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第14話 反撃の幼馴染

(彩音Side)


「学人、何お前鼻の下伸ばしてんだ?」


 的場のからかいに、里中君は必死に否定した。


「の、伸ばしてない!」


「ふふっ、か~わいい。純情な中学生じゃないんだし、これくらい普通じゃない?」


 私はケラケラと笑いながら、由奈に同調を求めた。


「だよね、由奈?」


「そ、そうだよ。これくらい普通だから!」


 声を上ずらせながら強がってみせる由奈。

 その瞳には、文字通り火を見るより明らかな対抗心の炎が、メラメラと燃え盛っていた。


「ねえ学人、私のパスタも味見してみる?」


 返事を聞く前に、彼女の手元ではすでに一口分のパスタがフォークへ綺麗に巻き終わっていた。

 行動が早く、かつ単純だ。

 八枝由奈という少女、実に分かりやすい。


「ほら、あ~ん」


「ゆ、由奈!?」


 不意を突かれた里中君が声を上げて驚く。

 フォークを突き出す由奈の顔は一見笑顔だが、その目がまったく笑っていない。圧がすごい。

 里中君はテーブルへ身を乗り出すと、意を決してフォークのパスタをぱくりと咥えた。


「な、なかなか美味いな……」


 照れくさそうに呟く里中君を見て、由奈の表情が満足げに和らぐ。

 まさに狙い通りの展開に、私は心の中で盛大にガッツポーズを決めた。


(はいっ! 完全にシュート決まりました~)

 対面に座る的場へそっとアイコンタクトを送り、小さく親指を立ててみせた。

(我ながら完璧な策略……大樹もナイスアシストよ)


「八枝さん、俺もそのパスタ味見したいんだけどいいかな!?」


 ――前言撤回。


「ひっ……」


 由奈にむかって、「あ~ん」と口を開ける的場。

 その無茶ぶりに、由奈の顔は完全に怯え切っていた。


「調子に乗るな、このボケ」


 私は小エビのフライに大量のタバスコをかけて、的場のアホ面にぶち込んでやった。



 やがて食事を食べ終えた私と由奈は、店員さんに空いた皿を下げてもらい、卓上にノートと参考書を広げた。

 今回の機会を、ただ勉強だけで終わらせるつもりは毛頭ない。

 由奈の中で燻る嫉妬の炎を絶やさないため、私は次の仕掛けを投下する。


「里中くぅん。ここの問題なんだけど、解き方知ってる~?」


 ノートを少し彼の方へと寄せながら、あざとく上目遣いを向けてみる。

 横目でチラリと対面を伺えば、案の定、由奈が私の動きを般若のような顔でガン見しているのが分かった。

 ブスブスと刺さる視線に、肌がヒリつく。


「ああ、これは……こっちの式で出した答えをここに代入したら、簡単に答えが出せるよ」


「本当だ、ありがとう~! 里中君って頭いいんだね」


 大袈裟な誉め言葉を言いながら、私は彼の肩に渾身のボディタッチを繰り出した。

 恥ずかしそうに頬をかく里中君。

 その光景が決定打となったのか、耐えかねた由奈が焦りを滲ませながら身を乗り出してくる。


「ねえ学人、ここの英文の訳し方教えて」


「悪い由奈、英語は俺も自信が……」


「あ、八枝さん。そこなら俺さっき勉強したから教えてあげるよ」


 的場が親切心で差し伸べた手に、由奈の顔が引きつる。


「あ……ありがとうございます」


 里中君に甘える口実を失い、肩を落とす由奈。

 ああ……、なんて分かりやすい子なんだろう。本当に見ていて飽きないわ。



 やがて周りのお客さんの数も増えだし、勉強会はそろそろ切り上げようという段になった。

 個別に会計を済ませ、私たちは店を出た。外はまだ明るいが、道路は帰宅ラッシュの車で混み合っている。


 由奈の隣で、里中君が小さく手を振った。

「俺と由奈は帰る方向同じだから、ここで」


「おう。学人、また学校でな」


 的場が大きく手を振る。私もまた、ニコリと笑って二人を見送った。

「由奈も里中君も、気を付けて帰ってね」


「うん。またね彩音、的場君」


 私と的場に見送られ、幼馴染二人はこちらに背を向けて歩き出した。

 二人の距離がいつもより縮まって見えるのは、きっと気のせいではないはずだ。


「ふぅ……ひとまず大成功ってところね」


「しかし三ケ森、お前も容赦ねえな」


 そんな的場の言葉に、私はすまし顔で首を傾げた。


「え~、何が?」


「さっきの『あ~ん』といいボディタッチといい、学人も八枝さんも凍り付いてたぞ……」


「あれくらいの危機感を注入してやらないと、あの二人は進展しないわよ」

 ふてぶてしく言い放つ私に、的場は参ったようにため息をつく。


「しかし、お前も物好きだよな。二人をくっつける為とはいえ、自分から当て馬みたいなポジションを買って出るとは」


「……私ね、由奈には幸せになって欲しいの」


 ファミレスの看板を何となく見上げながら、私は声のトーンを落とす。


「あの子、昔からどこか危なっかしいところがあるし、男の人にもあまり慣れてないでしょ。変な男にうっかり引っかかるくらいなら、真面目で優しい里中君とさっさとくっついて欲しいのよ」


 初めて明かした私の真意に、的場は少しだけ口元をゆるめた。


「三ケ森……お前って案外イイ奴だよな」


「案外は余計よ。普通にイイ奴でしょ」


 フンと鼻を鳴らすと、私は腕を組んで的場に向き直る。


「ところで、私達はこの後どうする?」


「えっ、解散じゃねえの?」


「もし時間あるんだったら、どっかでコーヒーでもしばきながら勉強会の第二ラウンドってのはどう? あの子達のアシストに必死で、私達の勉強は全然進んでないでしょ」


「うっ……言われてみればそうだな」


「決まりね。ついでに、幼馴染くっつけ作戦の次の一手も考えるわよ」

 そして私は、的場と共にファミレスから立ち去った。


 あの二人は今頃、どんな話をしているのだろう。

 考えれば考えるほど、私の口元はニヤニヤと緩むのだった。

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