第13話 作戦決行
(彩音Side)
ある日の昼休み。
私と由奈は例の如く、中庭のベンチで一緒にお弁当を広げていた。
「そういえば、もうすぐ中間テスト始まるね」
私の言葉に、由奈は箸の手を止めて分かりやすく顔をしかめた。
「うっ……嫌だなぁ」
「あれれ? 由奈、さては自信ない感じ?」
「数学と英語がヤバいかも……」
「ねえ、そしたらさ。今度の土曜日に二人で勉強会しない?」
「勉強会? いいね」
私の提案に、由奈は何の疑いも抱かず素直に頷いた。
「じゃあ土曜の12時に、学校近くのファミレスで」
「一緒に頑張ろうね、彩音」
純粋に微笑む親友を見つめながら、私は心の中だけでニヤリと笑った。
(くっくっ……まずは網にかかったわ)
◇
約束の週末。
指定したファミレスへ向かうと、既に店の前で佇む由奈の姿があった。
淡い色のブラウスに、膝丈のフレアスカート。清楚さと可愛らしさが際立つ私服姿に、思わず目を奪われる。
ふぅん、なかなかカワイイじゃん……。
「由奈、お待たせ」
由奈がこちらを振り向く。
「彩音! 私も今来たところだよ」
「それじゃ、入ろっか」
二人で自動ドアをくぐり、店内へと足を踏み入れた。
ドリンクバーの奥にあるボックス席へ目を向けると、狙い通りの人物たちが座っていた。
「あれれぇ~? あそこにいるのって、もしかして……」
私は驚いたフリをしながら、スタスタと迷いのない足取りでその席へと近づいていく。
「うっそ~、的場君に里中君じゃない」
白々しく声をかけると同時に、私は的場と一瞬だけアイコンタクトを交わした。
「よお、三ケ森じゃん! 偶然だな!」
大袈裟なリアクションで乗っかってくる的場。その隣では急な展開に驚いた様子の里中君が、気まずそうにぺこりと頭を下げる。
「ど、どうも」
「もしかして、二人も勉強?」
机の上に広げられたノートと参考書に視線を落としながら尋ねると、的場が答えた。
「おう。学人に数学教えて貰ってたんだよ」
「そうなんだぁ。ねえ、よかったら私達も一緒していい?」
「もちろんいいぜ! 学人も問題ないよな?」
一瞬だけ戸惑ったように目を泳がせた里中君だったが、私と的場の圧に負けた彼は簡単に首を縦に振った。
「あ、ああ。俺は大丈夫……」
「やったぁ、お邪魔しま~す!」
私は入り口付近で立ち尽くしたままの由奈に声をかけた。
「ほら由奈、何してるの? 早くおいで!」
「えっ、由奈も……!?」
その名を耳にした瞬間、里中君は分かりやすく動揺した。
由奈がこちらへたどり着く前に、私はわざと彼の隣を陣取った。
「が、学人!? 偶然だね、こんなとこで……」
こちらも分かりやすい動揺を見せる由奈。似た者同士な幼馴染だこと。
しぶしぶといった様子で、彼女は的場の隣に腰を下ろした。
こうして私の用意した作戦はカッチリとはまり、奥手な二人の仲を深めるための勉強会が開幕した。
「ねえ由奈、私達も何か注文しよっか」
「あっ、そうだね」
私の言葉にうなずき、由奈は卓上のメニューを開いた。ちなみに、私の注文はもう既に決まっている。
メニューを畳みながら彼女が言う。
「じゃあ、私は和風パスタにしようかな」
「おっけー、私のと一緒に注文しとくね」
自分のスマホを取り出し、卓上のQRコードを読み取って手際よく注文を済ませる。
ほどなくして料理が運ばれてきた。
湯気を立てる和風パスタが由奈の前に置かれる。私の前にはあつあつのドリア、そしてきつね色に揚がった小エビのフライが運ばれてきた。
「里中君、エビは好き?」
「えっ、好きだけど……」
「よかったら一つどうぞ」
私は箸で小エビのフライを持ち上げると、彼に向けて差し出した。
「はい、あ~ん」
わざわざ大して好きでもない小エビを頼んだのは、まさにこのパフォーマンスをするためだ。
「え、えっ!?」
目の前に差し出されたフライと、私の顔を交互に見比べる里中君。
もしも私が辞書の編纂者なら、「しどろもどろ」の項目の挿絵に今の里中君の写真を採用するだろう。
ふと向かいに視線を遣れば、案の定、由奈の顔が分かりやすく曇っていくのが見えた。
「あ、あ~ん……」
私の圧に耐えかねた里中君が、覚悟を決めたように小さく口を開け、ぱくりと小エビを口にした。
その一部始終のさ中、由奈の皿の上では、パスタを巻き取ろうとするフォークが空中で虚しく空回りしていた。
こちらを見る目が完全に死んでいる。狙い通りだ。
(ほらほら由奈、もっと焦らないと。大事な幼馴染君がポッと出の泥棒猫に取られちゃうよ~?)
口元に浮かびそうになるニヤニヤを必死に噛み殺しながら、私は心の中で親友に語りかけた。
さあ、わが友・八枝由奈よ。
お前の反撃を見せてみろ。




