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覇道のトリニティ ~異世界の戦国を制した自衛官たち、世界の果てまで征く~  作者: ゆらゆら


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第五話:悪魔の塊(芋)と堺の豪商 ~未来の飢饉を叩き潰す戦略農政~


「近衛……お前、本気でそれを食うつもりか?」


堺の港に面した豪商・今井宗久いまいそうきゅうの屋敷の庭先。三宅輝は、土から掘り出されたばかりの「ゴツゴツとした不気味な褐色の塊」を指差し、引きつった顔で後ずさりした。


「失礼ですね三宅班長! これは『悪魔の塊』でも何でもありません! 人類史における最大の救世主……『ジャガイモ(馬鈴薯)』です!」


近衛聡子は、泥のついたジャガイモを両手で愛おしそうに掲げ、目を爛々と輝かせた。


時代は永禄年間(1560年代後半)。南蛮貿易の玄関口である堺の港には、スペインやポルトガルの南蛮船(ガレオン船)が頻繁に出入りしていた。彼らが南米ペルーから持ち込み、船員の「観賞用」あるいは「非常用の保存食」として船倉の片隅に転がされていたのが、このジャガイモであった。


当時の日本人にとっては「見た目がグロテスクで、芽に毒がある不気味な外来の根菜」に過ぎず、誰も見向きもしていなかった。


しかし、歴史オタクであり医療衛生担当の安藤一馬が、堺の豪商たちとの商談の場でこの「奇跡の作物」を発見した瞬間、自衛官三人衆の脳内に電撃が走ったのだ。


「三宅班長、バカにしちゃいけませんよ!」


安藤が鼻息を荒くして割り込んできた。


「ジャガイモの凄まじさは、僕たちのいた現代の歴史が証明しています! 米や小麦に比べて①単位面積あたりの収穫量が約三〜四倍、②冷害や寒冷地、日照照り(日照り)などの悪天候に異常に強い、③土質を選ばず痩せた土地でも育つ、④保存性が極めて高く、ビタミンCと炭水化物が豊富!……まさに最強の戦闘用ハイカロリー作物なんです!」


「さらに!」


聡子がバシッと指を突き立てた。


「日本の戦国時代から江戸時代初期にかけては、小氷期(地球規模の寒冷化)の影響で幾度となく大飢饉が発生します! 寒さに弱い米だけに頼る単一栽培モノカルチャー経済は、ひとたび冷害が起きれば数百万人が餓死し、軍隊の補給線は完全に崩壊します! 飢えは、いかに強力な自衛隊式近代兵器をもってしても防げない『最大の敵』なんです!」


三宅はハッと息を飲んだ。


レンジャー訓練において、食糧の途絶がいかに人間を無力化するか、嫌というほど叩き込まれていたからだ。


「……なるほどな。いくら軍資金があって近代兵器があっても、食う米がなくなれば兵士は暴動を起こし、領民は全滅する。だから京へ上洛し、全国へ影響力を及ぼす前に……『飢饉に負けない食料生産体制』を完成させるってわけか」


「その通りです! これぞ『戦国・絶対防空圏(ならぬ絶対防糧圏)構想』! 美味い飯で兵を太らせ、尾張ブランドで金を儲け、最後はジャガイモで『飢饉による国家崩壊』を物理的にシャットアウトします!」



「……ふーむ。今井どの、この近衛と申すおなごの言うことは本当か?」


豪華な畳敷きの大広間。上座に座る織田信長が、傍らに控える堺の豪商・今井宗久に問いかけた。


宗久は困惑したように揉み手をしながら答えた。


「は、はあ……。南蛮船の船乗りどもが持ってきたこの根っこは、あちらの国では『じゃがたたら(ジャガタラ)芋』などと呼ばれ、貧民が細々と食べているものと聞き及んでおります。味も素っ気もなく、価値など無いものとして、投げるように売られていたものでございますが……」


「投げるように売られていた!? 最高じゃないですか!!」


聡子が身を乗り出した。


「信長様! 堺にある南蛮船のジャガイモ、およびその種芋タネイモを、今井宗久様のルートを使って『底値で買い占め』てください! 金なら尾張ブランドの石鹸と化粧品の売上からいくらでも出せます!」


信長は顎を撫でながら、目をギラリと光らせた。


「近衛……その『じゃがたたら芋』とやらは、我が織田領の寒村や、山間部の痩せた土地でも育つのか?」


「育つどころの話ではありません! 芽が出た部分を包丁で切り分け、土に埋めておくだけで、数ヶ月後には一個の種芋から十数個の芋がゴロゴロと獲れます! 一年に二回(春と秋)収穫することも可能です! 米が獲れない貧しい村でも、この芋さえ植えさせれば、領民は絶対に餓死しません!」


安藤がさらに決定的な補足をした。


「信長様。領民が餓死しないということは、『年貢の未納が減り、安定した税収が維持できる』ということです。さらに、収穫したジャガイモを蒸して潰し、塩と味噌、乾燥させた肉と一緒に練り固めれば……先日開発した『安藤式ミリタリー・レーション(高カロリー保存食)』の原料として無限に活用できます!」


「……クックック」


信長から、低い笑いが漏れ出した。


信長は立ち上がると、宗久の前に歩み寄り、その肩をドンと叩いた。


「宗久!」


「は、ははっ!」


「堺に届いている、そしてこれから届く南蛮船の『じゃがたたら芋』を……一粒残らず我が織田家が買い取る! 値は幾らでも構わん、南蛮人どもには『尾張純白石鹸』と『美肌の滴』を望むだけ渡してやれ!」


「ははぁっ! かしこまりましてございます!」


宗久は平伏しながら、心の中で織田信長と、その横に立つ自衛官三人衆の「先見の明」に戦慄していた。他国の大名が鉄砲や硝石の買い付けに躍起になっている中、織田家は「誰も見向きもしない外来の芋」を買い占め、農業基盤そのものをアップデートしようとしているのだから。



堺での買い占めから数ヶ月。


美濃(岐阜)と尾張の各地には、三宅輝の指導のもとで構築された『織田家直轄・戦略農政試験場アグリ・ラボ』が建設されていた。


「いいか! ジャガイモの栽培で一番やっちゃいけないのは『芽のソラニン』の管理だ!」


作業着代わりに袖を捲り上げた三宅が、集められた農民や代官たちに向かって大声で指導していた。


「芋の芽が出ている部分と、緑色に変色した皮には毒がある! 調理する時は、この包丁のアゴを使って芽を綺麗にくじり取れ! これさえ守れば、絶対に当たらない(中毒を起こさない)!」


「三宅様! この芋、本当に土に埋めておくだけで芽が出てきますだ!」


農民の老人が、芽を出した種芋を手に興奮気味に叫んだ。


「そうだ! 一つの種芋を芽の位置に合わせて二つか四つに包丁で切り分けろ! 切断面には灰(木灰)を塗って腐敗を防ぐ! これを日当たりの良いうねに植えて、土をかぶせる! たったこれだけだ!」


三宅のレンジャー仕込みの徹底した手順化と、安藤の指導による「草木灰を用いた消毒・施肥技術」により、ジャガイモの増殖スピードは凄まじいものとなった。


春に植えた数千個の種芋は、秋には数十万個へと爆発的に増殖。さらにその数十万個を種芋として各地の「寒村」「山間部」「水はけの悪い土地」へ無償で配布させた。



「これ……本当に喰えるんかいな?」


美濃の山奥にある貧しい村。これまでは米が満足に獲れず、毎年冬になると餓死者を出していた村の村長が、蒸し上がったばかりのジャガイモを恐る恐る口に含んだ。


ホクホクとした食感。ほんのりとした甘みと、塩と味噌をつけることで際立つ濃厚な味わい。


「う……うまい……! うまいぞ、これ!!」


「お父体! お腹が……お腹がいっぱいになるよぉ!」


子供たちが笑顔でジャガイモにかぶりつく。村長はポロポロと涙を流しながら、清洲の方角へ向かって何度も拝んだ。


「織田の殿様は……神様だ。こんな魔法のようなお芋を、タダで村中に配ってくださるなんて……!」


「そうだ! 織田の殿様のために、わしらも骨を折るぞ! 織田家から戦の触れ(動員令)が出たら、うちの若い者たちを全員出すぞ!」


この「ジャガイモ革命」は、尾張・美濃の農民たちの意識を根底から変えた。


これまでの戦国大名にとって、農民は「年貢を絞り取る対象」でしかなく、大飢饉が起きれば見捨てられるのが常であった。しかし、信長(と自衛官三人衆)は、領民に飢えさせないための「具体的で美味しい解決策」を提示したのだ。


領民たちの織田家に対する忠誠心エンゲージメントは、他国の大名領とは比べものにならないほど強固なものとなっていた。



永禄十一年(1568年)秋。岐阜城・大広間。


広間の畳の上には、山のように積み上げられた黄金色のジャガイモと、それを使った新メニューの数々が並んでいた。


蒸しジャガイモにバター(南蛮から輸入した牛乳から安藤が精製)と醤油を垂らした『じゃがバター醤油』。


細切りにしたジャガイモと豚肉を甘辛く炒めた『戦国じゃが豚炒め』。


そして、潰したジャガイモに炒めた挽肉を混ぜ、衣をつけて揚げた『特製・織田コロッケ』である。


「むぐ……むぐ……! う、美味い! 美味すぎるぞ近衛!」


柴田勝家が、熱々のコロッケをハフハフと口に張り張りさせながら叫んだ。サクサクとした衣の食感と、中のホクホクとしたジャガイモ、挽肉の旨味が口いっぱいに広がる。


「この『ころっけ』というものは何だ!? 外は香ばしく、中はトロリと甘い! いくらでも食えるぞ!」


「権六、行儀が悪いぞ」


丹羽長秀が苦笑しながらも、自身も『じゃがバター醤油』を上品に口へ運んだ。そして、その濃厚な味わいに目を細めた。


「ですが上様……これは凄まじいことです。本年の美濃の一部で起きた日照りにもかかわらず、この『じゃがたたら芋』のおかげで、一人の餓死者も出ておりませぬ。それどころか、収穫量は例年の二倍以上……! 兵糧庫は溢れんばかりでございます!」


長秀が大福帳を広げて報告する。


「さらに、安藤どのの指導により、この芋を乾燥・粉末化した『ポテトフランク(馬鈴薯粉)』の大量備蓄が完了しました。これにより、我が軍は『三年間の大飢饉が起きてもビクともしない絶対的な兵糧基盤』を確立いたしました!」


「三年間の大飢饉でも……か」


信長は、手にした『じゃがバター』をゆっくりと咀嚼し、その味を噛み締めた。


信長の頭脳の中で、すべてのピースが完璧に組み合わさっていく。


【飯】自衛隊式高栄養食とカレーで、兵士の肉体を最強のコンディションに仕上げた。

【金】尾張ブランドの石鹸・化粧品で、日本中の金を吸い上げる経済覇権を握った。

【兵器】高度な野戦陣地トレンチと、高精度火縄銃&工兵用爆雷で、無傷の勝ちパターンを確立した。

【農政】ジャガイモの増殖により、冷害や飢饉による国家崩壊の懸念を完全に払拭した。


「……ふ」


信長の口元から、不敵にして絶対的な覇者の笑みが漏れ出た。


「完璧だ。内政、経済、兵糧、軍事……何一つとして隙がない。我が織田軍は、歴史上のいかなる大名も到達し得なかった『完全無欠の国家組織』へと進化した」


信長は立ち上がり、背後の大きな日本地図を見つめた。


地図の中央に位置する「京都」。そして、その先に広がる西国、東国、さらには海の向こうの大陸。


「近衛、安藤、三宅」


「ハッ!」


三人組が直立不動で敬礼する。


「時が来た。足利義昭あしかがよしあきからの上洛の要請を受諾する。……我が全軍をもって、京へ進撃するぞ!」


了解アイアイサー!!」


聡子はギラギラとした瞳で叫んだ。


「待ってました信長様! 兵糧も弾薬も山ほどあります! 立ち塞がる三好三人衆も、六角承禎ろっかくじょうていも、我が『近代化機械化歩兵&ジャガイモ軍団』の足元に踏み潰してあげましょう!」


「お前、軍団の名前にジャガイモを入れるなよ……」


三宅が小声で突っ込んだが、その顔には確固たる自信が満ちていた。レンジャーとしての生き残り術が、いまや「一国の軍隊を無傷で勝利に導く絶対的な術」へと昇華しているのだ。


安藤も、救護嚢を肩にかけ直し、頼もしく頷いた。


「京に入るにあたり、街の防疫(コレラや赤痢の予防)と、衛生環境の改善計画もバッチリ立ててあります。戦う前から勝てる体制は整っていますよ!」


信長は豪快に羽織を翻した。


「全軍に伝えよ! 兵糧にはたっぷりと『じゃがたたら芋』と『肉味噌』を持たせよ! 腹を満たし、牙を研ぎ澄ました織田の狼どもを解き放つ! いざ……京の都へ!!」


「「「オォォォォォッ!!!」」」


清洲と岐阜の地に響き渡る、勝どきの声。


飯を制し、金を制し、ついに「飢餓」すらも科学と戦略で叩き潰した自衛官三人衆と織田信長。


不敗の補給線と圧倒的な兵器を携えた「最強の近代化織田軍」が、ついに日本の中心・京都を目指して怒濤の大進撃を開始するのだった。

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