第14話 反撃の幼馴染
(彩音Side)
「学人、何お前鼻の下伸ばしてんだ?」
的場のからかいに、里中君は必死に否定した。
「の、伸ばしてない!」
「ふふっ、か~わいい。純情な中学生じゃないんだし、これくらい普通じゃない?」
私はケラケラと笑いながら、由奈に同調を求めた。
「だよね、由奈?」
「そ、そうだよ。これくらい普通だから!」
声を上ずらせながら強がってみせる由奈。
その瞳には、文字通り火を見るより明らかな対抗心の炎が、メラメラと燃え盛っていた。
「ねえ学人、私のパスタも味見してみる?」
返事を聞く前に、彼女の手元ではすでに一口分のパスタがフォークへ綺麗に巻き終わっていた。
行動が早く、かつ単純だ。
八枝由奈という少女、実に分かりやすい。
「ほら、あ~ん」
「ゆ、由奈!?」
不意を突かれた里中君が声を上げて驚く。
フォークを突き出す由奈の顔は一見笑顔だが、その目がまったく笑っていない。圧がすごい。
里中君はテーブルへ身を乗り出すと、意を決してフォークのパスタをぱくりと咥えた。
「な、なかなか美味いな……」
照れくさそうに呟く里中君を見て、由奈の表情が満足げに和らぐ。
まさに狙い通りの展開に、私は心の中で盛大にガッツポーズを決めた。
(はいっ! 完全にシュート決まりました~)
対面に座る的場へそっとアイコンタクトを送り、小さく親指を立ててみせた。
(我ながら完璧な策略……大樹もナイスアシストよ)
「八枝さん、俺もそのパスタ味見したいんだけどいいかな!?」
――前言撤回。
「ひっ……」
由奈にむかって、「あ~ん」と口を開ける的場。
その無茶ぶりに、由奈の顔は完全に怯え切っていた。
「調子に乗るな、このボケ」
私は小エビのフライに大量のタバスコをかけて、的場のアホ面にぶち込んでやった。
◇
やがて食事を食べ終えた私と由奈は、店員さんに空いた皿を下げてもらい、卓上にノートと参考書を広げた。
今回の機会を、ただ勉強だけで終わらせるつもりは毛頭ない。
由奈の中で燻る嫉妬の炎を絶やさないため、私は次の仕掛けを投下する。
「里中くぅん。ここの問題なんだけど、解き方知ってる~?」
ノートを少し彼の方へと寄せながら、あざとく上目遣いを向けてみる。
横目でチラリと対面を伺えば、案の定、由奈が私の動きを般若のような顔でガン見しているのが分かった。
ブスブスと刺さる視線に、肌がヒリつく。
「ああ、これは……こっちの式で出した答えをここに代入したら、簡単に答えが出せるよ」
「本当だ、ありがとう~! 里中君って頭いいんだね」
大袈裟な誉め言葉を言いながら、私は彼の肩に渾身のボディタッチを繰り出した。
恥ずかしそうに頬をかく里中君。
その光景が決定打となったのか、耐えかねた由奈が焦りを滲ませながら身を乗り出してくる。
「ねえ学人、ここの英文の訳し方教えて」
「悪い由奈、英語は俺も自信が……」
「あ、八枝さん。そこなら俺さっき勉強したから教えてあげるよ」
的場が親切心で差し伸べた手に、由奈の顔が引きつる。
「あ……ありがとうございます」
里中君に甘える口実を失い、肩を落とす由奈。
ああ……、なんて分かりやすい子なんだろう。本当に見ていて飽きないわ。
◇
やがて周りのお客さんの数も増えだし、勉強会はそろそろ切り上げようという段になった。
個別に会計を済ませ、私たちは店を出た。外はまだ明るいが、道路は帰宅ラッシュの車で混み合っている。
由奈の隣で、里中君が小さく手を振った。
「俺と由奈は帰る方向同じだから、ここで」
「おう。学人、また学校でな」
的場が大きく手を振る。私もまた、ニコリと笑って二人を見送った。
「由奈も里中君も、気を付けて帰ってね」
「うん。またね彩音、的場君」
私と的場に見送られ、幼馴染二人はこちらに背を向けて歩き出した。
二人の距離がいつもより縮まって見えるのは、きっと気のせいではないはずだ。
「ふぅ……ひとまず大成功ってところね」
「しかし三ケ森、お前も容赦ねえな」
そんな的場の言葉に、私はすまし顔で首を傾げた。
「え~、何が?」
「さっきの『あ~ん』といいボディタッチといい、学人も八枝さんも凍り付いてたぞ……」
「あれくらいの危機感を注入してやらないと、あの二人は進展しないわよ」
ふてぶてしく言い放つ私に、的場は参ったようにため息をつく。
「しかし、お前も物好きだよな。二人をくっつける為とはいえ、自分から当て馬みたいなポジションを買って出るとは」
「……私ね、由奈には幸せになって欲しいの」
ファミレスの看板を何となく見上げながら、私は声のトーンを落とす。
「あの子、昔からどこか危なっかしいところがあるし、男の人にもあまり慣れてないでしょ。変な男にうっかり引っかかるくらいなら、真面目で優しい里中君とさっさとくっついて欲しいのよ」
初めて明かした私の真意に、的場は少しだけ口元をゆるめた。
「三ケ森……お前って案外イイ奴だよな」
「案外は余計よ。普通にイイ奴でしょ」
フンと鼻を鳴らすと、私は腕を組んで的場に向き直る。
「ところで、私達はこの後どうする?」
「えっ、解散じゃねえの?」
「もし時間あるんだったら、どっかでコーヒーでもしばきながら勉強会の第二ラウンドってのはどう? あの子達のアシストに必死で、私達の勉強は全然進んでないでしょ」
「うっ……言われてみればそうだな」
「決まりね。ついでに、幼馴染くっつけ作戦の次の一手も考えるわよ」
そして私は、的場と共にファミレスから立ち去った。
あの二人は今頃、どんな話をしているのだろう。
考えれば考えるほど、私の口元はニヤニヤと緩むのだった。




