの下で荷物を持って待っていた。
「二人ともお待たせ〜」
彩音が手を振りながら歩み寄る。
その声に反応して、学人がゆっくりとこちらを振り返り、水着の上にラッシュガードを羽織った私とバッチリ目が合った。
「ほらほら〜由奈、早くお披露目しちゃいな」
「ひゃっ!?」
不意を突かれ、彩音の手によって私のラッシュガードが無造作にはぎ取られた。
海風に肌を撫でられる感覚と共に、私の勝負水着が真夏の太陽の下へと晒された。
私の頭から足元まで、吸い寄せられるように学人の視線が滑っていくのを感じる。
好きな人に水着姿を見られている、それだけでなんだか、皮膚が痺れるようにピリピリする。
じっと私を見つめたまま、微動だにしない学人。
その視線に耐えきれなくなった私は、恥ずかしさで声を震わせながら、彼に問いかけた。
「へ、変じゃ……ない、かな……?」
私の声でハッと我に返った学人は、片手で口元を覆いながら、蚊の鳴くような声で呟いた。
「……似合ってるぞ」
「ほんと……?」
「ああ」
「か……………………かわいい?」
「ああ、可愛いぞ」
その瞬間私は、胸の奥がギュッと締め付けられるような、甘い衝撃に撃ち抜かれた。
――あ、ダメだ。
学人の口から出る直球で飾らない言葉に、私の心臓が今にも限界を迎えそうだ。
『相手を意識して心がキュンキュンするほど、身体が精気を激しく消費しちゃうのよ』
昨日ママに言われた言葉が頭をよぎる。
(も、もうダメかも……)
一人で焦って胸を押さえていると、横から黒い気配が忍び寄ってきた。
大人っぽい黒のビキニ姿の彩音が、いたずらな笑みを浮かべて学人に近づいていく。手にした日焼け止めのチューブを見せながら、あざとい猫なで声で言った。
「ねぇねぇ里中君。背中に日焼け止め塗ってくれない? 手が届かなくてぇ〜」
「えっ!? いや、それはちょっと……」
突然の彩音の要求に、学人が派手にうろたえる。
彩音の狙いは目に見えている。学人にちょっかいを出す事で、私の反応を楽しもうとしているだけだ。分かっているけれど——!
(学人に彩音の肌を触らせるなんて……絶対に嫌!!)
「だ、ダメダメダメッ!!」
気がついた時には、私は学人と彩音の間に割って入り、両手を広げて叫んでいた。
「え~、なんでよ由奈ぁ。減るもんじゃないし、ちょっと塗ってもらうくらい良いじゃない」
「ダ、ダメなものはダメなのっ! が、学人は……っ、私の彼氏なんだから……っっ!!」
静寂。波の音だけが虚しく響く。
(ああああああああっ何を言ってるの私ーーーっ!!??)
自分の発言の爆弾っぷりに気づいた時、あまりの恥ずかしさに全身が炎に包まれたかと思った。
この前のカラオケの時、学人が彩音たちを誤魔化すためについた「2か月前から交際中」という嘘。それに乗っかる形とはいえ、自分から改めて私の彼氏だなんて宣言してしまうなんて。
ああ、ダメだ。怖くて学人の顔が見れない……。彼が今どんな反応をしているのか、確かめるのが怖すぎる。
彩音、的場君、何でもいいから何か喋って……。
「……くっ、くふふっ! 私の彼氏、かぁ……そっか、そうだよね由奈。ごめんねぇ~」
彩音はニヤニヤと笑った後、満足げに的場君の方を振り返った。
「的場ァ、このバカップルはしばらく二人の世界にさせてあげましょう」
「ん? ああ分かった。おい学人、エロいことだけは止めとけよ?」
「しないわッッ!」
……そんなこんなで、彩音と的場君の二人はどこかへ去ってしまい、パラソルの下で私と学人がポツンと残された。
波の音と、真夏の熱気。
二人きりになった途端、気まずさと気恥ずかしさが一気に押し寄せ、私はぎこちなく視線を泳がせた。
だが、私のピンチはそこからが本番だった。
ドクン……ッ、と心臓が脈打つ。
さっき学人に「可愛い」って言われたこと。
勢い余って「私の彼氏」なんて口走ってしまったこと。
そして何より、真っ赤な顔で私のことを見つめている学人の姿。
それら要素の一つ一つに胸の奥をキュンと締め付けられ、体温が上昇していく。
同時に視界がわずかに揺らぎ、膝から力が抜けていくような脱力感が全身を襲った。
自分の身体の事だからよく分かる。私の中の精気がものすごいスピードで空っぽになろうとしている。学人からの補給が、早急に必要だ。
まだ海に入ってすらいないのに。大勢の人がいる白昼のビーチで、私は猛烈な飢餓感に襲われた。
―――
一方その頃。由奈たちから遠ざかる彩音と大樹。
「なあ、日焼け止めなら俺が塗ってやろうか?」
「自分で塗れるわボケ」
”げしっ”。




